アメリカで今年11月に行われる中間選挙に向け、民主党の予備選挙が各地で進んでいる。コロラド州の下院予備選では、29歳の新人で急進左派のメラット・キロス氏が30年近く現職を務めた議員を破り、民主党候補に選ばれた。先月行われたニューヨーク州の予備選でも、2人の新人と元市議の合わせて3人が現職を倒した。この3人に共通するのは、ニューヨーク市のマムダニ市長からの強い支持を受けていることだ。
【映像】マムダニ市長の力強い“勝利演説”(昨年11月の映像)
マムダニ市長は、家賃の高騰抑制や富裕層への増税などを掲げて去年11月に市長に当選。トランプ大統領への対決姿勢を表明し、自らを民主社会主義者と名乗る。そのマムダニ市長が支援した候補者がニューヨーク州の予備選で勝利し、コロラドで勝ったキロス氏もまた民主社会主義者を名乗っている。トランプ大統領は、彼らを「民主社会主義者ではなく共産主義者だ」と批判し、「まともな人は共和党に投票するだろう」と強調する。
アメリカで今何が起きているのか。マムダニ市長就任から7カ月、ニューヨークそしてアメリカの今を、『ABEMA Prime』では現地ジャーナリストとともに考えた。
■「みんなが普通に暮らせる街」というメッセージがニューヨーカーに刺さった

ニューヨーク在住のジャーナリスト、シェリーめぐみ氏は、マムダニ市政について、「ありえないぐらい好調」だと評価する。「もしかしたら言ってるだけじゃないかと思っていた人も結構いたが、全部ではないものの着々と公約を実現してきているので、評価はさらに高まっている」。
また、マムダニ市長が掲げた「みんなが普通に暮らせる街を作る」というメッセージがニューヨーカーにとって「めちゃくちゃ新鮮だった」といい、「ニューヨーカーは今4人に1人が貧困ライン以下と言われていて、年収2000万円でも生活が苦しいという声が出始めている。ニューヨークは金持ちしか住めない街だと半ば諦めていたところがあった。そこにマムダニが『みんなで暮らせる街は作り直せる』というメッセージを強く打ち出してきたので、大きな希望が生まれた」。
治安についても「マムダニが市長になってから犯罪率が下がっている」と語る。「ハーレムでは、週末に警察官が街角に立つようになり、なんとなく警察が溶け込んできている。それに対して、みんな怒っていない」。この状況に、「貧困率は下がっていないし生活は苦しいけれど、そこに希望が生まれているのが街の雰囲気をすごく良くしている」と分析した。
■「勝ち組が勝ち続ける」資本主義への反発が生んだムーブメント

こうした流れについて、文化通訳でシンガーソングライターのネルソン・バビンコイ氏は「いきなり始まったわけじゃなくて、2016年のバーニー・サンダーズから流れがある。アレクサンドリア・オカシオ=コルテーズがそれを引き継いで、10年かけて醸成されてきたものだ」との見方を示す。
その上で、この動きの根幹にある問題として、「既存の資本主義は今もう終盤に来ていて、勝ち組が勝ちまくっている。お金があればお金は作れるが、お金がないとどうすればいいのか。アメリカは極端に格差が広くなった。そこから生まれてきたムーブメントだ」。ただし「大事なのは、民主社会主義は資本主義をぶっ壊そうとしていない。資本主義の中でうまくやろうと、日本みたいなマイルドな社会主義的な国にしようということだ」と語る。
1940年代には9割の子どもたちが親の所得を上回っていたが、1985年ごろには約4割にまで落ち込んだというデータも示しながら、「アメリカンドリームはどこへ行った、という状況が長年続いている。借金まみれで抜け出せない人たちがどうすればいいかわからなくなっている」と説明した。
■家賃凍結の「歪み」と日本への教訓
公約の目玉となっている家賃値上げの凍結について、懸念する声もある。リザプロ代表の孫辰洋氏は「長期的に見たら若者に対してデメリットにならないか心配だ。オーナー側が新しく家を建てたり、既存の不動産を更新したりするインセンティブが消滅するのではないか」と問題提起した。
昭和女子大学の総長顧問、八代尚宏氏も「家賃を下げればいいというのは今すでに家を借りている人にとってはいいが、これから借りる人にとっては非常に大変だ。日本も全く同じことをやっていたが、私はいい政策ではないと思う」と指摘する。
後々歪みが出てくるという懸念に対し、バビンコイ氏は「これは一時的なストッパーと考えた方がいい。今の日本の消費税を減らすという話と同じで、やばいことになっているから一旦止めようということだ」。
日本への示唆について、八代氏は、「日本も何でも安くすればいいとか、消費税を下げればいいという考え方がある。だが、下がったら、また上げなければいけない。2年後に本当に上げられるかどうか、これはまさにマムダニ市長と同じ問題を日本も抱えている」との考えを示す。
実業家の岸谷蘭丸氏は、「アメリカはいつも新しいことをやって、大成功も大失敗も先に見せてくれているからありがたい。反面教師にするもよし、手本にするもよしで、ここ2年が終わった後どうなるかが見物だ。アメリカの行く先を決めるのはここ5年10年のやりくりだと思う」とした。
(『ABEMA Prime』より)