アメリカのトランプ大統領と中国の習近平国家主席が、北京で首脳会談を行いました。
会談に先立ち、歓迎式典に臨んだトランプ大統領。数えきれないほどのバイクに先導され、大統領専用車『ビースト』が広場に滑り込むと、待ち受けた習主席と握手を交わしました。
“捧げ銃”という敬礼で出迎える儀仗隊の前を過ぎた後に待っていたのは、両国の国旗や花を手にした子どもたちです。
トランプ氏「中国に大きな敬意」
トランプ大統領、よほど心に残ったようで、続いて始まった首脳会談でも、こう切り出しました。
「習主席に深く感謝申し上げたい。何より、まれに見る歓迎だった。特に、子どもたちが印象深かった。みんな、うれしそうで、素敵だった。軍も非常に素晴らしかったが、子どもたちが素晴らしかった。あなたにとって、多くを象徴する大切な存在でもある」
さらに、習主席をこう持ち上げます。
「中国とあなたの偉業に敬服する。あなたは偉大な指導者だと、私は、皆に言っている。それを好まない人もいるが、あえて言いたい。真実だからだ。私は真実しか言わない」
しかし、対する習主席。
「尊敬するトランプ大統領、北京でお会いできて、とてもうれしいです。国際情勢は大きく変わり、世界は新たな岐路に立っています。中米両国が“トゥキディデスの罠”を乗り越えられるのか。大国間の新しいモデルを切り開けるか。これらは歴史の問い、世界の問い、人民の問いといえます」
古代ギリシャの歴史家・トゥキディデスは、当時の覇権国『スパルタ』が新興国『アテネ』の台頭に怯え、大戦争に陥っていく様子を詳細に記述しました。そこから、既存の大国と、急速に台頭する大国は、戦争が避けられない関係になってしまうことを“トゥキディデスの罠”と呼びます。それを、「乗り越えられるのか」と突き付けた習主席。
習主席「米中が危険な状況に陥る」
国営新華社通信によりますと、記者団が退出したあと、さらに、こう踏み込んだそうです。
「台湾問題は、両国の関係において最も重要だ。適切に処理すれば、両国関係は安定を保つことができる。しかし、適切に処理できなければ、両国は対立し、さらには衝突し、非常に危険な状況に陥る。アメリカは、台湾問題を最大限の注意を払って、処理しなければならない」
トランプ大統領がどう応じたかは、中国側もアメリカ側も明らかにしていません。
友好ムードは? 会談後に何が
その後、両首脳は北京市内にある世界遺産『天壇公園』へ。歴代の皇帝が祈りささげた特別な場所で、当初は、友好ムードを演出する狙いがあるとみられていました。
同行していたイギリスメディアの記者は、2人の様子について、こう話します。
「会談後のトランプ氏は、明らかに態度が変わっていました。式典では笑顔で、習主席の腕を小突いたり、身ぶりを交えて、言葉を交わしていました。天壇を訪れたときは、さほど、友好的な空気ではなく、不機嫌そうで、笑顔が少なく、ほとんど話しかけなかった」
友好ムードとは言い難い動きは、このあとも続きます。
海外メディアが、別室での待機を命じられます。建物への階段を登っていく両首脳の姿が見えなくなると、扉が閉められました。中国メディアは、中での様子を撮影しましたが、何が話されたのや、どのような雰囲気だったのかなど、詳しいことはわかっていません。
ホワイトハウスが発表した声明には、台湾への言及がなく、両首脳は、ホルムズ海峡の開放の必要性や、イランの核兵器保有はあってはならないという認識などで一致をみたと説明しました。
そして、夜、公式晩さん会が始まりました。
会場には、トランプ政権の閣僚だけでなく、イーロン・マスク氏ら企業トップの姿もあります。
まず、スピーチに立ったのは習主席。
「尊敬するトランプ大統領、レディース アンド ジェントルマン、中国訪問の晩餐会を開催できることをうれしく思います」
ここまでは、儀礼的なあいさつでした。続いて口を突いたのは、中国とアメリカの歴史や人口の違いです。
「14億の中国人民は、5000年以上の中華文明を基盤に、質の高い包括的発展を行い、中国式の現代化を推進しています。今年、アメリカは独立250周年です。3億のアメリカ国民は、愛国、創新、開拓の精神で、新たな発展に向かっています。ともに歴史の重荷を背負い、中米関係という巨大な船を、正しい航路に安定的に前進できるよう推進しましょう」
