国際

日曜スクープ

2026年4月16日 17:00

トランプ政権“イランを海上封鎖” 最初の協議が突き付けた“両国の溝”今後の焦点は

トランプ政権“イランを海上封鎖” 最初の協議が突き付けた“両国の溝”今後の焦点は
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アメリカとイランの、戦闘終結に向けた最初の協議は合意に至らず、トランプ大統領はイランへの海上封鎖を宣言した。近く協議再開をも示唆しているが、先行きは見通せない。『読む日曜スクープ』は、イラン核開発やホルムズ海峡封鎖など、両国の隔たりを分析しつつ、軍事オプションを含めた今後の焦点を探る。

1)米軍艦船がホルムズ海峡を通過 協議に合わせた狙いは?

4月11日、アメリカ中央軍は、2隻のミサイル駆逐艦がホルムズ海峡を通過し機雷除去作戦を開始したと発表。数日のうちに水中ドローンを含む追加部隊も作戦に加わるとされる。パキスタンでの、米国とイランの協議開始に合わせたタイミングでの、米軍の作戦開始。小谷哲男氏(明海大学教授)は米国の意図を以下のように読み解く。

イラン側は協議の中で、ホルムズ海峡の新しい枠組みを求めてくることは明らかだった。アメリカとしては協議に合わせて、艦船2隻を通過させ、イラン側の要求に応じるつもりはないと、実力をもって示した。イージス艦を投入したのは、機雷が怖いというよりも、ミサイルやドローンを警戒してのこと。この後、機雷掃海するための船が向かってきて、より広い範囲で掃海し、アメリカが安全な航路を獲得すると。中央軍は「航行の自由」作戦と位置づけている。

齊藤貢氏(元駐イラン大使)は、イラン側の戦略を踏まえつつ分析する。

米・イラン間には様々なイシューがあるが、トランプ政権の一番の関心事はホルムズ海峡での自由な航行の回復だ。逆にイランは、ホルムズ海峡を自由に航行させないことでガソリン価格を値上げさせ、トランプ氏を政治的に追い込もうと。ホルムズ海峡に対する影響力を保つことに、イランは現時点では譲るつもりはない。ただ、ここで有人のイージス艦を攻撃するのはリスクが大きいので、今回は口だけで抑えていると私は考えている。

番組アンカーの杉田弘毅氏(ジャーナリスト/元共同通信論説委員長)も、イージス艦のホルムズ海峡通過を「大きな動き」と捉える。

イラン側の有効カードはホルムズ海峡の封鎖だと我々は認識しているが、トランプ氏は先日「イランにはカードがないということをイランは知らないのか」と発言。そこに、イージス艦が2隻ホルムズ海峡に入り、戻ってきた。接近してきたドローンを、イージス艦が破壊したとの情報もある。ホルムズ海峡内で、米イージス艦がそれなりの対応をしたとなると、イランのホルムズ海峡封鎖というカードの有効性に疑問符がつく。米イージス艦によるタンカー護衛の可能性が見えてきたと同時に、イラン最大の切り札が揺らぎつつある。

2)バンス副大統領が問題視「イランの核兵器開発」 協議への影響どこまで

4月11日から12日未明にかけての、最初の停戦協議は合意に至らなかった。バンス副大統領は「イランに核兵器を開発しないという意思が見られなかった」としている。小谷哲男氏(明海大学教授)は、協議のポイントを以下のように分析。

政権関係者によれば「バンス副大統領の、会談後の声明にエッセンスを詰めている」と。バンス氏が強調したのが核開発。イランがすでに保有している濃縮ウランの取扱い、さらに、長期的に核兵器を持たないという意味で、アメリカがイランのウラン濃縮を認めないのは明らかで、核、濃縮ウランの取扱いに相当時間をかけたものの、溝が埋まらなかったのだろう。 
今回の協議は、2015年にオバマ政権が結んだ核合意を否定するプロセス。より上のレベルでなければトランプ政権としては合意できない。そこが最後の最後までネックになったと思う。既に濃縮したウランの引き渡し、あるいは希釈、加えて今後ウランの濃縮を行わないこと。NPT(核不拡散条約)では平和利用は認められているが、それも諦めろと。これはアメリカにとって絶対的なレッドラインで、今回もそれを伝えたのだと思う。

一方、齊藤貢氏(元駐イラン大使)は、イラン側の視点から、協議のポイントを分析する。

今回の交渉の中心はホルムズ海峡だったと思う。客観的に見て、トランプ氏はホルムズ海峡が通れずガソリン価格が上がって困っている。緊急の事態を解決したかったに違いない。さらに核問題は両国間で何年もやり合っている。バンス氏が行っても1日で片付くはずがない。私の理解では今回のアメリカ側の発言は煙幕だ。 
アメリカは「核兵器」と言うが、真摯に議論するつもりだったのか。イランは、真偽は別にして、公式には核兵器は持たないと宣言している。「私は核兵器を持ちません」と言っている人に「核武装を許さない」では、その時点で議論が成立しない。 
もうひとつ、初日の議論が21時間となったのをどう捉えるか。外交官の経験から見ると、協議初日は、まず議題を決める。それに21時間かかったことは、核開発や賠償金を話し合うのか、入口の段階でもめていたというのが私の理解だ。

