トランプ大統領は3月23日、イランとの「対話」を進めたと主張し、予告していたイランの発電所への攻撃を「5日間」延期した。イランは発電所が攻撃された場合、ホルムズ海峡の完全封鎖に踏み切るとしている。今後の展開が見通せない状況だが、激化する戦闘は新たな段階に突入していた。『読む日曜スクープ』は、双方の深刻な隔たりと合わせて“緊迫した現状”を探る。
1)出口の見えない戦闘 イランへのガス田攻撃の衝撃…米軍上陸作戦も準備か
アメリカとイスラエルのイランに対する攻撃は、新たな段階へと突入していた。3月8日、イスラエル軍はペルシャ湾にあるイランの世界最大級ガス田「サウスパース」の関連施設を空爆。このガス田は全世界の13年分の需要を満たす埋蔵量で、イランとカタールが共同保有している。イランの国内天然ガスのおよそ70%を供給しており、イランにとっても世界にとっても非常に重要なガス田だ。
イスラエルのネタニヤフ首相は攻撃後、「トランプ大統領の要請を受け、これ以上イランのガス田を攻撃しない」と表明したが、田中浩一郎氏(慶応義塾大学大学院教授)は、ガス田への攻撃がもたらす影響の深刻さを指摘した。
さらに、イランの天然ガス生産のかなりの部分が古い油田に再注入されている。内圧を高めて原油生産するためだ。ガス田の生産が落ちると、必然的にイランの原油生産にも影響を及ぼす。今はまだ相当量石油タンクにためられているので、輸出に影響が出るのはもう少し先だが、やがてイランの原油輸出量、生産量ともに低下する。
米軍が上陸作戦を準備しているとの報道も相次ぐ。焦点は、イランの石油輸出のおよそ90%を担うカーグ島だ。ホワイトハウスのケリー副報道官は「大統領が命令を出せば米軍はいつでもカーグ島を制圧できる」と語った。米海軍の強襲揚陸艦「トリポリ」に続いて、国防総省は強襲揚陸艦「ボクサー」も中東に追加派遣。カーグ島への上陸作戦を行うのではないかとの見方が広がっているが、小谷哲男氏(明海大学教授)は陽動作戦の可能性も指摘した。
さらに、いま海兵隊を2つ送ることになっているが、海兵隊ではない部隊でどちらかの島の占拠を考えている可能性もある。米軍の第82空挺師団は、18時間で世界のどこにでも展開できる部隊だ。今月、定例の訓練が中止された。この第82空挺師団が現れてもおかしくない。
1991年の湾岸戦争でもアメリカは「海兵隊を送る」と強調し、イラクは海岸線に部隊を配置したが、実際の攻撃は砂漠の国境を越えてやってきた。同じように海兵隊が陽動作戦に使われている可能性も考えておく必要がある。
杉山晋輔氏(元駐米大使)も、米国がホルムズ海峡封鎖への対応を急務としていると分析する。
アメリカ大統領の権限は非常に強いとはいえ、大統領独裁の国ではなく、選挙に勝たねばならない。どこかで何か目に見える成果を得る必要がある。直近の最大の問題は、ホルムズ海峡が自由に通過できず油価が上がっていることなので、これを何とかしたいと思っているのは間違いない。
2)「国民の生死」にかかわる懸念…双方の対立の根深さと「戦争の連鎖」
トランプ大統領は3月21日(日本時間22日)、SNSで「イランが今この瞬間から48時間以内にホルムズ海峡を完全に開放しない場合、米国はイランの様々な発電所を攻撃し破壊するだろう」と発信。小谷哲男氏(明海大学教授)は、国民の生死にかかわることになると、危険な現状に警鐘を鳴らした。
杉山晋輔氏(元駐米大使)と田中浩一郎氏(慶応義塾大学大学院教授)はそれぞれ、米国とイランの対立の根深さを読み解く。
イランは1979年のイスラム革命で、皇帝を戴く親米国家から完全な宗教国家として新しくなった。同年11月には、革命を支持する学生グループがアメリカ大使館を占拠。人質は444日後に解放されたが、アメリカとイランの断交を決定づけ、現在に至る対立の原点となった。双方ともに現在も大使を置かず、外交関係がない。アメリカにはその頃から、反米的なイランを嫌悪する感情がある。
さらにアメリカは、イランが核兵器とミサイルを保有し、大きな脅威になることを耐え難く思い、また国際社会にとっても脅威であると考えている。アメリカとしては体制転換を求める意向もあるが、基本は、核・ミサイル保有をやめさせたい。
イランは、自分たちは攻撃を受けた側で、攻撃をした側が当然罰せられるべきであり、戦時賠償も払うべきだという対応だ。(今年2月の核協議では)協議を仲介したオマーン外相と、その場に同席したとされるイギリスの閣僚1人の証言から、イラン側は非常に譲歩し、これで戦争にはならないと思って帰国したと。しかし、その2日後に攻撃を受けた。さらに、ウラン濃縮の権利は NPT の下で認められており、これを譲るつもりも、放棄するつもりもないとはっきり打ち出している。
もう一つ重要な点は、イランが「仮に交渉するとすればそれは“停戦”ではなく“終戦”だ」と言っていることだ。去年6月に攻撃を受けた際は12日後に停戦になったが、結局アメリカ、イスラエルが再びイランを攻撃するための時間稼ぎに使われただけだった。いま挙げられている条件では、再びアメリカとイスラエルが防空体制を拡充すれば、体制転換のための攻撃がまた始まるとイラン側は見ている。
番組アンカーの末延吉正氏(ジャーナリスト/元テレビ朝日政治部長)は、ドローンを通じた「戦争の連鎖」を指摘する。
(BS朝日「日曜スクープ」2026年3月22日放送より)
<出演者プロフィール>
杉山晋輔(元駐米大使。元外務官僚、審議官、事務次官など要職を歴任。第1次トランプ政権や米議会との関係を構築)
田中浩一郎(慶応義塾大学教授。在イラン大使館で専門調査員。国連政務官を経験。イランを中心に中東地域の安全保障など研究)
小谷哲男(明海大学教授。米国の外交関係。安全保障政策の情勢に精通。「日本国際問題研究所」研究主幹)
末延吉正(元テレビ朝日政治部長。ジャーナリスト。東海大学平和戦略国際研究所客員教授。湾岸戦争などで各国を取材し、国際問題にも精通)





