トランプ米大統領が6月14日(日本時間15日午前)、イランとの戦闘終結に向け合意したと発表。17日には合意の覚書に署名したが、イランの核開発やホルムズ海峡の開放など、これからの交渉期間60日で協議する内容には難題も多い。『BS朝日 日曜スクープ』は、トランプ氏が13日「あす合意」と表明したのを受けて、ホルムズ海峡で続いていた両国による攻撃の応酬を詳報。その際「上手く行かなければ究極の代替手段」とコメントしたことについて、専門家は核兵器使用の可能性に言及したと指摘する。
1)合意に向かう一方で…激化していたホルムズ海峡での主導権争い
アメリカとイランは戦争終結で合意したものの、それまでホルムズ海峡の緊張は続いていた。6月12日、アメリカ中央軍は「イランは、ホルムズ海峡を航行する商船を攻撃しようと複数のドローンを発射した。米軍はここ数時間ですべて撃墜した」と、イランが商船への攻撃を継続していると発表。イラン中央司令部はその前日11日、米軍からの攻撃を理由に「ホルムズ海峡での石油タンカーや商船などすべての船舶の航行を禁止する」と再封鎖を宣言していた。
田中浩一郎氏(慶応義塾大学大学院教授)は依然として不安定な状況が続くことに懸念を示した。
小谷哲男氏(明海大学教授)は、米軍の駐留が当面は続くと指摘する。
2)夏に迫っていた原油不足“Xデー” 中東では“もうひとつの海峡”も懸念
長引く戦争で世界のエネルギー事情も限界が迫っているとの指摘もある。英国王立防衛安全保障研究所は「ホルムズ海峡が開放されないと、夏が終わるまでにEUやアジアは石油が枯渇し、アメリカは9月に原油不足になる。アメリカはEUとアジアに原油を輸出し続ける限り、いずれは原油不足になる」として、備蓄が枯渇する恐れがあるとしている。
原油価格はトランプ大統領の発言で乱高下しているが、ホルムズ海峡が開放されない限り、原油不足の問題はさらに深刻化していくのか。
アメリカでは備蓄原油がもう低下している。アメリカだけでは中東の止まった原油の供給分を補うことはできないので、原油だけではなく原油に携わる工業製品もどんどん枯渇していく。イランがホルムズ海峡の主権を握るか握らないかは、中長期的に非常に重要な問題 だ。イランに主権を握らせても、徴収料を払えば元に戻ると見ている人もいるかもしれないが、そのような問題ではない。イランは将来いかなる理由をもってでも、いつでもまたここを止めることができることになる。そんな中で通常の航行はありえない。保険料も増え、世界のエネルギーサプライチェーンは大きく変えざるを得ない。もはや中東には依存できないという状況になることを念頭に、主権を渡すか渡さないかの議論をしないといけない。
杉田弘毅氏(ジャーナリスト/元共同通信論説委員長)も、今後のエネルギー調達に関して日本の状況に懸念を示すとともに、イランによるホルムズ海峡の通航料徴収について慎重な議論の必要性を指摘。
中東での船舶の航行をめぐっては、ホルムズ海峡以外にも動きがある。8日、イエメンの親イラン武装組織フーシ派は「紅海でのイスラエル船舶の航行は完全に禁止される」と声明を発表。さらにフーシ派関係筋の話として、紅海のバブエルマンデブ海峡を通過する船舶を攻撃する可能性に言及した。
フーシ派はどちらかと言うとイランと独立した行動を示す。連帯していることはあるとしても、イランの指令で動いているかどうかは怪しい。これまでの行動を見ていても、必ずしもイラン側が望んでいるとは思われない行動に打って出てきているところもあった。今回も、イランとイスラエルが交戦状態に再び陥ったことから、6月8日の声明が出てきているわけではあるが、改めて何かしらかの行動を起こす余地はそもそもある状態だった。今後とも、イランが望むと望まないとに関わらず、フーシ派の判断で独自に動く可能性もあることは念頭に置く必要がある。
3)トランプ大統領『究極の代替手段』 専門家「“核攻撃”の可能性に言及」
アメリカ東部時間6月13日午後0時45分(日本時間14日午前1時45分)に「この合意はあす署名される予定で、署名後すぐにホルムズ海峡はすべての人に開放される」とSNSで発表したトランプ大統領。
さらに、「もし上手くいかなければ、『究極の代替手段』がある」とコメントした。この『究極の代替手段』が意味するものは…。
13日土曜日のSNSの『究極の代替手段』というのは、核攻撃の話をしている。トランプ氏流の核の脅しだ。本気とは思えないが、『究極』と書きこむぐらい、いら立っているということ。アメリカから見れば、もうまとまる寸前であるにもかかわらず、最後の最後でイラン側が時間稼ぎをしていたので核攻撃をほのめかした。とはいえ今は、交渉をまとめたいというのが本音だろう。
ジョセフ・クラフト氏(経済・政治アナリスト)も同様に、この発信は核攻撃を示唆するものとの見解を示したうえで、トランプ氏の発信に警鐘を鳴らした。
杉田弘毅氏(ジャーナリスト/元共同通信論説委員長)は、米軍の反対は避けられないと指摘する。
(『BS朝日 日曜スクープ』2026年6月14日放送より)
<出演者プロフィール>
小谷哲男(明海大学教授。米国の外交関係・安全保障政策の情勢に精通。「日本国際問題研究所」研究主幹)
田中浩一郎(慶応義塾大学大学院教授。在イラン大使館で専門調査員。国連政務官を経験。イランを中心に、中東地域の安全保障などを研究)
ジョセフ・クラフト(東京国際大学副学長。投資銀行などで要職を歴任。米政治経済の情勢に精通。米国籍で日本生まれ)
杉田弘毅(ジャーナリスト。21年度「日本記者クラブ賞」。明治大学特任教授。共同通信でテヘラン支局長、ワシントン支局長、論説委員長などを歴任。著書に「国際報道を問い直す-ウクライナ紛争とメディアの使命」(ちくま書房)など)