世界が注目した米中首脳会談。二つの超大国「G2」のトップが北京で会談した。しかし、共同会見も共同声明もなかった。
勝者はどちらだったのか。国際政治学者の舛添要一氏は「3本勝負で言ったら、2本とった習近平国家主席の優勢勝ち」と語る。
9年前の因縁と、激変した両国の力関係

話は9年前にさかのぼる。習氏は2017年4月、1月に就任したばかりのトランプ大統領のフロリダの私邸に招かれた。表向きは「新時代の米中関係」を演出する歓迎ムード。しかし、ゴングが鳴ったのは、晩餐の席だった。
元テレビ朝日外報部でインサイダ編集長の中丸徹氏によると、「(トランプ氏は)今、シリアに59発のトマホークを撃ち込んだところだ」と習氏に言ったという。2017年当時の対中貿易赤字は約42兆円。膨れ上がる対中貿易赤字にいら立つトランプ氏の奇襲攻撃に、習氏は「10秒くらい絶句して、通訳を通じて『今何と言いました?』と聞き返した」(中丸氏)と驚きを隠せない様子だったという。
トランプ氏は関税で追撃。2018年7月、産業機械などに25%の追加関税。その報復に中国は大豆や自動車に25%関税。関税の応酬は、1年足らずで28兆円規模に。世界のサプライチェーンが悲鳴を上げた。
2018年12月にはファーウェイ副社長が、アメリカの要請で、カナダで拘束。半導体の供給を絞られ、貿易戦争で譲歩を迫られた。
しかしそれから8年。舛添氏は「もう世の中は完全に変わった。中国の方がはるかに上に見える」と評する。
国の経済活動を示すGDPでは、中国はアメリカに迫りつつある。さらに、軍事費では世界第2位と、9年間で倍に膨らんでいる。
首脳会談の舞台「天壇公園」が意味するメッセージ
9年前とは違う関係値の中で行われた米中首脳会談。習氏はトランプ氏をある場所へと案内した。北京市内にある世界遺産「天壇公園」、かつて皇帝が五穀豊穣を祈った聖地だ。
1971年、米中国交正常化のためキッシンジャー大統領補佐官が、極秘に中国を訪れ、散策した場所。翌年、電撃的なニクソン訪中実現のお膳立てとなった。断絶していた米中の扉をこじ開けた、その“ゆかりの地”に、なぜ習氏はトランプ氏を招き入れたのか。
人民大会堂での会談では、トランプ氏が「あなたは偉大な指導者です。あなたと同席できて光栄です。友人でいられて光栄です。米中関係はかつてなく素晴らしいものになるでしょう」と発言。
習氏は「両国はライバルではなくパートナーになるべきです。お互いに相手の発展を支え合って共栄共存し、新しい時代の大国の付き合い方をすべきです。2026年が中米関係の未来を切り開く、歴史的で象徴的な年になるよう期待しています」と返した。
トランプ氏 vs 習近平氏の3本勝負
笑顔の裏で3本勝負のゴングが鳴った。第1ラウンドは「貿易・経済」だ。トランプ大統領が北京に連れてきたのは、外交団だけではなかった。Appleのティム・クックCEO、NVIDIAのジェンスン・ファンCEO、Teslaのイーロン・マスクCEOなど、アメリカを代表する巨大ビジネスのキーマンたちを北京に同行させた。
会談での建前は、アメリカ側は「完全に互恵的な関係でこたえるつもりだ」、中国側は「アメリカとの互恵協力の強化を歓迎する」だった。
会談後、トランプ氏は勝ち誇る。「農家の人たちは、とても喜ぶだろう。中国は数十億ドル分の大豆を購入することになる」。さらに中国はボーイングから、航空機200機を購入することで合意したという。大豆と航空機の成果が、中間選挙を控えるトランプ氏のアピール材料となった。
この勝負、アメリカが1本とったかに見える。しかし舛添氏は、「中国はいつも『買う』と言って買わない」と、不確定要素付きの1本だとする。
