タイでは8日、下院の総選挙の投開票が行われ、アヌティン首相が率いる政権与党が第1党となった。一方、若者を中心に支持を集めていた革新系の政党は躍進とはならなかった。
「新時代が来る」と期待も
「次世代の人間として新しい風がほしいです」
「変化を望んでいます。古い体制から脱却してほしい」
8日、タイで政権選択選挙となる総選挙が行われた。そもそも、そのきっかけとなったのが、去年6月に発覚したタクシン元首相の次女で、当時首相だった「タイ貢献党」ペートンタン氏のこの発言だった。
国境紛争中のカンボジア、フン・セン前首相を「おじさん」と呼び、親しげに語る電話音声が流出。さらに、軍司令部を批判していたことも明らかになり、国民の怒りが噴出し政権は崩壊した。
混乱の中で政権を引き継いだのが、保守系政党「タイの誇り党」のアヌティン氏だ。国民に権力を取り戻すとして、選挙に突入した。
選挙戦は、三つどもえとなった。暫定的に政権を引き継いだアヌティン氏率いる保守系のタイの誇り党。ペートンタン氏の失脚後も強固な支持基盤を持つタクシン派のタイ貢献党。そして、革新系の「国民党」だ。
現体制からの脱却を掲げた国民党は、若者の支持を集めている。国民党の演説会場では、まるでアーティストのライブ会場のように、候補者たちのグッズや顔写真を使ったうちわなどが販売されていた。
「変化を見たい」
「彼らが票を取り、政権を組めることを願っています」
世論調査でも支持率トップに立ち、「新しい時代が来る」と期待が高まっていた。
落胆を隠せない支持者たち
8日、アヌティン氏がバンコクから300キロ以上離れたブリーラムの投票所に到着した。
政権を引き継いだアヌティン氏率いるタイの誇り党は、国民党の勢いに押され、苦戦が予想されていた。しかし、開票の結果、勝利したのはタイの誇り党だった。
500議席中、9日時点で193議席を獲得。過半数には届かないものの、連立を組み政権を担っていく見通しだ。
一方、国民党は議席を減らす結果に。開票結果を見守っていた支持者たちは落胆を隠せない。
変化を望む声が大きかった総選挙で、なぜ保守系の与党が大勝したのだろうか。
革新系政党 敗北の要因は
躍進が期待されていた革新系政党の国民党が予想に反して、第1党を逃した背景に何があるのか。
公共放送「タイPBS」の開票速報によると、若者が多い首都バンコクに割り当てられた33議席は国民党がすべて獲得し、比例代表でも得票が最も多く、党の人気の高さがうかがえるが、第1党にはなれなかった。
現地で総選挙の調査を行っている、タイの政治に詳しい筑波大学の外山文子准教授は、国民党の失速について「地方で議席を伸ばせなかったことが大きい」と分析している。
外山さんによると「地方には票の取りまとめ役の地方議員など有力者が存在していて、与党はそれらを取り込み、票を集めたのだろう。大規模な現金による票の買収があったという噂も上がっている」と指摘している。
さらに「保守政党側は、カンボジアとの国境紛争の中でナショナリズムをあおっていた」といい、「国民党が唱える軍改革に対して『国境で戦っている軍の存在意義を揺るがす改革はゆるせない』という風潮が生まれていたと分析している。
“革新系政党潰し”続く?
タイでは支持を集めた革新系政党が排除されたケースもある。
朝日新聞によると、国民党の前身である前進党は2023年の総選挙で、王政や軍の改革を掲げ第1党になった。
しかし、保守系政党が連立を組み、首相指名選挙で協力したことで、前進党は第1党でありながら政権をとれなかった。
さらに、王政改革として王室への不敬罪の改正を公約に掲げていたことなどを理由に、憲法裁判所から解党を命じられたという。
若者が支持する革新系政党への圧力は今後も続くのだろうか。
外山さんは「憲法裁判所などの司法機関を利用して革新系政党潰しは続いていくだろう」とみている。
一方で、国民の間には「世代交代」に希望を見出す声も少なくないという。「革新系政党が若者に支持され続けるとすれば、年月が経つほど支持層は厚くなる。10年後には、政権を担う可能性は十分にあり得る」と話している。
ただし「国民に飽きられないよう、スター議員を輩出し続けるなど、常に注目され続ける必要がある」とも指摘している。
(2026年2月10日放送分より)









