国際

日曜スクープ

2026年3月13日 18:00

ホルムズ海峡“封鎖”で原油急騰 トランプ政権“対策”の効果は? イラン反撃の行方

ホルムズ海峡“封鎖”で原油急騰 トランプ政権“対策”の効果は? イラン反撃の行方
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米国とイスラエルによるイラン攻撃に伴い、ホルムズ海峡が事実上、航行できない状況に陥っている。原油価格は急騰した。タンカー護衛や船舶保険の提供など、トランプ政権が打ち出す対策の効果は? そして、湾岸諸国の被害も相次ぐイランの反撃は、どこまで続くのか。専門家は、中東以外の安全保障に及ぶ影響も注視する。

1)ホルムズ海峡“封鎖”原油急騰 打開策はあるのか

エネルギー供給の鍵を握るホルムズ海峡。攻撃開始前には多くの船が航行していたが、ペルシャ湾海域でタンカーへの攻撃が相次ぎ、タンカーなど200隻が産油国の沖合で停泊しているという。イラン側は3月2日、イラン革命防衛隊司令官が通過する船を攻撃すると発言。6日にはイラン軍報道官が「現時点で封鎖はしておらず、今後も封鎖するつもりもない」と発言したが、どう見たらいいのか。

田中浩一郎氏(慶応義塾大学大学院教授)は、すでに封鎖効果が表れていると分析をする。

船舶の航行を止めることを物理的にイラン側がやっていなくても、これだけ被災する船が周辺で発生している上に、「攻撃をする」という行動表現もしている。「攻撃されるかもしれない」という受け手側の心理もある。船倉に可燃性、爆発性の高い燃料を積んでいるタンカーは、この状況では絶対にホルムズ海峡を航行しない。
ペルシャ湾の出入り口であるホルムズ海峡では、船舶が90度で曲がらなくてはならず、スピードを落とすので、格好の攻撃の標的となってしまう。ホルムズ海峡にゲジュム島という島があり、ここの淡水化プラントをアメリカが破壊したという。ホルムズ海峡を睨む革命防衛隊などの一番近くて大きな拠点をまず潰すつもりでのことだと思うが、いずれにしてもまだタンカーが安全に航行できる状況ではない。
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2)海峡リスクで船舶の保険料も高騰…トランプ政権の対応どう見る

ホルムズ海峡のリスクが上がる中、船舶の保険料も高騰している。ホルムズ海峡を航行する船舶の保険料は攻撃開始後、12倍に高騰。さらにノルウェー・英国・米国に拠点を置く大手海上保険会社は、この地域で運行する船舶に対する戦争リスク保険を中止すると発表。トランプ大統領は「ペルシャ湾を航行する全ての海上貿易の金融安全保障について、極めて合理的な価格で、政治リスク保険及び保証を提供するよう命じた」としており、6日には最大200億ドル(日本でおよそ3兆円)の保険を提供すると表明している。

一方で、船主責任保険を提供する会社、スクルドは4日「保険適用範囲・保険料体系・適正価格の基準など、精査に相当な時間と精査を必要とするだろう」との声明を出した。今村卓氏(丸紅経済研究所社長)は、「保険が船を止めてしまう。現実に起こることだ」と指摘する。

保険という仕組みは、リスクを果敢にとる1社が提供するものではなく、再保険も含め、広く薄く分担する。これからリスクを分担する仕組みを民間で構築しなければならない。政府はそういったノウハウは持っていない。トランプ発言は一旦市場を少し安心させたかもしれないが、実は何も言っていないに等しい。市場の反応が原油価格に現れてきている。
ホルムズ海峡のリスクが小さくなってくれば、当然、保険の引き受け手もまた出てくる。保険会社は収益をあげる民間企業だ。ところが、軍などに比べ民間はリスクに対しては臆病だ。少しでもリスクがあれば、価格に反映します、やはり引き受けられませんという話しになる。個々の保険会社に今回のような大きなリスクをとるような許容量はない。

イランによるホルムズ海峡“封鎖”や周辺国への攻撃をトランプ政権は、どこまで想定していたのか。小谷哲男氏(明海大学教授)は、トランプ政権の誤算を指摘する。

当然、イスラエルや中東に展開する米軍および米軍基地への反撃はあると考えていたが、関係のない国にまで攻撃が及ぶのは誤算だっただろう。実際にはCIAなどの拠点を狙っての攻撃のようだが、一つの誤算だったはずだ。当然、ホルムズ海峡“封鎖”の可能性は念頭に置いていたからこそ、軍事作戦直後の演説で「海軍力の壊滅」を挙げたが、ホルムズ海峡“封鎖”はイランにとっても諸刃の剣なので、ここまで早いタイミングでカードを切ってくるのは想定外だったのでは。今、原油価格が実際に高騰してトランプ政権は焦っているところだと思う。