さらに、ずらりと並んだアメリカの経済人たちの行列に、舛添氏は習氏の計算を読む。「中国がほしいのは、ただ一つ。アメリカの最先端の技術だけ」。さらに「習氏はトランプ氏の足元を見ている。それはズバリ民主主義の弱点だ」とも語る。
米中の第2ラウンドは「イラン情勢」だ。2026年、アメリカはベネズエラ、そしてイランを武力攻撃。共通点はいずれも中国に原油を輸出している国だ。ホルムズ海峡の緊迫は、中国にとっても痛手のはずだ。
会談での建前は、アメリカが「『イランに核は持たせない』『ホルムズ海峡の早期解放』で認識一致」、中国が「『ホルムズ海峡の軍事化』『通行料徴収の試み』に反対」だった。
強気を装ったトランプ氏と、強気を貫いた習氏。舛添氏は「ホルムズ海峡で困っているのは、よその国。中国はあまり困っていない。アメリカが中東で武器を消耗してくれることは、中国にとって願ったりかなったり」と、イラン問題では中国が1本とったと見る。
第3ラウンドは「台湾問題」。密室で習氏は「適切に処理できなければ、米中は非常に危険な状況に陥る」と、強い言葉をトランプ大統領に突きつけたとされる。しかし記者たちが台湾について矢継ぎ早に質問したが、両氏が答えることはなかった。
あの能弁で必要以上のことをしゃべるトランプ氏が、習氏とメディアの前でなぜ無言を貫いたのか。舛添氏は「答えようがなかった」として、台湾問題では中国が1本取った形と見る。しかし、習氏サイドにもアキレス腱とも言える裏の顔があると指摘する。「実は習氏にも表立って言えない事情がある」。
米中首脳会談について国際政治学者が解説
今回の会談について、舛添氏が解説する。「非常に低い評価。お祭り騒ぎだけだった。大歓迎して、大晩餐会をやり、天壇公園を見て、実質的に何が決まったか。例えば世界中の人が一番困っているのは、ホルムズ海峡だ。石油が来なくなり、日本も全部値上がりして、物がない。トップ2人が話して、『やめさせる。今日で終わりだ』と、なぜ言えないのか。何にもない。『何のためにやったのか』が、私の極めて厳しい評価だ」と手厳しい。
9年前の会談と比較して、「力関係が全く違う。論外なぐらいに差が縮まっている。GDPを見ると、どんどん中国が増やしている。もちろん差はあるが、この趨勢(すうせい)が続くと(中国が強くなる)。ちなみに日本はドル換算で名目GDPが減っているため、相手にされない、みじめな状況だ。(中国は)軍事費も伸ばしている。同じお金をかけても、中国の方が安く物を作れれば、戦闘機の数も増える。ものすごい勢いで軍拡をやっている。空母艦も今、4隻目を作っているという。アメリカは確か11隻だ」と、国力の変化を示す。
なぜ天壇公園に案内したのか。「キッシンジャー氏が来た米中国交回復ゆかりの地だ。前回メラニア夫人と来た時には紫禁城を見たため、次に何か見るとなると天壇公園。だが、もっと大事なのは中南海に行ったこと。中南海は中国共産党の皆が住んでいる権力の中枢だ。私も副首相と話す時に呼ばれたことがあるが、普通は入れない。トランプ氏が『ここに首脳が来たことあるのか』と聞き、『まれにしか来ない』と答えると、『俺は特別だ』と喜ぶ。前回は連れていってもらえていないため、世界遺産の見学よりも大きい」。
1本目の勝負、貿易・経済の成果については「一応は協力しようと、互いに物を買う。中国は『関税を止めてくれ』と言い、アメリカは『市場を開放してくれ』と言う。だが、(中国はアメリカの)最先端技術だけが欲しい。NVIDIAのファンCEOを連れていったが、最先端技術がもらえるのか。それはAIなどで必要。先端技術をもらえば、もう中国は電気自動車でもドローンでも勝っている。AIの一番いいところだけ欲しいということだろう」と予想する。
