ジブチとイエメンの間にあるバブエルマンデブ海峡。事実上、封鎖されたホルムズ海峡に代わる物流の要衝として注目されている場所です。
紅海など、この地域一帯を実効支配しているイエメンを拠点とする親イランの武装組織『フーシ派』が、アメリカやイスラエルに圧力をかけるカードとして、この海峡の封鎖をちらつかせています。
私たちは、今回、ジブチの沿岸警備隊の船に同乗することを特別に許されました。海峡付近に船はありませんでしたが、そこに向かう沖合の景色は違いました。
「複数の湾岸警備隊の船によって警備が始まりました。沖合の方を見てみますと、かなり多くの船がとまっています。10隻以上、肉眼で確認できます。常に、周辺を警戒して、武器も搭載されている」
通常、海域近くに駐留するのは60〜80人。それが、いまは100人に増えました。緊張の度合いは、日に日に増しています。
「将来、何が起こるかは、誰にも予測できません。海峡の状況は、安定していて安全ですが、世界経済は、地域・国家・国際レベルで相互に結びついているため、国際社会全体が影響を受けることになります」
米・イラン 双方が沈静モードか
アメリカ・イランの双方からは、ここにきて事態の鎮静化に向けた発言も相次いでいます。
イランのペゼシュキアン大統領は、先月31日、EUのコスタ大統領と電話会談を行い、戦闘を終結させる意思があると述べました。ただし、“再び攻撃を受けない確実な保障がある”ことが条件です。
トランプ大統は、ホワイトハウスで記者団に対し、こう述べました。
「おそらく2週間以内、長くても3週間だろう。いまも猛攻撃をかけていて、昨夜も膨大なミサイル製造施設をつぶした。(Q.2週間で戦争を終えるとおっしゃいましたか)2〜3週間で撤退する。続ける理由がないからだ」
「目標は達成された」と主張し、今後、イラン側との合意を結ぶことなく、一方的に手を引く可能性も示唆しました。
「体制転換は果たした。目標ではなかったことだが、『核兵器を持たせないこと』だけが、私の目標であり、それは達成された。我々の役目は、あと2週間と数日あれば終わる。敵を徹底的につぶしていく。“石器時代”のような状態に彼らを置いて、核兵器も手に入れられないと判断されれば、合意をしようがしまいが、去るだけだ」
ホルムズ海峡封鎖 対応は放棄か
ホルムズ海峡が、事実上、封鎖されたことへの対応も放棄するつもりのようです。
「海峡は、機雷を1つ海にまいて『危険だ』と騒げば、封鎖される。軍隊や国と戦うのとは違って、敵は、機雷をまいたり、船に向かって機関銃や携帯式ミサイルを撃てばいいだけ。フランスなど、海峡を利用する連中が、その相手をすればいい」
ニューヨーク・タイムズは、核兵器に使われる濃縮ウランは、いまもイラン国内に残っていると指摘しています。また、体制転換をめぐっては、「最高指導部が同じイデオロギーを持つ人物に入れ替わっただけ」という分析記事を掲載しました。
アメリカ国内では、こんな見方も浮上しています。
「近い将来“敗北”とはみなされない終結が見えないことに、トランプ氏は、いら立っています。『海峡は封鎖のままでもいい』と言うが、イラン側に莫大な利益を得る機会を与えてしまう。それが現体制の資金源になれば、アメリカ側の勝利とはいえない。トランプ氏は受け入れがたいはずです。だから、約7000人の部隊が派遣されたのでしょう」
実際、ヘグセス国防長官は、こう話します。
「イランが核開発の野心を捨て、海峡を開放するなら、それがゴールだ。イランに合意する気がないなら、我々は攻撃の強めるだけ」
ウォール・ストリート・ジャーナルは、新たに空母1隻が中東地域に展開されて、3隻体制になると伝えました。
振り回される各国 秩序はどこへ
振り回されるのは、中東からの石油の輸入に頼る国々です。
「当事国でないオーストラリア国民も、物価高という代償を払っています。この戦争による経済的ショックは、今後、数カ月続くでしょう」
「我々も、一刻も早い和平を願っていますが、はっきり申し上げます。あす、和平が実現しようとも、当面は正常に戻ることはないでしょう」
ただ、ヨーロッパ各国は、いずれも、トランプ大統領が求める「ホルムズ海峡の安全確保」への関与には、消極的な立場を崩していません。
「今週後半に外相が35カ国による初会合を主催します。あらゆる外交的、政治的措置を検討し、運航の自由を回復し、船舶・船員の安全を確保し、必需品の輸送再開に取り組みます」
模索されるのは、“アメリカ抜き”での秩序の構築。トランプ大統領は、イギリスメディアのインタビューに対し、「NATO=北大西洋条約機構からの離脱を真剣に検討している」と述べました。イギリスとの同盟は「張り子の虎」だとも話し、「イギリスには海軍すら存在しない」と不満をぶちまけたそうです。
「残念ながら、紛争終結のあとに、関係を見直すことは避けられない。NATOと、その同盟の価値について、再検証が必要になる」
トランプ大統領は、日本時間2日午前10時から、イランに関する「重要な最新情報」を提供するため、国民向けに演説することにしています。
トランプ大統領 発言の背景は
