国際

日曜スクープ

2026年1月16日 12:00

次のベネズエラは?トランプ政権が繰り返す“軍事介入”示唆 覇権狙う政権の実情は

次のベネズエラは?トランプ政権が繰り返す“軍事介入”示唆 覇権狙う政権の実情は
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トランプ政権によるベネズエラへの攻撃で、不安と緊張が広がっている。強圧的な姿勢で主導権を奪う、その矛先は西半球に位置する中南米諸国やグリーンランドにとどまらない。“次のベネズエラ”はありうるのか。

1)トランプ政権グリーンランドに野心…NATO加盟国も“恫喝”

1月9日、トランプ大統領は「アメリカが行動しなければ、ロシアか中国にグリーンランドを支配されてしまう。デンマークとは穏便な方法で合意したいが、できなければ強硬な手段に出る」と発言した。グリーンランドを自治領とするデンマークは、フレデリクセン首相が「グリーンランドに対し軍事行動を選ぶなら、NATOを含め第2次世界大戦終結以降に築かれてきた安全保障体制と、戦後秩序が終わる」と警鐘をならす。

小谷哲男氏(明海大学教授)は、「もともとグリーンランドは、長男のドンジュニア氏らトランプファミリーが重視している」と指摘した上で、政権内部の状況を読み解く。

デンマーク
グリーンランドについては、1期目のトランプ政権時も購入を目指したが、政権関係者が追従せず立ち消えた。2期目が始まる際、グリーンランド購入に再び言及した時は、1期目に触れなかった「国家安全保障上の理由」が付け加えられたが、昨年12月に発表した米国の国家安保戦略はグリーンランドに一言も触れていない。当初、この問題に言及しなかった政権高官たちが、年末年始にかけて次々にグリーンランドを入手すると言い始めたが、おそらくトランプ氏がかなり本気で忖度し始めたのが実態だ。
NATOは集団防衛体制で、外敵に対する備えであり、内部で、他の加盟国が攻撃することは想定していない。そんなことが起こるのか疑問はあるが、ベネズエラの件もあり、トランプ氏は何をやるかわからないという不安が広がっているのは間違いない。
小谷さん

鈴木一人氏(東京大学公共政策大学院教授)は、“トランプ流”交渉術を以下のように分析する。

現実的な問題として、グリーンランド、ひいてはデンマークに軍事力を行使することは考えにくい。それでも「やるかもしれない」と脅す。ありえない発言等を繰り返すことで、相手に譲歩、妥協案を用意させることを“マッドマンセオリー”と言うが、何をしでかすかわからないことが、不確実性を強め「もしかしたら」と思わせる。そうすることで、相手に「一時金でも戦争するよりはいいか」と思わせるよう誘導する。不動産取引で培ってきた、交渉のやり方なのだろう。
グリーンランド

杉田弘毅氏(ジャーナリスト/元共同通信論説委員長)は、1次政権時の対応を踏まえつつ分析を重ねる。

1次政権時、途中まで国家安全保障問題担当の大統領補佐官を務めていたジョン・ボルトン氏が、最近ポッドキャストなどで1次政権当時もベネズエラについてはかなりコミットしていたと発信している。反体制派のデモが起こり、そこにベネズエラの軍が加わるというシナリオを描いていたが、上手く行かなかった。当時はアメリカ軍が介入する機も熟さなかったと。さらに、グリーンランドについても「1次政権時に十分検討をしたが、軍事オプションはゼロだった」と言っていた。
1次政権時にはできなかった軍事介入をベネズエラで今回実行したところを見ると、グリーンランドへの軍事オプションも否定はできないが、グリーンランドに関しては何らかの条約的な関係を締結し、アメリカの関与が強まる方向で決着していきたいのではないか。
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2)“次のベネズエラ”は?「建国250周年」前に圧力強化か

トランプ政権は隣国メキシコにも圧力を強化。トランプ氏は「メキシコを支配しているのはカルテルだ。麻薬組織に対する地上攻撃をこれから開始する」と述べ、メキシコ側の同意なしに軍事行動に踏み切る可能性に言及した。

メキシコ

小谷哲男氏(明海大学教授)は「ベネズエラを“見せしめ”にして、その他の中南米の政権にも、反米姿勢を改めるよう圧力をかけていく」と分析する。

今回のベネズエラは「麻薬対策」という名目だが、麻薬ではコロンビア、メキシコの方がアメリカに直接的な影響を与えている。コロンビアはすでに大統領がトランプ氏と会談する方向だ。メキシコについてはフェンタニルという、今、アメリカで最も深刻な麻薬の流入元として問題視し、関税を使って圧力をかけてきた。ベネズエラが上手くいったことで、メキシコにもという可能性は否定できない。
トランプ氏の頭の中にあるのは、今年の7月4日、独立宣言から250年という大々的なセレモニーの計画だ。そこで、自分がアメリカファーストを実現した歴史上最も偉大な大統領とアピールする。そのための様々な布石を打っており、ベネズエラは、おそらくその一つ。上手くいけば中間選挙にもプラスと計算をしているはずだ。

