去年11月のニューヨーク市長選で当選したゾーラン・マムダニ氏が就任から7カ月を迎え、その政策と人気が国内外で注目を集めている。富裕層への課税強化と富の再分配を重視する「民主社会主義」を掲げるマムダニ氏は、家賃安定化制度の対象住宅について、最長2年間の家賃凍結(値上げ禁止)を決定。先月には市場価格より平均3割安い市営の食料品店を2027年までに開店すると発表し、弱者・貧困層へのケアを重視した政策を次々と打ち出している。
一方、アメリカでは11月の中間選挙に向けた民主党の予備選が進む中、コロラド州やニューヨーク州、ミシガン州などで急進左派とされる候補者が現役議員らを破るケースが相次いでいる。急進左派の「象徴」と目されるマムダニ氏の旋風が全米規模で広がりを見せるのか、その動向が焦点となっている。『ABEMA Prime』では、マムダニ氏の人気の実態と、急進左派がアメリカ政治に与える影響について考えた。
■今も続くマムダニ氏人気 ニューヨーク市内の反応は

ニューヨークの教会で20年以上暮らし、マムダニ氏を支持するゴスペル音楽プロデューサー・牧師の打木希瑶子氏は、政策の中でも特に家賃凍結を評価する。「昔から住んでいる人たちが、家賃があまりにも高いからとニューヨークを出なければいけなくなるのは不平等」と語る。
また、公約の一つである市内のバス全面無料化についても「バスを利用する方というのは車がない人、あるいは駅から遠いところに住んでいる方。そういう方々のための政策はやっぱりいい」と述べる。物価については「仕事ができない人とか高齢者の方にはとてもいいと思う」と市営スーパー構想にも期待を示した。
さらに打木氏は、アジア系の市長が誕生したことの意味を強調する。「コロナの頃は本当に大変で、ブロンドのカツラをかぶって外に出ていた。実際、友だちは見知らぬ人から道を歩いているだけで殴られる恐ろしい体験をした。アジア系の市長が誕生したというのは非常に嬉しい」と明かす。治安改善についても「殺人事件が減少したというニュースが流れていて、そういうデータを目にすることで安堵感がある」と話す。
NewsPicks・ニューヨーク支局長の森川潤氏もニューヨーク市の在住者として、マムダニ人気の持続を肌で感じると述べる。「当選した瞬間に絵本が配られまくり、うちの娘も読まされるほど。とにかく人気のある市長だというのは持続している」という。
家賃上昇には「私が住んでいたエリアは7年前からすると2倍近くになっていて、過剰だと思う」と指摘。「普通の人は住めないなというのは日本どころじゃないレベルで感じている」と語った。
富裕層流出については「課税強化を発表した際に反発はあって『出ていく』と叫んでいた人はいたけれど、当選前に叫んでいた人はほぼ出ていっていない」と語る。フリーアナウンサーの柴田阿弥氏も「税金だけで居住を決める人は少なくて、治安とか教育、仕事とか複合的な面があると思う。現時点では大きな流出は起きていないというのが私の感覚」と見方を示した。
マムダニ氏の戦略について森川氏は「アフォーダビリティ(手頃さ・安さ)というので全部攻めてきて、その一点突破で勝った人間」と分析する。「カルチャー、ジェンダー、差別、移民の話をほぼせず、お金の話だけをしてきた。ウォーク(意識高い系)と批判されることは1個もしてこなかったと思う」と述べ、その戦略的な絞り込みが幅広い支持を集めた理由だと説明する。
■アメリカの若者の変化「金持ち=成功者だと見なくなった」

明治大学政治経済学部教授の海野素央氏はマムダニ氏の人気の背景を、世論調査のデータとともに分析する。「FOXニュースが7月17日から20日に行った全国世論調査で、民主党支持者に限ると社会主義に好感を持てると答えた人は52%、好感を持てない人が43%だった。エコノミストの調査でも資本主義が良いシステムだと答えたアメリカ人は44%しかいない」と述べ、「マムダニ氏としては非常に票が集まる状況にある」と語る。
また「トランプ大統領の純資産は約1兆230億円、ベッセント財務長官は1100億円、関税交渉を担ったラトニック商務長官は3460億円。伝統的にアメリカでは『金持ち=成功者』だったが、今の若者はそう見ていない。超富裕層が大統領職を利用して富を得ていると見ている。だからマムダニ氏、オカシオ=コルテス氏、バーニー・サンダーズ氏の意見が刺さる」と説明する。海野氏は2018年にオカシオ=コルテス氏の選挙対策事務所でニューヨーク市ブロンクス区を個別訪問した経験を持ち、「その時に学生が『資本主義はダメだ、社会主義で富を分配するんだ』とはっきり言っていた。今はもっとすごいと思う」と述べた。
中間選挙への影響については、海野氏は「民主社会主義の候補対MAGA候補という構図になった時に、敗れた民主党主流派の支持者たちが果たして民主社会主義の候補に入れるのかどうか、投票に行くのかどうか。棄権したらトランプ氏に有利になる。そこが注目だ」と語る。
打木氏は若者の動向について、「本当の平等というものをアメリカは考えなければいけないと言い始めている。マムダニ氏の『富を分配する』という考え方は、聖書に一番近い。キリスト教の聖書の考えが道徳的なベースにあるところで、富を持っている人が分け与えるというほうに、クリスチャンの人たちが動いていくと面白いかな」と見立てた。
森川氏はAIによる雇用喪失という新たな要因も付け加える。「若者は今AIが大嫌いで、スタンフォード大学の卒業式でもブーイングが起きている。いい大学を卒業しても就職が決まらないということはアメリカで先に起こっていて、学費に毎年1000万円払って職なしという状況。そういう流れからも急進左派への支持が来るのではと個人的には思っている」と述べた。 (『ABEMA Prime』より)