ボルネオ島で絶滅の危機に瀕しているオランウータン。彼らの現状や野生へと返す支援をレンズに収め、私たちに伝えるカメラマンを取材した。
実情伝える…写真家の思い
日本から南におよそ5000キロ。マレーシア、ブルネイ、インドネシアにまたがるボルネオ島。そこには、アジア最大級の熱帯雨林が広がっている。
この島に生息しているのがオランウータン。“森の人”を意味し、その名のごとく、木登りが得意で樹上で生活する大型の類人猿だ。
そんなオランウータンは、ここ100年で5分の1まで減少。絶滅の危機に瀕しているのだ。
彼らの厳しい現実を撮り続けてきた写真家がいる。
柏倉陽介さんは、世界で起きている環境問題を撮影する自然写真家だ。
これまでもウズベキスタンのアラル海やネパールなどを訪れ、私たちに実情を伝える写真を撮影してきた。
「(Q.これはオランウータン?)そうですね。一見かわいいと思うんですけど、実はこれ悲しい写真で」
毛布にくるまり、宙を見つめるオランウータンの赤ちゃん。実は母親を失い、救助された時の写真だという。一体、何があったのか。
森に続く規則的な線は、熱帯雨林が伐採され作られたアブラヤシ農園だ。
アブラヤシから採れるパーム油は植物性の油としてスナック菓子やカップラーメン、さらにはせっけんや化粧品などにも使われ、私たちの生活に欠かせない存在となっている。
1950年ごろ、ボルネオ島全域を覆っていた森林。しかし、アブラヤシ農園などが作られたことで、今ではその半分以上が失われてしまった。これにより、オランウータンの生息数が急激に減少している。
こうした現状を柏倉さんが知ることになったのは今から10年前、ボルネオ島を訪れた時のこと。
生息地を追いやられた動物たちと知らずに撮影していた自分を恥じたという柏倉さん。そんな中、芽生えたのがオランウータンが置かれているリアルな現実を取材したいという思いだった。
保護施設へ 人間が親代わりに
そこで足を運んだのがオランウータンの保護施設。そこには森林伐採などにより親を失った多くのオランウータンの子どもたちがいた。
柏倉さんは、その様子を撮影し写真集を出版。
柏倉さんは印税として支払われる全額を保護施設に寄付するなど支援活動を行ってきた。
そんな柏倉さんは去年11月、初めてインドネシアのオランウータン保護団体に同行し、その保護施設を訪ねた。
ここでは親を失った子どものオランウータンたちが保護され、将来、森に帰るために様々なトレーニングが行われている。
「遊具に見えますが訓練するための施設です。この穴はここに蜂蜜を入れて、子どもたちが棒を刺して蜂蜜を食べる訓練をする穴ですね」
本来、野生のオランウータンの子どもは母親の体にしがみつきながら何を食べていいのか、木の上でどのように暮らすのかなど6年から8年かけて学ぶというが、親を失った彼らに対しては人間が代わりとなり10年以上かけ野生で生きていく術を教えていく。
「オランウータンとの間に信頼関係を築かないといけません。とても繊細なプロセスです。彼らの自立心を育てていくことが何よりも重要なんです。野生動物は野生で暮らしていくべきです」
オランウータン4頭 森に帰る
柏倉さんが訪ねた保護施設にはトレーニングを終え野生に帰るというオランウータンがいた。その名は、オタン。
10年前に撮影されたオタンの写真。母親を失い違法にペットとして飼われていたところを救出された。
救助されて4年がたった時の様子。ヘビへの対処法を教えていたのだが、おもちゃのヘビにびっくりし後輩たちの背中に思わず隠れてしまった。
その後も様々なトレーニングを経て順調に成長。オタンは好奇心が強く、餌(えさ)を見つけることが得意だという。
そして、オタンが施設に来て10年。
「メディカルチェックをして森の中に返される」
野生で暮らしていけると判断されたオタンら4頭のオランウータンが森に帰ることに。
森林保護区の奥深く。オタンたちがこれから暮らす場所だ。
そして、ついにその時が来た。
オタンは人間によって故郷や親を奪われた。しかし、そんなオタンを救ったのもまた人間。振り返ったオタンの目に私たち人間はどのように映ったのか。
なぜ必要?パーム油を巡る現状
長年オランウータンを取材し、寄り添ってきた柏倉さんだが、そんな柏倉さんが撮影し、未来を感じたという写真がこちら。
リハビリ施設で森に帰る訓練をしているオランウータンの赤ちゃんの写真(マレーシアの施設でオタンとは別)で、柏倉さんは「彼らの生息地を奪うのも人間だが、手助けしようとするのも人間。オランウータンを支える手の一つになれたらいいという思いで撮影した1枚」だと語った。
オランウータンを危機に追いやった背景にパーム油のための農園拡大があるのなら、そもそもそれを止めればいいのでは、という考えが頭に浮かぶと思うが、現実にはそうもいかないそうだ。
WWF(世界自然保護基金)によると、パーム油は、1本のアブラヤシからたくさんの油がとれ、収穫面積あたりの生産性が極めて高いという。そのためアブラヤシ以外の植物から油をとろうとすると、さらに森林破壊が引き起こされる恐れがあるという。
例えば、1トンの油を生産する場合、パーム油ですと、0.26ヘクタールの土地を使用するのに対し、大豆油の場合は8倍近い2ヘクタールの土地が必要になるそうだ。このため、パーム油を使わないという選択は難しいという。
そして注目したいのが、企業など大規模農業ではなく小規模農家の存在。
パーム油生産量の約4割を占めているのが小規模農家と言われていて、資金や知識が乏しいため、生産効率が低いことが多く、そのため新たに面積を広げることで生産量を増やそうとするそうだ。
こうした事情が、森林破壊に歯止めがかからない理由の一つになっていて、WWFジャパンなどは2018年から小規模農家を集め組合を結成。農地拡大をせず、持続可能なパーム油の増産ができるように技術指導しているという。
また大企業などでRSPOという持続可能なパーム油の調達に取り組む動きも始まっている。
環境や安全性、人権侵害などの課題に基準にのっとって生産されたものには、認証をつけるというもので、農水省も推奨している。
(2026年2月25日放送分より)





