鈴木一人氏(東京大学公共政策大学院教授)は、他国に圧力をかけるトランプ政権の“行動原理”を以下の通り分析をする。

地図
ベネズエラの軍事作戦は、アメリカ軍に極力犠牲が出ない形で行われ、ベネズエラの体制自体には直接手をつけなかった。コロンビアのペトロ大統領は訪米が決まったが、麻薬の問題に国内で対応できるのであれば直接攻撃はしないということで、アメリカに忠誠を誓うのだろう。メキシコに対しても、まずは軍事的な脅しをかけ、それが嫌なら、麻薬組織を潰し、対処せよと求めている。 
本当に軍事行動をとれば、その分コストがかかる。さらに米軍に犠牲者が出れば全く別の局面となる。建国250周年のセレモニーにも、中間選挙にも非常にネガティブだ。中南米を従わせたい、さりとて米軍の犠牲は出したくない。この間をとる形で対応が決まるのでは。

杉田弘毅氏(ジャーナリスト/元共同通信論説委委員長)は、中南米だけではなく北朝鮮やイランにもトランプ政権が策を講じる可能性を指摘した。

トランプ氏の今回の行動を見ると、1次政権でやろうとしたが準備が整わなかった、あるいは、1次政権でトランプ氏に反対した“大人の人たち”と言われる安全保障関係のエキスパートを排除して、2次政権ではやりたいことを一つずつやろうとしていると感じる。そう考えると、今後、1次政権で完遂できなかった北朝鮮やイランの問題を何とかするのではないか、と考えざるを得ない。
30数年前私がテヘラン駐在をしていた当時と比べ、イランでは明らかにデモが起きる頻度が高まっている。デモとデモの間のインターバルが短くなって、さらに過激化しているのは体制が揺らいでいる現れだ。最高指導者のハメネイ氏も86歳。そろそろ世代交代という話が現地でも出てきている。トランプ政権は、この体制の揺らぎを機会として捉え、反米的な体制から親米あるいはより中立的な体制に何らかの方法で転換し、イランの問題を除去したい。今後、様々な圧力をかけていくはずだ。

3)“デモ激化”イランにも介入示唆 昨年は核施設攻撃…今後は?

イランでは経済状況の悪化を受けデモが激化。米国を拠点とするイランの人権団体は10日時点で少なくとも116人が死亡したと明らかにしている(デモ関連の死者は増大し、13日、3000人に上ったとの報道)。トランプ大統領は介入を示唆し、1月8日にも「治安部隊がデモ参加者を殺害した場合、イランを攻撃する」と改めて警告した。米国は昨年6月もイランの核施設を攻撃している。

イラン

鈴木一人氏(東京大学公共政策大学院教授)は、ここまで民衆の運動が強まると、アメリカが介入することで、逆に反米ムードが強まる恐れもあると指摘しつつ、今後の展開を分析した。

昨年6月のイラン攻撃の際、アメリカは最後にイスラエルの要請に従ってバンカーバスターを落とした。「仕上げはやるけれども、あとはイスラエルがやってくれ」という側面があった。今回の場合は、イラン国内で内発的に進んでいるデモだ。革命防衛隊等からの弾圧が強まったとき、中東地域の国々を動かして介入させていく方がより効果的だ。もうすでにデモ参加者が殺害されているので、トランプ氏の言葉が本当であれば既にアメリカは攻撃を始めるはずだが、実際は行っていない。

小谷哲男氏(明海大学教授)は、イラン問題でもトランプファミリーの意向を指摘する。

トランプ氏は引き続きイランと核合意を結びたい。何よりもディールが目的なので、今のイランの指導者と交渉し、核を放棄させることが一番の望みだろう。イランの問題に関しての“カギ”は、娘婿のクシュナー氏で、発言力、影響力は相当強い。今はもうすでに中東問題に事実上の特使として関わっている。彼はイスラエルのネタニヤフ首相などと連携をして、できればイランの体制を崩壊させたいと考えている。その辺りの話も聞いたトランプ氏が 一連のツイートをしたということだろう。

杉田弘毅氏(ジャーナリスト/元共同通信論説委員長)も「トランプ氏は内政が上手くいかない状況で今年に入って急速に外交での強硬策に舵を切っている感がある」と指摘し、イランについては「実際に国を動かしている革命防衛隊なり統治機構はそのまま残すが、宗教指導者については影響力を後退させるという、ベネズエラ同様の“中間着地点”をトランプ政権は探っているのではないか」と予測した。

(「BS朝日 日曜スクープ」2026年1月11放送より)

<出演者プロフィール>

鈴木一人(東京大学公共政策大学院教授。専門は国際政治経済学。財政・外交情報に精通。著書に「資源と経済の世界地図」(PHP研究所)など関連は多数)

小谷哲男(明海大学教授。米国の外交関係・安全保障政策の情勢に精通。「日本国際問題研究所」研究主幹。)

杉田弘毅(ジャーナリスト。21年度「日本記者クラブ賞」。明治大学特任教授。共同通信でワシントン支局長、論説委員長などを歴任。著書に「国際報道を問い直す-ウクライナ紛争とメディアの使命」(ちくま書房)など)

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