杉田弘毅氏(ジャーナリスト/元共同通信論説委員長)は、米国とイランの「時間軸の違い」を指摘。

専門家2人の見解は、まさにアメリカとイランそれぞれの観点からの分析で非常によくわかる。その上で私は、双方の時間軸が全然違うと考えている。アメリカとしては早期の決着、もしくは決着への道筋をつけるべく、バンス副大統領という、最高位の政府高官を対面交渉に送り出した。中間選挙やガソリン価格の高騰など、国内に対応すべき諸問題があり、これ以上の泥沼は避けたい。ところが、イラン側の時間軸は全く違う。イランとしてはホルムズ海峡の封鎖は長期に及んでも構わない。すでに制裁下にあるため、経済面での制裁が今後も長く続いても構わない。 
また、既にかなりのインフラが壊されているので、インフラへの総攻撃をほのめかされても、その犠牲を恐れるゆえに譲歩することもない。イラン側は、場合によっては、長期にわたってアメリカとの敵対関係を続ける構え。一方のアメリカ側はできれば5月、6月ぐらいまでに終わりたい、そのために今回、何らかの見通しをつけたい。交渉スタート地点でのそもそもの時間軸の相違があった。
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3)イランが協議に臨んだ本音は…トランプ政権どうする“今後”

交渉でイラン側の代表を務めたガリバフ国会議長は、革命防衛隊の空軍司令官の経験があり、国会議長を長く務めてきた。しかし、齊藤貢氏(元駐イラン大使)は、「ガリバフ氏が代表になった段階で、イラン側の交渉の自由度はかなり制約を受けた」と指摘。

確かにガリバフ国会議長は革命防衛隊の高級幹部だったが、20年前に政治家になっている。現在の革命防衛隊に全く影響力がないとは言わないが、仕切っているわけではない。おそらくガリバフ議長は決定権を有していない。革命防衛隊から対処方針を示され、それを交渉のテーブルに持ってきているのではないか。だから、ガリバフ議長が出てきた時点で、私は、この交渉は前に進まないとみていた。 
イラン側はホルムズ海峡を開放せずに管理したいが、海峡封鎖の継続には、国際社会から批判が集まる。そこで、協議を利用して「私たちは前向きに対応したが、アメリカが拒否したのでできなかった」と戦術的に対応した。そういう意味では、今回の協議の目的をイラン側は達成している。

対するアメリカ側は、交渉に臨むにあたりどのような判断をしていたのか。小谷哲男氏(明海大学教授)は、今後の展開も含め、以下のように分析する。

今回の交渉の中身は不明だが、交渉に臨むにあたっての政権内での議論は、イランが提示した10項目の提案には当初「ウラン濃縮の容認」が含まれていた。が、突き返したところ、新しい案からは外されていたため、交渉の余地ありと分析をした。さらに、新指導部がこの問題に関してどのようなスタンスなのか、実際に話してみないとわからないため、協議の場で相手の考えを見極めることに価値があるとの判断となった。バンス副大統領の国家安全保障担当補佐官アンディ・ベイカー氏はイランの専門家。彼を中心に、イランの一連の動きを踏まえ、まずはイランの出方を見る形で今回の交渉に臨んだ。 
協議後、トランプ氏が投稿したのは、この協議で合意に至らなかった場合のアメリカのオプションの 1つに、イランに対する海上封鎖があるという記事のリツイート。海上封鎖を考えているというメッセージを出した。軍事的な圧力を再び強める可能性は十分ある。

杉田弘毅氏(ジャーナリスト/元共同通信論説委員長)も、軍事オプションの可能性を排除しない。

イランは核兵器を持たないことを国是として、今求めているのはあくまで平和利用であると主張してきた。しかしアメリカは、イランを全く信用しておらず、平和利用と言いながら、いつか核兵器を持つために必要な道具を、材料を、要素を着々と集めていると思っている。両者の信頼関係が全くないところで、どのようにこの問題を議論していくのか。 
トランプ政権としては、制裁と軍事圧力を最大限にかけながら交渉をしてイランの核開発を全面放棄させるのがメインシナリオ。それができなかった場合のセカンドシナリオが軍事オプション。現在、一旦休戦となり外交が始まったが、どうにも水と油のような大きな隔たりがあるとなれば、軍事オプションに戻っていく可能性がある。米国が軍事力を使うことで外交目的を達成することは、これまでもあった。

(BS朝日「日曜スクープ」2026年4月12日放送より)

<出演者プロフィール>

齊藤貢(元駐イラン大使。2018年〜20年駐イラン大使。オマーン大使も歴任。著書「イランは脅威か」(岩波書店)。関西学院大学客員教授)

小谷哲男(明海大学教授。米国の外交関係・安全保障政策の情勢に精通。「日本国際問題研究所」研究主幹)

杉田弘毅(ジャーナリスト。21年度「日本記者クラブ賞」。明治大学特任教授。共同通信でワシントン支局長、論説委員長などを歴任。著書に「国際報道を問い直す-ウクライナ紛争とメディアの使命」(ちくま書房)など)

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