イランの西隣に位置するそのトルコに、大越健介キャスターが取材に行きました。混迷を極めるイラン情勢は、周辺諸国にとっても重大な問題です。トルコには、イランの戦火と抑圧から逃れてくる人が増える一方、家族のことを案じ、逆に祖国に戻るイラン人の姿もありました。今後、中東の微妙な力のバランスが崩れるのではないか、人々は不安の中にあります。
祖国離れた人々が集う街
トルコ・イスタンブールは、イラン・テヘランから2000キロ離れています。それでも。
「イスタンブールの中心部の、イラン人向けの商店などが集まっている所です。(看板に)イランという文字も見えます。ここイスタンブールには、多くのイラン人コミュニティーもありまして、イランでの戦闘が勃発してから、この辺の動きも非常に慌ただしくなっているということです」
トルコには20〜30万人のイラン人がいて、その内の半分はイスタンブール在住と言われています。国境を接し、90日以内の滞在ならビザもいりません。それ故に、バス停にはこの日も…。
「ちょうど今、イランからトルコにやってきたバスが到着しました。沢山の人が到着しています。イラン国境までこのバスが行って、そこからこちらに人を運んできたということです。皆さんかなり疲れた表情をしていますが、かなりイランでは苦労もされたのではないかと思います」
イランナンバーのバス。3日かけて陸路で脱出してきた人もいました。
「爆撃で国境のシステムが断絶されていた。攻撃の前日まで核協議をしていたので、こんな早く戦争になるとは思わなかった」
脱出の女性身体に残る銃弾
イランから逃げてきていた女性(39)。1月の大規模デモで治安部隊から発砲されました。脚にはまだ散弾銃の弾が残されたまま。デモへの参加は“普通”への渇望でした。
「あの事件から2カ月ほど経過しました。今は大丈夫だが、脚にある30の銃弾と生きていかなければならない。他の国と同じような普通の生活がしたかっただけです。贅沢を望んでいるわけではありません。もしイランで、このままの格好でいたら体制側に何をされるか分からない」
自由が制限されているイランでは、特に女性の権利が抑圧されています。今回のアメリカとイスラエルの攻撃が一つのきっかけになってほしいと訴えています。
「トランプとネタニヤフがイランを攻撃したことに不満はない。むしろ歓迎しています」
「ハメネイ体制はイスラエルとアメリカによって負かされましたが、外国勢力による体制転換だったことは、あなたにとって重要ですか?」
「体制転換さえ起これば“誰によって”かは重要ではない」
戦火の祖国 帰る人々の思い
爆撃や弾圧から逃れてくる人がいる一方で、その逆も…。
「間もなくここ、イスタンブールからテヘラン行きのバスが出るところです。バスの運賃も非常に高騰しているそうです。というのも、戦闘の勃発以来、イランへ戻る人たちが非常に多いということです。先ほどから多くのイランに帰る人たちが荷物を積み込み、そして車に乗り込んでいます」
大学院の博士過程を切り上げて帰国する決断をした人に話を聞くことができました。
「家族が心配です。イランは私の祖国ですし、家族や仲間の元に戻った方が気が楽」
「帰国はリスクが高いのでは?」
「リスクはあるけど、この日をずっと待っていました。こんな状況でも帰りたい。その方が幸せです」
トルコの“不安と可能性”
地政学的に紛争と常に隣り合せのトルコ。
「美しいモスクが立ち並ぶ、トルコのイスタンブールです。休日ののどかな空気が漂っています。そして私の後ろ側がボスポラス海峡です。橋を挟んで左側がヨーロッパ側、そして右側がアジア側です。まさにヨーロッパとアジアの文化の結節点がこのイスタンブールです。非常に平和な街ではあるんですが、イランは隣の国です。隣国で起きている戦闘に、誰も無関心ではいられません」
「イランでの戦闘は深刻なこと、それとも遠い出来事と受け止める?」
「中東地域が常に平和で栄えてほしいと思いますが、残念ながら常に策略を企てる国があって、中東だけではなく世界全体が様々な問題に直面しています」
トルコ国民の多くはイランに同情的です。
「殺人者アメリカ、殺人者イスラエル」
一方で、NATOに加盟し、アメリカはもとより、イスラエルとも関係を築いてきた歴史があります。地域の安定のためには今の状況を早く終わらせたいのが本音です。
「率直に言って、必要な介入が行われなければ、この紛争は地域や世界の安全保障の観点から深刻な影響を及ぼすでしょう。停戦が確立され、地域の平穏が回復するまで、あらゆるレベルでの連携を強化する方針です」
これを機に、地域の盟主として存在感を示すことができるのか。トルコ外交を支えてきた人物に話を聞きました。
「イランという国の力が大幅に低下するのは間違いない状況。その中で、中東全体の力のバランスが大きく変化する。新たな地政学的なリスクになるのではないか。トルコにとっても非常に大きな問題になるのではないか。どう分析している?」
「戦争はまだ始まったばかりですから、お互いどこまで進めるか探っている段階でしょう。私の推測ですが、より中立的で穏やかな宗教政権の樹立は可能だと思います。イスラエルの脅威とならないような政権が樹立されれば、誰にとっても不都合はないでしょう」
一番の懸念は、地域に権力の空白地帯ができることです。
「政権崩壊、もしくはイランの弱体化で、地域の権力の空白が生まれる可能性はあると思います。それはどこであれリスクとなります。その空白をいかにして誰が埋めるのか。どのような野心が顕在化するのか。それらは常にリスクとなります。だから、このようなことが起こらないことを願うしかありません」
大国が今や隠そうとしない、むき出しの覇権主義とはどう折り合いをつけていくのでしょうか。
「力による支配が、これだけまん延する中で、ミドルクラスのミドルパワーの国々が、大国が力で支配を強める世の中で、どう振る舞えばいいのか。世界の平和の安定のために、どう振る舞えばいいと思う?」
「数年前から世界が秩序なき方向へと向かっているように感じます。そして、このような状況下において、トルコや日本、南アフリカ、ブラジルなど中堅国の役割が重要になってきます。再び世界をルールに基づく秩序ある世界へと戻すために、我々中堅国が結束して協力を強化することが極めて重要です」
立場により異なる“正義”
(Q.今回のイスタンブールでの取材を通じて、強く感じたことは)
「我々は『正義』という言葉をよく使いますが、正義はその人の置かれた立場や角度の当て方によって大きく違ってくると感じました。今回、アメリカやイスラエルがイランの攻撃に一方的に踏み切ったことは、国際法の違反だという国際世論が圧倒的で、その意味では正義とは言えません。しかし、今回インタビューしたイラン人女性のように、ハメネイ師の独裁体制の下で苦しんできた人たちにとっては、体制の転覆こそが正義になります。その意味では、彼女はトランプ氏のことを『決して好きではない』と言っていましたが、救世主的存在ということにもなります。そこに、このニュースを伝えることの難しさを感じると同時に、外交が失敗して戦争に入るたびに、多くの市民の命や生活が奪われる。その残酷さは、決して忘れることがあってはならないと改めて感じました」










