アメリカのトランプ政権による、ベネズエラ・マドゥロ大統領の拘束について、多くのメディアや専門家は「石油資源の獲得」が目的ではないかと指摘している。加えて、ベネズエラは地政学的リスクも高まっている。
地政学とは、地理的な条件が国際的な政治情勢や経済、戦略に与える影響を分析する学問を指す。ロシアのウクライナ侵攻、台湾海峡情勢、イランや北朝鮮の核開発など、国際情勢を分析する上でしばしば使われる用語だ。『ABEMA Prime』は、トランプ大統領が地政学的な理由から注目しているとされる「西半球」について、専門家に聞いた。
■地政学的に見るトランプ氏の動き

日米の安全保障に詳しい明海大学教授の小谷哲男氏が、このところ“地政学”が注目される理由を説明する。「冷戦終結時には世界平和が予想されていたが、実際はそうではなかった。世界の紛争はアメリカ(東側)とソ連(西側)の冷戦により抑えられていたが、終結により領土を広げようとする国が増えてきたためだ。その代表例が中国とロシア。地政学は、領土を広げる“縄張り争い”である」。
マドゥロ氏の拘束については、「アメリカはベネズエラの麻薬製造を理由にしているが、世界最大の石油埋蔵量を誇るベネズエラの利権を押さえる狙いもあるだろう。そして、最大の理由は、ベネズエラが反米で、同じく反米のロシアやイランと関係が深いこと。軍が持つ兵器は、ほぼロシア製か中国製で、それによる攻撃を防ぐために軍事攻撃を行った」と推察する。
本初子午線(経度0度)を境目に、北米や中南米は「西半球」、ヨーロッパやアジア、アフリカ、ロシア、オーストラリアは「東半球」と位置づけられる。「アメリカも南米諸国もヨーロッパから独立した国だ。19世紀前半、東半球と決別し、西半球を1つと考える“モンロー主義”が生まれた」。
そして、この考えを踏襲するトランプ氏は「西半球にあるベネズエラが、東半球の影響を受けているのは許せない」として、「西半球防衛の観点から攻撃し、ベネズエラをいわばアメリカの一部にした」とする。
アメリカはベネズエラをどうしたいのか。「トランプ政権はベネズエラ攻撃後に、『西半球にはアメリカに友好的な国だけを作る』『西半球で資源を自給できる体制を作る』と明言した。ベネズエラへの攻撃は『他の反米左翼国も、従わないと同じ目に遭うぞ』という見せしめで、実際にコロンビア大統領がトランプ氏と話すことになったなど、『反米政権をやめろ』と言える環境を整えた」。
■西半球はアメリカの“シマ”?

地理研究者で同志社大学大学院教授の内藤正典氏によると、「“西半球”はアメリカの戦略によく出てくる言葉だが、ヨーロッパでは自身を“東半球”とは呼ばない。トランプ氏は今回、北のグリーンランドから南のチリやブラジルまで、一緒くたに『うちのシマだ』と言っている」という。「本初子午線は、たまたまグリニッジ天文台で引かれただけだ。『ここより西はアメリカが影響力を及ぼしていい』といった根拠など、最初から存在しない」。
北にあるグリーンランドは、アメリカと中国、ロシアの間に位置している。「極北の地で氷に覆われているが、温暖化が進むと地表面が出て、鉱物資源の開発が進められる。そこでトランプ氏は『先に占有してしまえ』と、持ち主であるデンマークと売買交渉を始め、デンマークはEU(欧州連合)に泣きついた」と解説する。
一方で、「なぜグリーンランドをデンマークが持っているのか」も考えるべきだと語る。「植民地だった名残で自治権を与えたが、現実にはグリーンランド自治政府は、あらゆることをデンマーク政府と協議しなければならないため、住民の8割方は独立したいと思っている。ただし同時に、アメリカによる支配も嫌がっているため、慎重に見ないといけない」。
そこで重要となるのが、当事者であるグリーンランド住民の意思であり、「外からの議論が乱暴すぎる。トランプ氏も、デンマークも、その支配の仕方が褒められるかは別の問題だ。日本人としては冷静に見た方がいい」と指摘する。
■ベネズエラ攻撃は大国アメリカの焦りか

大国の理屈で物事が動く現状について、小谷氏は「日本も地政学的な発想から、第2次世界大戦で“大東亜共栄圏”を作り、領土と資源を奪おうとした。そして戦後、アメリカを中心に『国の大小に関係なく、国際ルールのもと、話し合いで解決しよう』となり、過去80年近く続けてきた」と振り返る。
しかし「中国やロシアは『奪われた(と思っている)領土を取り戻したい』と、過去20年近く領土拡大に動いていた」という。「アメリカは当初、国際ルールが大事だと言っていたが、トランプ政権になって『力が正義だ。アメリカも好きなことをやっていい』と考えるようになり、国際秩序が揺らぎ始めている」。
その変化を「これまでもアメリカが『自分の利益に沿わない』と無視してきたことはある。イラク戦争が代表例だ。ただ、国際法を破る行動を取る時でも、なんとか正当化する努力をしていた。トランプ政権はその努力さえしていない」と語る。
元朝日新聞政治部でジャーナリストの鮫島浩氏は、「アメリカは『世界の警察官』と呼ばれ、全世界を守るような幻想もあったが、中国やインドの台頭で、相対的な強さを失った。今回驚いたのは、誰もそう思っていないのに『麻薬捜査だ』と開き直ったこと。国際法や自衛権を説明する努力もなく、台湾に対する中国や、ウクライナに対するロシアと同じ論理になっている」と考えている。
また今後の展開として、「トランプ氏が退任してもなお、アメリカの利益を守ろうと『西半球は俺のシマだ。代わりにアジアやヨーロッパは好きにしていい』となると、日本はどうするのか。アメリカに守ってもらえると思っていたが、西半球に引きこもるかもしれない。逆に中国とロシアの裏取引を好きにやっていいとなると、パンドラの箱が開く。左右を超えて自国を守るにはどうするか、考えざるを得ない」と懸念を示した。 (『ABEMA Prime』より)