国際

日曜スクープ

2026年5月14日 12:00

ホルムズ海峡で“攻撃”応酬…米国とイランの思惑 新たな戦いか?合意進展の突破口は

ホルムズ海峡で“攻撃”応酬…米国とイランの思惑 新たな戦いか?合意進展の突破口は
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米国とイランの戦争終結に向けた協議は合意に至らず、トランプ政権はイランへの攻撃再開も示唆している。米中首脳会談後、事態は動き出すのか。今月に入りホルムズ海峡では、米国とイランは一時的にだが交戦状態に陥っていた。『読む日曜スクープ』は、両国の軍事力行使の思惑を読み解きつつ、今後を展望する。エネルギー危機の長期化は不可避なのか。

1)ホルムズ海峡“主導権”めぐり軍事力行使の応酬 “新たな戦い”の意図

アメリカ中央軍は5月8日、イラン船籍のタンカー2隻を攻撃。航行不能にしてイランへの入港を阻止したと発表した。空母「ジョージ・H・W・ブッシュ」から出撃した米海軍のFA−18スーパーホーネット戦闘攻撃機がタンカー2隻の煙突に精密誘導弾を発射したという。

小谷哲男氏(明海大学教授)は、この米軍の攻撃は「海上封鎖続行」とのメッセージと読み解く。

アメリカがイランに対する海上封鎖を始めて1カ月になるが、実際に攻撃をするのはこの1週間が初めてだ。これまでは警告を出し、行く先を変えさせていた。今回、空母の艦載機を使ってまで実際に攻撃をした一番大きな理由は、5月5日に、始めたばかりのプロジェクト・フリーダムを一時停止したことと関連している。様々な理由から一時停止しなければならなくなったが、海上封鎖は続けるというメッセージを強調するために、あえて空母艦載機で攻撃をしたという流れだ。

松本太氏(前駐イラク大使)も米国とイランの“攻撃”応酬を注視。米海軍艦艇3隻が5月7日、ホルムズ海峡を通過中、イラン軍による複数のミサイル・ドローン・小型ボートの攻撃を受けたとして、米中央軍はホルムズ海峡沿いのイランの港湾3カ所に「反撃」を加えていた。この攻撃から見えてくるのは…。

松本太氏(前駐イラク大使)
現場で何が起きているのか、事実をひとつずつ見ていく必要がある。5月7日は、米軍の駆逐艦に対して高速艇が6隻とか7隻近づいてきて攻撃を行った。それに対抗する形で、米海軍は自衛的措置として、大きく分けると3カ所に攻撃を行った。現状、イラン海軍の第1管区がホルムズ海峡を押さえている。攻撃を受けたゲシュム島、その北部の対岸のイラン南部、さらに東側の海岸線には、イラン革命防衛隊の拠点がある。バンダルアッバスは第1管区の本拠地。ゲシュム島と、その東側の一帯には、巡航ミサイルの拠点であったり、あるいはISR(情報収集・監視・偵察)のために、通信を傍受するレーダーがあるサイトが固まっているところだ。 
具体的にどこが狙われたのかはっきりしないが、イラン国内の報道によると、6カ所ぐらいで爆発があったという。相当な箇所が米軍に狙われて攻撃されたと。それは、イラン革命防衛隊の海軍に相当な反撃能力があると米軍側が理解していて、この機会にそこを狙ったということだ。これらの拠点の軍事能力が一掃されない限り、イランによるホルムズ海峡の封鎖は解除できない。これが根本にある問題だ。現状では、おそらくまだ100%こういった脅威を米海軍は排除できていない状況にあることが、今回の攻撃で分かった。だからこそ、現場におけるエスカレーションが継続している。
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2)「サウジからの要請」米軍“報復”に 「停戦中であっても…」  

5月7日の米軍によるイラン軍事拠点への攻撃について、小谷哲男氏(明海大学教授)は湾岸所国との関係から分析。「サウジアラビアの要請に応えて攻撃した」と指摘した。

5月4日のプロジェクト・フリーダム発動の時点で、アメリカ海軍の船に対してイラン革命護衛隊はミサイル・ドローン攻撃を行い、 UAEのフジャイラにも攻撃している。アメリカによる7日の攻撃は、これらイランの攻撃に対する3日遅れでの報復だ。当初アメリカは、イランからの攻撃は停戦違反にはならないと説明していたが、それを聞いたサウジが、「それでは困る」と。アメリカ海軍に対する攻撃だけでなく、UAEのフジャイラが攻撃されているのに、アメリカが何ら報復をしなければ、この先イランがサウジも含めて湾岸諸国に対する攻撃を増やすかもしれないと。ここは報復すべきという要請があり、3日遅れで報復をした。米軍が攻撃した拠点の一部は、イラン側がまさにそこからミサイルやドローンを飛ばしてアメリカのイージス艦2隻を攻撃したり、フジャイラに対する攻撃を行っていた。

