15日に開催された第98回アカデミー賞の授賞式。作品賞に輝いたのは「ワン・バトル・アフター・アナザー」。左派の過激グループが、捕まっている移民を救うシーンから始まり、トランプ政権への皮肉も感じさせる作品との評価も。
かつてアカデミー賞においては、「白すぎるオスカー」と白人偏重に対する批判があり、出演者と製作スタッフに多様性を要求したり、性的マイノリティを作品テーマにするなどの基準を設けた。
しかし、その流れに「逆行しているのでは?」と話題になっているのが、トイストーリーなどで有名なピクサー。今月、LGBTQのテーマを扱わない方針を発表した。この動きは、今後ハリウッドで広がっていくのか。アカデミー賞から見えたアメリカ、エンタメ界の今後について、『ABEMA Prime』で考えた。
■アカデミー賞の変化と政治的メッセージの抑制

アカデミー賞について、ロサンゼルス在住の映画ジャーナリスト、猿渡由紀氏は、「トランプ批判は少なかったと思う。プロデューサーがあまり政治色の強い授賞式にしたくないという方向性が見えていた」と指摘。
かつては過激な移民政策に反対するバッジを着用する出席者も目立ったが、今回は「気を付けて見ていても本当にちょっとしかいなかった」と語った。
この背景について、ソニーアメリカの筆頭副社長やワーナーミュージック会長などを歴任した、金沢工業大学・虎ノ門大学院教授の北谷賢司氏は、商業的な理由を挙げた。「あまりにも過剰な表現が話題になると、スポンサーが逃げる。現在アカデミー賞を放送しているABCネットワークはディズニーが所有しており、企業として過剰な表現を控える動きがある」と分析した。
さらに、「アカデミー賞自体が2029年からYouTubeでの全面配信に移行する予定であり、広告媒体としての価値を維持するために、団体そのものが方向修正を行っている」と続けた。
■エンタメ業界に押し寄せる「揺り戻し」の波

ビジネス界で「DEI(多様性・公平性・包括性)」の取り組みを廃止・縮小する動きが広がる中、エンタメ業界でも同様の波が来ている。北谷氏は、「行き過ぎた部分を補正してニュートラルに戻そうという意識が強くなっている。ディズニーなどのスタジオ側からすれば、せっかく作った作品を世界中で配給したい。しかし、LGBTQなどの表現が含まれていると、中東や東南アジアの回教国、さらには中国などで上映禁止になってしまう」との見方を示す。
これに対し、ハヤカワ五味氏は、実写版『ラプンツェル』の配役が原作に忠実になりつつある点に触れ、「これまでの流れと違う。保守的な感じになってきているのか」と疑問を呈した。
北谷氏は、最近の傾向として「ニュートラルな存在の俳優」の起用を挙げた。「ヒスパニックやアメリカインディアンの血を引く俳優などは、白人にもマイノリティにも見え、双方に刺激が強くない」と述べた。
■「無理に真逆のことをしたり、多様性を当てがおうとすることに違和感を感じる」
猿渡氏は、過去の「やりすぎ」とも言える多様性の推進を肯定的に捉えている。「最初にあれだけやったから、みんなの認識が高まってきた。ハリウッドの中にDNAとして組み込まれているので、揺り戻しがあっても元には戻らない」。
また、韓国の『イカゲーム』やK-POPの世界的ヒットを例に挙げ、「チャンスを開いたことによって、受け手の若い人たちは人種を気にせず楽しんでいることが分かった。チャンスを与えることが大事だ」と主張。
一方で、大物マダムタレントのアレン様は、自身のスタンスから、「自分が多様性の一部に含まれるからといって、認めてほしいと思ったことはない。好きにやっているだけ」といい、作品への多様性の導入について、「当初からの役柄であればいいが、無理に真逆のことをしたり、多様性を当てがおうとすることに受け手側が違和感を感じるのではないか。強制的に変えようとするのはおかしい」との考えを語った。
■参加型エンターテインメントへの移行
今後の展望について、北谷氏は「エンターテインメント・ビジネスはペンジュラム(振り子)だ。大きく揺れても元に戻る。それが何世紀も続いている」。
また、メディアの主戦場がテレビからネットへ移ることで、楽しみ方も変わるという。「15年後ぐらいには、全く違う形のエンターテインメントとして、世界中で皆が参加型でアカデミー賞を楽しむ方向に行くかもしれない」と、ネット時代の新しい可能性を示唆した。
(『ABEMA Prime』より)