一方、トランプ大統領は、感謝の言葉を繰り返したうえで、9月24日に習主席夫妻をホワイトハウスに招く意向を表明しました。
「大変、光栄だった。素晴らしい一日だった。特に、わが友である習国家主席に、このような歓待を受けたことに感謝したい。ほかに類を見ない、素晴らしい歓迎だった。この歴史的な国賓訪問の温かさに感謝したい」
トランプ大統領は、15日、昼食会などをこなし、帰国の途に就きます。
習氏“対等”を強調の真意
◆中国総局の冨坂範明総局長に聞きます。
(Q.習主席の一連の発言ですが、中国はアメリカに劣っていないという強い自負心をうかがう内容でしたが、どうみましたか)
「中国の“大国”意識は、確実に高まっていると感じます。会談で習近平国家主席が“建設的戦略的安定関係”という新たな概念を打ち出しました。これは、米中関係の枠組みで、“競争”ではなく“協力”で、大国同士の関係を安定させ、アメリカもこれに同意したとしています。また、晩さん会では『世界の80億人に我々が関わる』と述べました。米中が世界にとって大切なので、アメリカと中国が責任を持って、世界を管理していきましょうと、“定義”したものともいえます」
(Q.台湾問題に関しては、アメリカを強くけん制していました。これをどうみますか)
「『アメリカにとっても危険だ』という発言ですが、ある意味、脅しのようなもので、かなり強い発言です。少なくとも、去年秋に釜山で会談したときには、このような強い内容は、発表内容には含まれませんでした。また、中国政は今回、メディアを使って、台湾問題について、アメリカへの強いけん制を国内向けにアピールしています。というのも、会談がまだ続いているなかで、中国国営の新華社通信が、習主席の発言内容を詳しく速報するという異例の動きがありました。早く国民に向けて『台湾問題については強く出た』と知らせたかった。それだけ会談でも譲れないトピックだったといえます」
台湾問題触れない意図は
一方、アメリカ側の声明の中で「ホルムズ海峡の開放などで、米中が一致した」と成果を強調していていますが、具体的な成果といえるのでしょうか。
◆ワシントン支局の梶川幸司支局長に聞きます。
「イラン情勢の長期化を懸念するアメリカの世論やマーケットに向けて、会談の成果をアピールした形ですが、まさに想定内。この程度の内容でイランがたじろぐはずがありませんから、ホルムズ海峡のこう着状態に進展があったとは、とても言えないと思います。トランプ大統領としては、行き詰まった状態を打開するために、習主席から何らかの協力を引き出したい思惑があったはずですが、本音のところは、中国に当面の間、イラン産の原油を買わないよう確約させたかったのではないでしょうか。アメリカは、現在、イランへの経済的な圧迫を強めることで譲歩を迫ろうとしていますから、中国からもイランに圧力を加えてほしかったところ、その目論見は不発に終わったといえます」
(Q.中国側が強硬に主張する台湾問題に、アメリカの声明では一切言及がありませんでした。 その理由はどうみますか)
「今回のトランプ大統領の会談の主たる目的は、中間選挙に向けて、経済的な成果を挙げることにありました。それを中国から確実に引き出すためにも、次は、習主席にアメリカに9月に来てもらい、会談を重ねる必要があります。ホワイトハウスとしては、台湾をめぐる議論がどうだったのか、ことさらにアメリカの立場を説明することはプラスに働かないと判断した可能性があります。今回、台湾をめぐって、何らかの譲歩をしてしまうのではないかという懸念があったわけですが、アメリカ国内では、中国に対抗しようという認識が超党派のコンセンサスとしてありますから、安易な譲歩は、トランプ大統領の政治的な立場を弱めてしまいかねない恐れがありました。中国にもアメリカの政治情勢にも配慮して、今回は、台湾については言及しないという判断になったのではないかとみられます」












