国際

日曜スクープ

2026年7月9日 17:24

建国250年…トランプ大統領は米国をどう変えたのか 経済・安全保障そして有権者たち

建国250年…トランプ大統領は米国をどう変えたのか 経済・安全保障そして有権者たち
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トランプ大統領は米国建国250年を迎え、「最高の時代はこれから訪れる。アメリカの黄金時代の幕開けに過ぎない」と自らの実績を強調した。一方で米国内の世論調査では「独立宣言の署名者たちが今の米国の姿をどう見るか」との問いに「失望するだろう」が77%を占めている。番組では、建国からの歴史を踏まえつつ、トランプ大統領の存在がどのような変化を意味しているのか、読み解く。

1)米国の国益でもあったグローバル化 トランプ氏の“否定”が支持されたのは…

アメリカの政治や安全保障に精通する今村卓氏(丸紅経済研究所社長)は、トランプ大統領がもたらした大きな変化として「グローバリゼーションの否定」と「アメリカが積極的に国際社会へ貢献することの否定」を挙げた。

アメリカの大きな方向転換は第2次世界大戦後から始まる。それまではアメリカも孤立主義のブロック経済だった。しかし、第2次世界大戦でアメリカも大きな被害を出す中、アメリカ主導で世界を安定させ、経済もアメリカが主導していくのが大事だという流れが生まれた。すぐに冷戦が始まったことで、西側を経済そして安全保障面で安定させることが重要となり、アメリカ主導で国際秩序を作り、グローバル化の推進がアメリカの国益とも重なった。
ところが、時代の変化とともに、ヨーロッパも日本も復興。さらにアジアがそのあとを追いかけ、アメリカがいつまでも経済を主導できる状況ではなくなる。グローバル化は決して自分たちのためになっていないとの考えが80年代以降じわじわと広がった。ただ、そうは言ってもまだまだグローバル化こそアメリカの国益だという流れの中、その限界に気がついたのがトランプ氏だった。 

加えて今村卓氏は、トランプ大統領が“損得勘定”を強く打ち出していると指摘する。

2016年あたりから、中国の脅威がささやかれ始める中、現実味のある主張をしたのも、トランプ氏が初めてだった。トランプ氏は、白人労働者階級の人たちが一番被害を受けていると主張し、国際協調においてもアメリカばかりが負担して恩恵がないと強く訴え続けてきた。NATOについても、アメリカの負担が重すぎて、ヨーロッパが得をしているという感覚を持っている。この件についてはアメリカ国内でも相当の支持を得ており、分担の見直しは行われていくだろう。
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2)大統領権限の強化…「王になりたい大統領」はなぜ生まれた

小谷哲男氏(明海大学教授)は「トランプ氏は、大統領権限を究極のところまで強化しようとしている。それに伴って合衆国憲法や連邦法を無視することを厭わない姿勢をあからさまに見せている」と指摘する。

合衆国憲法は、独裁を防ぐため、三権分立、抑制と均衡というシステムで成り立っているが、それゆえに、常に行政・司法・立法の間で緊張関係が続いてきた。トランプ氏はこの緊張関係を嫌い、特に2期目に入ってから行政権、大統領の権限をどこまで強化できるのかを試している。背景にあるのは“単一行政理論”。「大統領のみが全国民から選ばれており、行政権を持つ大統領が一番上にあるべきだ」という考えで、三権分立を否定しかねない。
トランプ氏は、大統領令を乱発することで大統領の権限を強化しようとし、どこまで認められるのかも試している。言うならば“法の支配”に対する挑戦だ。その最大の事例が、2020年の大統領選挙の結果をいまだに受け入れていないこと。アメリカ大統領の歴史の中で唯一、権力の平和的な移行に歯向かった人物がどこまでこの先のアメリカに影響を与えるのかは、極めて重要なアメリカ研究上の課題だ。

三牧聖子氏(同志社大学大学院教授)は、「共和制国家として誕生しながら、王になりたい大統領が誕生してしまった」と懸念を示す。

アメリカは民主主義の国と言われるが、「建国の父たち」は実は、民主主義に非常に警戒心を抱いていた。民意は移ろいやすく、長期的な利益、公共の利益を必ずしも考えない。大統領は、そうした民意によって選ばれている、と。そもそも選挙人制度という面倒な仕組みも、民意が直接的に反映されると、ある種危ないところがあるとして、むしろ反映させないところに意義があった。
「建国の父たち」は、民主主義の意義を認めつつも、大統領が暴走しないよう、三権分立、裁判所・議会・大統領で拮抗させる仕組みを作ってきたが、トランプ大統領が民意によって誕生し、2期目の政権ではレガシー作りに励んでいる。自分の名前を任期終了後も長く刻み込むことにこれほど熱心な大統領は今までいなかった。こういう大統領が生まれないよう、様々な仕組みを埋め込んだはずのアメリカに“王になりたい大統領”が誕生した。ある種、歴史的な転換点に今、アメリカはある。
トランプ大統領は裁判所、独立の監察機関、官僚など、民意によって選ばれていないものを批判する。そういった存在こそが大統領の政策をチェックし抑制するはずだが、トランプ氏はそれらを“民意に基づき”否定する。建国から時が経ち、これまでのアメリカ憲法の仕組みだけでは、建国の父たちが描いたような国は実現しなくなっている。