その他の貿易は「大豆を買うのは、毎回そうだが、アメリカの農民の票を得るために、『俺が言ったから、売れてもうかっただろう』と言うためだ。ボーイングは最初、500機や750機と言っていたが、200機しか約束できず、ボーイングの株が『予想以下だ』と下がった。『何月何日に何機導入する』というわけではないため、途中で消える可能性もある。『いろいろなものを買ってもらった』と言うが、本当にトランプ氏が勝ったのかは疑問だ」と考える。
2本目の勝負である「イラン情勢」については、「ホルムズ海峡を早く開けなさいというのは、中国も輸入している石油の3分の1は、ホルムズ海峡経由のため、やってもらった方がいい。ただ、中国のタンカーだけはイランに通してもらっている。他のルートもいろいろあり、日本よりは困っていない」のだという。
また「『通行料の徴収はやめよう』は当たり前。備蓄も相当にあり、石炭も使い、他の手でいろいろ入手しているため、日本ほど石油で困っていない。本来ならば、イランに対して圧力をかけられるはずで、習氏は『早くやめろ』と言える。しかし言わずに、『武器をどんどん消耗してくれれば、こちらが台湾侵攻するときに、アメリカは来られないだろう』という話が念頭にある。一番困るのはアメリカの台湾援助。ここで武器を使ってしまえばなくなる。そういういろいろな思惑もある」とも解説する。
3本目の勝負は「台湾問題」だ。「核心的利益は『中国は1つであり、台湾の独立を絶対に許さない』ということ。2025年11月の高市早苗総理の国会答弁から、日中関係はずっと悪いままだ。『台湾は別の国』のニュアンスで取られてしまい、これは絶対に許さない。観光業界などは困っていても、半年たっても改善しようとしない。それぐらい怒っている」。
つまりは「習氏にとって、残っている課題は台湾だ。経済が勝ってきて、自分の独裁権力も持っている。『台湾統一が自分の最後の仕事だ』と。来年もう1期やるだろうが、その時に絶対それだけはやる」という見通しだという。
そして、「『(台湾への)武器輸出をやめろ』と言っているはずだ。『やるかどうか考える』とトランプ氏が言ったのは、相当厳しく言われたのだろう。この話が終わる前に、中国の国営放送は『習氏がかなり厳しくトランプ氏をやり込めた』と流している。国家を挙げた大宣伝だ」と話す。
しかしながら、本音では「中国にもいえない事情」があるという。「台湾を今、武力侵攻できない。人民解放軍がガタガタになっていて戦えない。なぜかというと、トップ全部の首を切っている。5月7日には、国防大臣経験者2人に執行猶予付きの死刑判決が出た。驚いたのは、1月に張又侠氏と劉振立氏というトップのトップが失脚したことだ」。
張氏は中央軍事委員会の副主席で、「主席は習氏で、ナンバーツーが失脚した。中央軍事委員会は7人からなり、習氏はもちろん入っている。あとは規律委員やるぐらいの軽い人2人しか残っていない。2025年6月には、非常に重い役割だった苗華氏と何衛東氏がいなくなった。つまり人民解放軍で実戦経験のあるトップがいなくなり、今『台湾を攻める』と言っても攻められない」と語る。
米中首脳会談の「3本勝負」を総括すると、「完全に習氏の勝ち。1本目の勝負で、一応『物を買ってもらう』と言ったが、全くトランプ氏が有利になっていない。秋の中間選挙で勝てるかというと、全くプラスになっていない」と結論づける。
舛添氏が指摘した民主主義の弱点を今後の外交日程から解説する。11月18〜19日にAPEC首脳会議、12月14〜15日にG20首脳会議が予定されている。だが「今のまま行くと、中間選挙で負ける可能性が強い」といい、「もし負ければレームダックだ。政権が使い物にならなくなる。APECやG20で使い物にならなくなり、2年で消え去るような相手と話してもしょうがないとなる。習氏は消えず、もう1期くらいはあるだろう」と推測する。「選挙がある国が弱い。中間選挙で勝てば別だが、片一方には選挙がない」。
(『ABEMA的ニュースショー』より)