国際

日曜スクープ

2026年1月8日 12:00

米国ベネズエラ攻撃で中国の影響力排除も トランプ戦略を踏まえ中国は対日強硬策か

米国ベネズエラ攻撃で中国の影響力排除も トランプ戦略を踏まえ中国は対日強硬策か
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トランプ政権は1月3日、南米ベネズエラを攻撃し、マドゥロ大統領を拘束した。これに先立ち、米国は国家安全保障戦略で「西半球重視」を打ち出していたが、専門家は、中南米での中国の影響力を排除する狙いもあると分析する。さらに中国の日本への強硬策は、米国の「西半球重視」を踏まえての対応との指摘も。2026年の国際情勢を読み解く。

1)「ハイリスク」のベネズエラ攻撃 中国の影響力“排除”の狙いも

ベネズエラのマドゥロ氏は2013年から大統領を務め、反米の立場をとってきた。一方、トランプ政権は麻薬対策を理由として去年9月以降、カリブ海などで麻薬運搬船への攻撃を繰り返してきた。そのベネズエラの首都カラカスで1月3日未明、米軍は軍事施設を攻撃した。

トランプ大統領は、マドゥロ大統領夫妻を拘束したことを明らかにし、記者会見で「アメリカ史上、最も衝撃的で、効果的かつ強力な軍事力を誇示した」と強調した。ジョセフ・クラフト氏(経済・政治アナリスト)は、「トランプ政権は大きなリスクをとった」と指摘する。

カラカスで複数回の爆発音
カラカスで複数回の爆発音
今回の作戦でマドゥロ氏の拘束に失敗し、米軍兵士が死に至るようなことがあればトランプ氏の政治生命は終わりかねなかった。そのリスクを取ったトランプ政権は、初めて「ブーツ・オン・ザ・グラウンド」、つまり、地上部隊を派遣し兵士を陸に置いた。トランプ大統領の軍事的資質がワンランク上がったように見える。注視しなくてはならない。

秋田浩之氏(日本経済新聞 本社コメンテーター)も米国のリスクを指摘しつつ、中国の影響力を排除する狙いもあると分析する。

昨年12月にワシントンに1週間ほど滞在し、なぜベネズエラに軍事圧力を強めるのか、トランプ政権に近い専門家10人余りを取材した。その中で出てきたのは、西半球、南北アメリカを安全にしたいことだが、もう一つ、ベネズエラやパナマといった国々への中国の浸透を排除したいことだ。特にベネズエラの原油はかなりの部分が中国に渡っている。トランプ政権からすれば、このままいけば目と鼻の先にある最大の原油埋蔵量を持つ国が、完全に中国の影響下に置かれてしまうと。これまでトランプ氏はグリーンランドやパナマ支配に意欲を見せてきたが、ベネズエラも含めいずれも西半球で、米国が“裏庭”とみなす地域。そういった地域に中国の影響が入ることは許さないという決意を示したかったのだと思う。
ただ、アメリカという海洋国家は陸地に上がると上手くいかない。これまでの歴史が示している。ベトナム戦争、イラク戦争、アフガニスタンの戦争。いずれも全部負けたか失敗した。

2)「国際法違反」批判に米国の“論理”は… 懸念される“今後”

国連のグテーレス事務総長は「国際法の規範が尊重されなかったことに深い懸念を抱いている」との声明を発表。国連憲章では「すべての加盟国は、その国際関係において、武力による威嚇又は武力の行使を、慎まなければならない」としている。

国連事務総長が懸念
国連事務総長が懸念

ジョセフ・クラフト氏(経済・政治アナリスト)は、ベネズエラの適切な政権移行まで「我々が国を運営する」としたトランプ氏の発言に、国際法違反を否定する意図があると指摘する。

アメリカ側の立場としては、一つの国の主権に介入したのではなく、アメリカ法で既に起訴されている“一人の男”を逮捕しただけであると。彼は正当な大統領ではない、という主張だ。36年前の1月3日、アメリカはパナマに侵攻。当時のノリエガ将軍を同じように麻薬に対する罪で拘束している。その際も、表向きは犯罪者を捕まえるという建付けだった。会見でトランプ氏は、“統治govern”という言葉は使わずに、あくまで“運営run”という言葉を使っている。“運営”という言葉は主権介入を意味せず、国際法には違反しないと。すかさずルビオ長官が「マドゥロ氏の逮捕が目的であり、ベネズエラ政権の転覆ではない」と、もう一回釘を刺したのは、国際法に触れないためだ。
ベネズエラの現政権とは国家の運営をディールしたように見受けられ、副大統領のロドリゲス氏が暫定大統領となった。ただ、本当にベネズエラを上手く運営できるのかは、非常に不透明だ。
トランプ大統領
トランプ大統領