さらに三牧聖子氏は、生活苦にあえぐ米国民の存在を指摘した。

トランプ氏の言説は、大学や政府などのエリートたちに「ケアされてこなかった」「見捨てられてきた」と感じる人たちに届くが、トランプ政権下で顧みられない人たちも実は沢山いる。中間層が崩壊して、まともな生活ができない人たちが生まれており、民主党支持者の間では、ソ連型の統制経済とは違う、“民主的な”社会主義的方向への舵取りを望む人が多くなっている。

小谷哲男氏も、トランプ大統領が建国250年の演説で「米国に共産主義は不要だ」と主張したことに言及し、「まさに中間選挙に向けた第一歩。実際には民主党の中で広がっている、民主社会主義の動きを共産主義と位置づけている」と分析した。

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3)安全保障での位置づけも転換…米国建国250年の中での日米関係 

米国の建国250年の歴史の中で、日本はどのように位置づけられているのか。今村卓氏(丸紅経済研究所社長)は経済面から分析する。

少なくとも第2次大戦前までは、アメリカはヨーロッパを追いかける新興国を一つ抜け出したような位置。それに対して日本はずっと下の方から追いかけてくる国だった。両者の関係は、ビジネスや安全保障面での協調関係ができた時期もあったが、時を経てライバルとなり、様々な権益を争う形で、太平洋戦争という悲劇に突入した。日本は占領され、そこからは一気に同盟の関係に変わっていく。経済面でも協調する関係に変わっていくが、日本が復興し経済が再び発展していく中で摩擦が強まり、ピークに達したのが80年代だ。古くは繊維、鉄鋼、自動車、それからエレクトロニクスといった半導体まで問題化し、ここで限界を迎えた。
ところが、その後、日本経済の伸び自体が止まり、さらに中国が台頭。そうした中で、日米は改めて協調関係となり、今は成熟したパートナーでもある。関係性においては、日本が投資してアメリカを補完する役割に変わってきているところはある。

小谷哲男氏(明海大学教授)は、日米の安全保障の観点から平和安全法制の施行を注視する。

2015年に日本が平和安全法制を施行したことで、限定的ながらも集団的自衛権を行使できるようになり、日米の同盟関係をより対等なものにした。日本、あるいは日米関係に関するトランプ大統領のイメージは、1980年代で止まっているとよく言われる。1期目の時も、貿易で日本は上手くやって、防衛面ではただ乗りしているというイメージを持っていた。あの時、もし平和安全法制ができていなければ、トランプ氏の「日本がただ乗りをしている」という批判に応えることができなかった。平和安全法制があったからこそ、安倍総理(当時)は「日米は対等で、お互いに守り合う関係になった」と説明ができた。ただ、今回のホルムズ海峡の問題で、日本として艦船を出すことが難しかった点では、トランプ氏に不満が高まったことは間違いない。

番組アンカーの末延吉正氏(ジャーナリスト/元テレビ朝日政治部長)は、半世紀近くに及ぶ政界取材を踏まえ、日米関係を分析した。

よく覚えているのが鈴木善幸総理(当時)退陣の理由。当時は、日米同盟という言い方が使われ始めた時期で、まだ日米関係という言い方が一般的だった。鈴木総理(当時)は記者から「日米同盟に軍事的な側面はあるのか」と問われ、「ない」と答えた。これに対し、日米関係の“重し”だった岸信介元総理が「そういう人間では日米関係を前に進められない」と批判し、政局が動いた。
やはり安倍総理(当時)が「自由で開かれたインド太平洋」という、アメリカやヨーロッパをも取り込む世界的な政策を打ち出したことは、大きな転換点。日本の総理では初めて米上下両院合同会議で「希望の同盟」というスピーチを行っていた。戦後、アメリカに“おんぶにだっこ”だった日本が、まず経済で、その後は経済安保を含めた安全保障の面で徐々に対等な関係と認識されてきた。ここから先、きちんとアメリカを説得できるパートナーとして、日本が経済力も含め、もう一度再生できるかが今後のポイントになってくる。

(「BS朝日 日曜スクープ」2026年7月4日放送より)

<出演者プロフィール>

今村卓(丸紅経済研究所社長。2008年から9年間、丸紅ワシントン事務所長。米国政治・国際経済・金融などの情報に精通)

小谷哲男(明海大学教授。米国の外交関係・安全保障政策の情勢に精通。「日本国際問題研究所」研究主幹)

三牧聖子(同社大学大学院教授。米国政治外交と国際関係などの調査研究に従事。共著「『アメリカの戦争』と世界危機」(岩波新書)など関連多数)

末延吉正(元テレビ朝日政治部長。ジャーナリスト。東海大学平和戦略国際研究所客員教授。永田町や霞が関に独自の多彩な情報網を持つ。湾岸戦争などで各国を取材し、国際問題にも精通)

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