◆ワシントンの梶川幸司支局長に聞きます。
(Q.トランプ大統領の発言の狙いはどこにあるのでしょうか)
「最大のポイントは、ホルムズ海峡がイランによって、事実上、封鎖されたままでも、戦闘の早期終結を優先させる可能性を色濃く打ち出したことだと思います。軍事的な力でホルムズ海峡の封鎖を解除しようとすれば、事態の長期化や原油価格のさらなる高騰が避けられなくなるとの懸念が拭えず、戦闘終結の条件から、ホルムズ海峡を“切り離す”必要に迫られたものといえます。つい先ほど、トランプ大統領はSNSに『イランが停戦を求めてきた』と投稿しました。ホルムズ海峡を開放するまで攻撃を続けるとしています。土壇場での駆け引きなのか、真相はよくわかりませんが、イランと合意できなくても、早期に幕引きを図ろうとする可能性が出てきたと言えます」
(Q.戦闘の終結は歓迎すべきだが、ホルムズ海峡を放置したままの幕引きは、あまりにも無責任ではないでしょうか)
「仮に、そういう事態になれば、国際社会でアメリカの威信が大きく傷つくのは避けられませんから、専門家からも『無責任極まりない』との批判が相次いで出ています。ただ、トランプ大統領としては、事態が泥沼化するよりはマシだと判断する可能性があると思います。アメリカでは、きのう、レギュラーガソリンの全米平均が3年8カ月ぶりに『1ガロン=4ドル』の大台を突破しました。この1カ月で35%も上昇しているわけで、車社会のアメリカで、この『4ドル』を超えると、消費者心理を冷やす一つの節目とされています。ロイター通信の最新の世論調査では、3人に2人が『たとえ、政権が掲げた目標を達成できなくても、アメリカは早期に戦闘を終結させるべきだ』と答えています。こうした状況を背景に、これまで『地上作戦に踏み切ってでもイランを叩くべきだ』と訴えていた共和党重鎮の上院議員が、今週に入ってから『戦闘終結に向けた努力が大事だ』と言うようになった。こうした変化は、秋の中間選挙を見据えた共和党内での危機感の高まりといえ、トランプ大統領としても無視できないという事情があるといえます」
“極めて重要なメッセージ”か
トランプ大統領は、国民に向けた演説を行うとしています。戦闘の終結について話す可能性が高いのでしょうか。
◆アメリカの安全保障に詳しい、明海大学の小谷哲男教授に聞きました。
演説は、現地時間1日午後9時から行われる予定です。小谷教授は「プライムタイムの演説は、国内に時差のあるアメリカでは、最も多くの人が見るため、極めて重要なメッセージを出すときに行う。過去には、9.11の後、ブッシュ元大統領が、国民に団結を呼びかけたこともある」としていて、かなり重要なことを話す可能性があるといいます。
演説の内容については「明確に期限を区切るかどうかはわからないが、“目的を達成したので、アメリカ軍の作戦は終結する”という内容になる可能性が極めて高い」とみています。
何をもって“目的達成”とするのかというと、2つの柱があります。1つは濃縮ウラン、もう1つは体制転換です。
小谷教授は「アメリカ側としては、去年6月のイランへの攻撃で、濃縮ウランが地下深くに埋まり、取り出せないとしているので、それをもって“核開発を阻止した”という理屈だ」といいます。
ただ、これに関しては、IAEA=国際原子力機関が、3月に「濃縮ウランがイランの地下施設に保管されている可能性が高い」と発言しています。
体制転換について、小谷教授は「ハメネイ師やほかの危険な指導部を排除したので、“新しい理性的な人たちに体制転換した”という理屈。この合わせ技で“目的達成”と説明するのでは」 としています。
イギリスメディアのインタビューに応じたトランプ大統領は「NATOがイランに対する軍事行動を支持しなかったことから、NATO脱退を検討している」と語ったということです。小谷教授も、トランプ大統領が演説で「アメリカがNATO加盟国との防衛義務を一時停止するというような発表を付け加える可能性もある」とみています。
積み残った課題
『中東に配備したアメリカ軍』『イランとの協議』『ホルムズ海峡』このようなことが、今後、気になります。
小谷教授は、中東に配備したアメリカ軍について「トランプ大統領の中では“目的達成”したので、今後の軍事作戦はないのでは。展開した部隊も、徐々に撤収していくのでは」とみています。イランとの協議については「イランが応じるなら協議は続けるが、応じないならイランと話すまでもなく、一方的に引くことになるのでは。補償金ももらいたければ協議に応じろということになるのでは」とみています。
「トランプ大統領は、もう自己完結させているので、必ずしも協議は必要ないと考えているのでは」といいます。そして、ホルムズ海峡の開放について「“アメリカは手を引くので、ホルムズ海峡を通って原油を買っている国はイランと交渉しろ”という考えでは。イランが通航料を取る・取らないは、アメリカには関係ないというスタンスなのでは」とみています。
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