秋田浩之氏(日本経済新聞 本社コメンテーター)は「こういう問題が起きた時に大切なのはコモンセンスだ」として、今後の影響を懸念する。

パナマの件と同様、今回も国内法に基づいて犯罪者を連れてきたという説明だが、もしもこれがまかり通ると、例えばロシアが国内法で反体制派を起訴して、隣国に工作員を送って連れ戻しても批判できなくなる。私が去年、バルト3国に行くと、ロシアの反体制派の人たちが逃げてきていた。あるいは、例えば中国がアメリカなどに“警察署”のようなものを作ることも、反体制活動家を監視して捕まえると西側社会は批判してきたが、今回のアメリカの行動は仕方がないとなると、コモンセンスとしては、今後はそういった批判ができなくなる。
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3)米国の戦略を踏まえ中国が対日強硬策か 日本にとって重要な対策は?

トランプ政権は今回のベネズエラ攻撃に先立ち、昨年12月、国家安全保障戦略を公開。その中では「アメリカは我々の安全と繁栄の条件として、西半球において卓越した地位を確立しなければならない」として「西半球重視」を打ち出していた。

「国家安全保障戦略」の要旨
「国家安全保障戦略」の要旨

秋田浩之氏(日本経済新聞 本社コメンテーター)は、中国がこうしたトランプ政権の戦略を踏まえ、対日政策を変容させていると分析する。

中国は、トランプ政権が中国に対抗して強硬な政策を取るのではなく、自分と対等に交渉してディールしたいのだと捉えていると思う。舞台裏を取材して感じるのは、中国の対日政策が急激に変わってきたことだ。去年の初め、まだトランプ政権が何をするかわからない時から夏の後半ぐらいまでは、日本に対して実は中国は非常に気を使っていた。与党訪中団も受け入れ、様々な局長級の協議、対話も再開していた。さらには、年内に日中韓首脳会議を東京で開催することも反対していなかった。
ところが、秋ごろから急激に対話に慎重になり始めた。10月に習近平国家主席とトランプ氏の首脳会談がAPECで会談した際、中国側は「トランプ氏とG2でできる」と思った、日本を叩いてもアメリカから圧力を受ける懸念がないとみて、日本に配慮する必要はないと判断したのだろう。その直後に高市総理の台湾発言が出たこともあり、180度転換して、むしろ徹底的に叩いても大丈夫だとして、今に至っている。

ジョセフ・クラフト氏(経済・政治アナリスト)は、日本が現状をチャンスととらえ、多国間の連携を進める必要性を説く。

現在のアジア安全保障における中国、米国、日本の関係性を、ウクライナ侵攻の米・ロ・ウに置き換えれば、日本はウクライナ的存在だ。しかし、ウクライナが一方的にすべてトランプ氏の言うことを飲まされている、あるいは、ロシアの言いなりになっているかと言うと、そうではない。なぜか。ウクライナはウクライナなりにトランプ氏とディールし、トランプ氏の気持ちを近づけている。あるいはヨーロッパなどの、他国と結託してディールを持ちかけている。
日本もディールを仕掛けていけばいい。例えば、3月に5,500億ドルの投資の第1号案を発表する、あるいはASEAN、韓国、オーストラリアと結託してアジア安全保障で中国と対峙する。現状は日本にとって劣勢だが、日本がリーダーシップを発揮するチャンスでもある。おそらく他のアジア諸国は、日本のように我々も中国から同じ目に遭わされるリスクがあると考えている。表立っては言えないが、日本に同情している部分がある。これをどう囲い込むかだ。

番組アンカーの末延吉正氏(ジャーナリスト/元テレビ朝日政治部長)は、日本の持ち味である経済を活かしながらの対応も重要と強調した。

インドも含め、オーストラリア、フィリピン、韓国といった多国間での連携を進め、中国に向き合う。そこでリーダーシップをとるのは非常に重要。そうすることで抑止力を高めながら、一方で日本の持ち味は経済。アメリカと上手く行く形で、投資に民間を巻き込んでいく必要がある。もっと実利的な議論を国会でも進め、政策決定をしてほしい。現状をあまり悲観的にとらえずに、抑止力の構築と経済の復活に官民一体で挑み、デフレで萎えてしまった気持ちを前に向けることが大切だ。

(「BS朝日 日曜スクープ」2026年1月4日放送より)

<出演者プロフィール>

秋田浩之(日本経済新聞 本社コメンテーター。北京、ワシントンに駐在経験。オピニオン面『Deep Insight』 外交・安全保障を担当。国際情勢の分析、論評コラムなどでボーン・上田記念国際記者賞受賞)

ジョセフ・クラフト(東京国際大学副学長。投資銀行などで要職を歴任。米政治経済の情勢に精通。米国籍で日本生まれ)

末延吉正(元テレビ朝日政治部長。ジャーナリスト。東海大学平和戦略国際研究所客員教授。永田町や霞が関に独自の多彩な情報網を持つ。湾岸戦争などで各国を取材し、国際問題にも精通)

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