番組アンカーの杉田弘毅氏(ジャーナリスト/元共同通信論説委員長)は、アメリカ海軍によるタンカー護衛案が浮上していることについても、懐疑的な姿勢を示した。

イラン海軍を潰しつつあるとはいえ、イランが保有しているドローンがある限りリスクがなくなることはない。保有ドローン数も不明なうえに、大量製造能力があり、海軍的なしっかりした組織がなくてもドローンは飛ばせてしまう。また、肝心のアメリカ海軍側からは、護衛の検討を始めたという話は伝わってきていない。現在のところアメリカの空母はもちろん、他艦隊もアラビア海や地中海に展開をしていて、ホルムズ海峡の中には入っていない。そのような状態のアメリカ海軍にホルムズ海峡にいる200隻の船を護衛させるのは難しいのではないか。
80年代のイラン・イラク戦争の後半にタンカー戦争が起きて、イランもイラクもペルシャ湾を航行するタンカーを攻撃。その際、護衛していたアメリカ海軍の艦船も攻撃を受けてかなりの数の米兵が亡くなった。ペルシャ湾、ホルムズ海峡でのタンカー護衛は、なかなか簡単にできる話ではない。
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3)イランの反撃どこまで… 中東以外の安全保障にも影響の恐れ

戦いの影響はホルムズ海峡にとどまらず、イラン周辺国のエネルギー施設にも及んでいる。カタールでは3月2日、国営エネルギー企業カタールエナジーの施設などがイランのドローン攻撃を受け生産停止となった。さらに5日、イランのミサイルがバーレーン北東部シトラの製油所に命中し、火災が発生した。攻撃の影響で生産停止なども相次いでいる。
こうした中、イランのペゼシュキアン大統領は7日、「イランによる攻撃を受けた近隣諸国に対して謝罪する。我々は周辺国への侵略を意図していない。今後は攻撃がない限り近隣諸国への攻撃やミサイル発射を禁止する」と声明を発表した。

田中浩一郎氏(慶応義塾大学大学院教授)は、イランの権力構造を踏まえて、大統領の声明を読み解く。

大統領は外交も担当しているので、周辺国との関係に注意を払っている。しかしながら、軍を動かすのは最高指導者で、そこが今、空位になっている(3月8日時点)。最高指導者の代わりに、大統領も含めた暫定指導評議会が任務を取り扱う形になっているが、その代表者は大統領ではない。大統領の発したこのメッセージは軍に対して影響力がないことが問題だ。軍は、最高指導者を含め、指導部が抹殺された時のことを考えて用意したマニュアルに基づき行動をとっている。

小谷哲男氏(明海大学教授)は、米国内での防空ミサイルの不足が指摘されていることを踏まえつつ、中東以外にも影響が及ぶと分析する。

防空ミサイルはいくらあっても足りないものだが、この4年間、アメリカはウクライナにかなりの迎撃ミサイルを供与してきた。イスラエルに対してもガザ紛争が続いている間、かなり供与してきた。米軍の即応態勢を維持できるだけの在庫は押さえていたが、今回は1週間でこれまで以上の規模でミサイルを使っている。攻撃用にも防空用にも。そうなってくると、どこかの段階で防空ミサイルが足りなくなることは十分考えられる。今、韓国との間で、在韓米軍が配備しているTHAAD(高高度防衛ミサイル)を中東に移動させることも検討されている。ウクライナ支援にしても、米国に在庫なく渡せないこともありえる。中東を越えて、アジアや欧州の抑止力低下にもつながりかねない。

今村卓氏(丸紅経済研究所社長)も、中東以外の地域の対応を注視する。

トランプ大統領の訪中でどう扱われるのか。中国はイランからかなり原油を輸入している。今回、中国の言動が見えないが、米中首脳会談で話題にならないわけがない。G7についても私、ブリュッセルに行っていたが、様子見。怖がって見ている状況だった。G7として取り組まざるを得ず、新しい展開はあり得ると思う。

(「BS朝日 日曜スクープ」2026年3月8日放送より)

イランは3月8日、殺害された最高指導者アリ・ハメネイ師の次男、モジタバ・ハメネイ師が後任に選出したと発表。原油価格は9日、WTI原油先物価格が一時1バレル=120ドル近くまで上昇。10日には大幅下落し、一時80ドル割れするなど、乱高下している。

<出演者プロフィール>

今村卓(丸紅経済研究所社長。2008年から9年間、丸紅ワシントン事務所長。米国政治・国際経済・金融に精通)

田中浩一郎(慶応義塾大学教授。在イラン大使館で専門調査員。国連政務官を経験。イランを中心に、中東地域の安全保障などを研究)

小谷哲男(明海大学教授。米国の外交関係・安全保障政策の情勢に精通。「日本国際問題研究所」研究主幹)

杉田弘毅(ジャーナリスト。21年度「日本記者クラブ賞」。明治大学特任教授。共同通信でワシントン支局長、論説委員長などを歴任。著書に「国際報道を問い直す-ウクライナ紛争とメディアの使命」(ちくま書房)など)

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