この1週間、アメリカ軍はイラン関連の船舶を連日攻撃し、イランも船舶への攻撃や拿捕を行うなど、ホルムズ海峡で双方が実力行使を繰り返している。松本太氏(前駐イラク大使)は、イランの原油貯蔵施設も絡めて一連の攻撃“応酬”を分析する。

この間には、イラン側の石油タンカー合計5隻ほどが機関室に攻撃を受け、米海軍によって航行不能にされている。イラン側の原油貯蔵施設は満杯になりつつあり、空の古いタンカーを持ってきて、そこに原油を入れる必要が生じているが、こうした動きもアメリカによって阻止された状況だ。これに対してイラン側は相当な怒りを溜めている。そういうことが攻撃の応酬の大きな背景としてある。9日にもオマーンの港にいたイランの船舶に米海軍からの攻撃が行われている。この1週間、現場レベルの双方の応酬がホルムズ海峡で展開されており、停戦とは言いつつも、事実上、停戦がないような状況だ。
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3)米国イラン交渉の“現在地” 長期化不可避か…差し迫る危機

トランプ大統領はこれまで再三「イランとの合意が近い」と発言していた。小谷哲男氏(明海大学教授)は、その発言の背後に、水面下でイラン側から米政府にメッセージがあったと指摘する。

イランは、表向きはずっと強硬姿勢だが、2月28日のアメリカによる攻撃開始の翌日から仲介国を通じ、水面下では、アメリカとのディールを求める、極めて前向きなメッセージをアメリカに送り続けている。アメリカとディールしたいと。 
トランプ氏の一連の発言は、こうした水面下のイラン側のメッセージを反映したものと考えられる。マーケットを落ち着かせることも意図している。ただ、わからないのは、イラン側の水面下のメッセージが本当に、いわゆるイランの穏健派あるいは現実派と言われている人たちの声なのか、アメリカをかく乱させるためのものなのか。まだアメリカ側は見極めきれていない。

松本太氏(前駐イラク大使)は、エネルギー危機の長期化による、世界的な穀物不足や経済的打撃の拡大を懸念する。

現状を見ていると、すぐに停戦が成立するとは思えない状況だ。もし今すぐに正常化したとしても、実際にエネルギー市場が戦前の状況に戻るには半年以上かかると言われており、このまま年を越える可能性もある。日本の場合GDPも高く、途上国とは比べ物にならないレジリエンスがあるが、今、国際的に懸念されているのは、肥料価格が高騰し、エネルギー価格も高騰している中で、もう作付けをやめる、穀物を充分に生産できない途上国が出てくるのではないかといわれている。IMFの専務理事は先日、今後の経済見通しについて「一番いいケースはもうすでにシナリオとして破綻しており、その次の、より悪いケースが当てはまりつつある。さらに最悪の状況も覚悟せざるを得ない」という趣旨の発言をした。今夏以降、グローバル経済がガタガタと影響を受ける状況が発生しないか、最大の懸念だ。

番組アンカーの杉田弘毅氏(ジャーナリスト/元共同通信論説委員長)は、2015年のイラン核合意を踏まえつつ、イランの対米戦略を分析した。

イランの本音がどこにあるか。革命防衛隊側は、アメリカとの交渉は過去の経験から何もいいことがなく、常に騙されると考えている。交渉しなくても、制裁は解除されないがそれでも構わないという強硬派も存在する。イラン側の本音が見えない以上、予想もなかなか立たず、現状をどう判断するかも難しいが、私は基本的には、本格交渉が始まるか始まらないかという段階では、イランは明らかにエスカレーションさせてくると見ている。2015年のJCPOA合意(イランの核問題に関する最終合意)の際にも、交渉が始まる頃になると、イランは必ず新しい条件を突きつけて、相手側を混乱させた。早く合意したいという意向が全体的な雰囲気だったので、イラン側の要求を希釈した形でも受け入れることが多かった。 
戦火の再発に対する敷居は、明らかにイランの方が低い。トランプ氏としては今、中間選挙や様々な反イラン戦争の世論などを鑑み、またガソリン価格も明らかに高騰していて、戦火の拡大は避けたいという思いがある。イランとしてはアメリカの足元を見る形で攻めるはずだ。圧力のエスカレーションが、基本的なイランの対アメリカ交渉の戦略だと考える。 
こういう事態が起こり得るからこそ、節約なり、他のエネルギー源、他からの石油輸入元を見つける動きが国民的合意で進むべきと思う。そのためのナショナルコンセンサスを作らなくてはいけない。

(「BS朝日 日曜スクープ」2026年5月10日放送より)

<出演者プロフィール>

松本太(前駐イラク特命全権大使。一橋大学教授。著書に「世界史の逆襲」(講談社)など 英仏アラビア語に堪能)

小谷哲男(明海大学教授。米国の外交関係・安全保障政策の情勢に精通。「日本国際問題研究所」研究主幹)

杉田弘毅(ジャーナリスト。21年度「日本記者クラブ賞」。明治大学特任教授。共同通信でテヘラン支局長、ワシントン支局長、論説委員長などを歴任。著書に「国際報道を問い直す-ウクライナ紛争とメディアの使命」(ちくま書房)など)

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