トランプ政権によるベネズエラへの攻撃で、不安と緊張が広がっている。強圧的な姿勢で主導権を奪う、その矛先は西半球に位置する中南米諸国やグリーンランドにとどまらない。“次のベネズエラ”はありうるのか。
1)トランプ政権グリーンランドに野心…NATO加盟国も“恫喝”
1月9日、トランプ大統領は「アメリカが行動しなければ、ロシアか中国にグリーンランドを支配されてしまう。デンマークとは穏便な方法で合意したいが、できなければ強硬な手段に出る」と発言した。グリーンランドを自治領とするデンマークは、フレデリクセン首相が「グリーンランドに対し軍事行動を選ぶなら、NATOを含め第2次世界大戦終結以降に築かれてきた安全保障体制と、戦後秩序が終わる」と警鐘をならす。
小谷哲男氏(明海大学教授)は、「もともとグリーンランドは、長男のドンジュニア氏らトランプファミリーが重視している」と指摘した上で、政権内部の状況を読み解く。
NATOは集団防衛体制で、外敵に対する備えであり、内部で、他の加盟国が攻撃することは想定していない。そんなことが起こるのか疑問はあるが、ベネズエラの件もあり、トランプ氏は何をやるかわからないという不安が広がっているのは間違いない。
鈴木一人氏(東京大学公共政策大学院教授)は、“トランプ流”交渉術を以下のように分析する。
杉田弘毅氏(ジャーナリスト/元共同通信論説委員長)は、1次政権時の対応を踏まえつつ分析を重ねる。
1次政権時にはできなかった軍事介入をベネズエラで今回実行したところを見ると、グリーンランドへの軍事オプションも否定はできないが、グリーンランドに関しては何らかの条約的な関係を締結し、アメリカの関与が強まる方向で決着していきたいのではないか。
2)“次のベネズエラ”は?「建国250周年」前に圧力強化か
トランプ政権は隣国メキシコにも圧力を強化。トランプ氏は「メキシコを支配しているのはカルテルだ。麻薬組織に対する地上攻撃をこれから開始する」と述べ、メキシコ側の同意なしに軍事行動に踏み切る可能性に言及した。
小谷哲男氏(明海大学教授)は「ベネズエラを“見せしめ”にして、その他の中南米の政権にも、反米姿勢を改めるよう圧力をかけていく」と分析する。
トランプ氏の頭の中にあるのは、今年の7月4日、独立宣言から250年という大々的なセレモニーの計画だ。そこで、自分がアメリカファーストを実現した歴史上最も偉大な大統領とアピールする。そのための様々な布石を打っており、ベネズエラは、おそらくその一つ。上手くいけば中間選挙にもプラスと計算をしているはずだ。
鈴木一人氏(東京大学公共政策大学院教授)は、他国に圧力をかけるトランプ政権の“行動原理”を以下の通り分析をする。
本当に軍事行動をとれば、その分コストがかかる。さらに米軍に犠牲者が出れば全く別の局面となる。建国250周年のセレモニーにも、中間選挙にも非常にネガティブだ。中南米を従わせたい、さりとて米軍の犠牲は出したくない。この間をとる形で対応が決まるのでは。
杉田弘毅氏(ジャーナリスト/元共同通信論説委委員長)は、中南米だけではなく北朝鮮やイランにもトランプ政権が策を講じる可能性を指摘した。
30数年前私がテヘラン駐在をしていた当時と比べ、イランでは明らかにデモが起きる頻度が高まっている。デモとデモの間のインターバルが短くなって、さらに過激化しているのは体制が揺らいでいる現れだ。最高指導者のハメネイ氏も86歳。そろそろ世代交代という話が現地でも出てきている。トランプ政権は、この体制の揺らぎを機会として捉え、反米的な体制から親米あるいはより中立的な体制に何らかの方法で転換し、イランの問題を除去したい。今後、様々な圧力をかけていくはずだ。
3)“デモ激化”イランにも介入示唆 昨年は核施設攻撃…今後は?
イランでは経済状況の悪化を受けデモが激化。米国を拠点とするイランの人権団体は10日時点で少なくとも116人が死亡したと明らかにしている(デモ関連の死者は増大し、13日、3000人に上ったとの報道)。トランプ大統領は介入を示唆し、1月8日にも「治安部隊がデモ参加者を殺害した場合、イランを攻撃する」と改めて警告した。米国は昨年6月もイランの核施設を攻撃している。
鈴木一人氏(東京大学公共政策大学院教授)は、ここまで民衆の運動が強まると、アメリカが介入することで、逆に反米ムードが強まる恐れもあると指摘しつつ、今後の展開を分析した。
小谷哲男氏(明海大学教授)は、イラン問題でもトランプファミリーの意向を指摘する。
杉田弘毅氏(ジャーナリスト/元共同通信論説委員長)も「トランプ氏は内政が上手くいかない状況で今年に入って急速に外交での強硬策に舵を切っている感がある」と指摘し、イランについては「実際に国を動かしている革命防衛隊なり統治機構はそのまま残すが、宗教指導者については影響力を後退させるという、ベネズエラ同様の“中間着地点”をトランプ政権は探っているのではないか」と予測した。
(「BS朝日 日曜スクープ」2026年1月11放送より)
<出演者プロフィール>
鈴木一人(東京大学公共政策大学院教授。専門は国際政治経済学。財政・外交情報に精通。著書に「資源と経済の世界地図」(PHP研究所)など関連は多数)
小谷哲男(明海大学教授。米国の外交関係・安全保障政策の情勢に精通。「日本国際問題研究所」研究主幹。)
杉田弘毅(ジャーナリスト。21年度「日本記者クラブ賞」。明治大学特任教授。共同通信でワシントン支局長、論説委員長などを歴任。著書に「国際報道を問い直す-ウクライナ紛争とメディアの使命」(ちくま書房)など)






