ホルムズ海峡、ペルシャ湾をめぐる、米国とイランの攻防は、収束に向かうどころか、急速にエスカレートしている。『BS朝日 日曜スクープ』は、元駐イラン大使の齊藤貢氏も交えイランの戦略を分析。「石油カード」を打ち出すイランに、トランプ政権はどのような戦略を描くのか。
1)“「エネルギー戦争」に切り替え”元駐イラン大使が戦略分析
トランプ大統領は3月13日、ペルシャ湾にあるカーグ島の軍事目標を破壊したと主張した。この島は、イランの石油輸出の90%を担う。さらにトランプ氏は「私はカーグ島の原油インフラを破壊しないことを選択した。しかし、ホルムズ海峡での船舶の航行を妨害する行動に出た場合は、直ちに再検討する」と警告した。
一方、イランは、カーグ島を攻撃された直後にUAEにあるフジャイラの石油貯蔵施設をドローンで攻撃。フジャイラはペルシャ湾の出入り口にあたり、ホルムズ海峡を迂回するようにパイプラインが通っている。海峡封鎖が続く中、重要度を増す原油の輸出拠点だ。
齊藤貢氏(元駐イラン大使)はイラン指導部の状況を分析し、「自分たちが有利と考えている」と指摘する。
おそらくイランの指導部の主観的な理解では、自分たちが有利であると考えている。軍事的な戦争で始まったが、イランがゲームのルールを変えて、「エネルギー戦争」に切り替えている。
ジョセフ・クラフト氏(経済・政治アナリスト)は、米軍が上陸作戦も今後の選択肢としている可能性があり、原油高が続くリスクが高いと指摘する。
私が今、一番懸念しているのは、佐世保からアメリカ海軍の強襲揚陸艦『USSトリポリ』が中東に向かっていることだ。この部隊は海兵隊を含んだ、上陸作戦もできる。私個人は、カーグ島関連の作戦に絡んでいるかもしれないと思っている。石油施設の制圧とか。いずれにせよ、何らかの上陸作戦を一つのオプションとして抱えトリポリを送っている。
大掛かりの空爆は沈静化するが、部分、部分の上陸戦や、インフラ攻撃などの応酬戦が行われる。ホルムズ海峡の事実上の封鎖の解除は、当面見えない。原油が高止まりする状況が当面続くリスクが高い。
杉田弘毅氏(ジャーナリスト/元共同通信論説委員長)は、出口戦略の欠落を指摘する。
問題は、仮にトランプ氏が停戦に向けた動きをしても、イラン側が応じない可能性があることだ。国際社会は、トランプ氏を説得し勝利宣言をさせて、停戦への道をつければいいという安易な発想になっているが、おそらくイランは受け入れない。では誰がどういうルートでイランを説得するのかというと全く見えない。アメリカにもイランにも、イスラエルにも出口戦略がない状況だ。
2)イランが新指導者を選出…革命体制の“最大の悩み”とは?
イランは新たな最高指導者に、死亡したハメネイ氏の次男で、革命防衛隊とも強い関係のあるモジダバ氏を選出。モジダバ氏は、12日の初の声明で「殉教者たちが流した血への復讐を諦めない」と、米国に対抗する姿勢を打ち出している。
齊藤貢氏(元駐イラン大使)は、「年単位のこと」と時間がかかることを前提にしつつも、イランの現体制が米国と関係改善を図る可能性を排除しない。
今のイランの体制は、羊の皮をかぶった狼。イスラム革命体制という形をとりながら、実際は革命防衛隊が実質上国を支配する軍事独裁体制と考えている。イランは現時点では、最高指導者を殺害されたことで、潰された面子を回復しなければならない。アメリカとイランの力関係は政治的にも大きな差が出てしまっている。この関係性を戻さないと、アメリカと交渉したくてもできない。
しかし、すぐに反米の看板を下ろすわけにはいかずとも、イランの革命体制からしても、アメリカとの関係は改善したほうが実利的ではある。革命体制の最大の悩みは国民の支持率が低いことで、彼らは内乱を恐れている。例えば、アメリカとの関係が改善して制裁が緩和されれば、イラン経済が上向き、外国から投資が来る可能性もある。石油の輸出も広がる。そうなれば国民からの支持率も上がる。さらに現在、革命防衛隊は密輸ビジネスで儲けている。あまりにも制裁が厳しいと密輸ビジネスもコストがかかる。そこが緩まればビジネス的にも有利になる。どこかのタイミングで、年単位のことかもしれないが、イランの革命体制はアメリカとの関係改善に舵を切ると思っている。
杉田弘毅氏(ジャーナリスト/元共同通信論説委員長)は、今回の戦争を経ても現時点では、米国とイランの隔たりは変わっていないと指摘する。
戦争前からあった両者の水と油のような立場の隔たりは、戦争で何も変わっていない。唯一変わるチャンスがあるとすれば、革命防衛隊が軍事合理主義、経済合理主義の考えから長い年月をかけてアメリカとのディールに舵を切ることだ。しかし、革命防衛隊は革命を守るために生まれた部隊であり、革命の精神を捨て去るのは難しい。また、トランプ氏としては戦争を始めた以上、聖職者・革命防衛隊による支配の体制転換まで持ち込みたい。今のところディールが成立する余地は非常に小さい。
ジョセフ・クラフト氏(経済・政治アナリスト)は、トランプ氏が中間選挙に向けてジレンマに陥っていると分析する。
ただ、トランプ大統領が直面しているジレンマは、これだけガソリンが高止まりするのであれば、イランとディールをすればいいじゃないかというところで、国内のユダヤ票が不満を抱くようになることだ。イスラエル国内ではイラン攻撃は非常に高い支持を集めている。ユダヤコミュニティは、非常にイラン攻撃を支持している。トランプ氏が安易に妥協すれば、米国内のユダヤ票は逃げていく。一方でイランを攻撃し続けるほど、米兵が死亡したり一般世論が反対を強めていくリスクがある。どちらに転んでも難しい政治状況に置かれている。
(「BS朝日 日曜スクープ」2026年3月15日放送より)
<出演者プロフィール>
齊藤貢(元駐イラン大使。2018年〜20年駐イラン大使。オマーン大使も歴任。著書「イランは脅威か」(岩波書店)。関西学院大学客員教授)
ジョセフ・クラフト(東京国際大学副学長。投資銀行などで要職を歴任。米政治経済の情勢に精通。米国籍で日本生まれ)
杉田弘毅(ジャーナリスト。21年度「日本記者クラブ賞」。明治大学特任教授。共同通信でテヘラン支局長、ワシントン支局長、論説委員長などを歴任。著書に「国際報道を問い直す-ウクライナ紛争とメディアの使命」(ちくま書房)など)




