ホルムズ海峡などで戦闘が続く中、今週、イランの最高指導者・モジタバ師が、軍事組織のトップらを新たに任命した。革命防衛隊の出身者が重用されたことで、イランの対米強硬路線が鮮明になったとの見方がある。こうした中、サウジアラビア、トルコ、パキスタンの3カ国が「イスラム版NATO」と呼ばれる共同防衛協定に署名。中東のパワーバランスはどう変化するのか。
革命防衛隊を重用
最高指導者の就任後、初めてとなる軍の高官人事がイランで行われた。
イラン・インターナショナルによると、10日、最高指導者のモジタバ師が軍や革命防衛隊の要職に以下の6人を任命した。
アリ・アブドラヒ氏 ※革命防衛隊出身
参謀次長
キウマルス・ヘイダリ氏
革命防衛隊 司令官
アフマド・バヒディ氏 ※革命防衛隊出身
革命防衛隊 副司令官
モスタファ・イザディ氏 ※革命防衛隊出身
革命防衛隊 海軍司令官
アリ・アズマエイ氏 ※革命防衛隊出身
民兵組織「バシジ」司令官
ホセイン・タエブ氏 ※革命防衛隊出身
この6人のうち5人が革命防衛隊出身だ。
この中で現代イスラム研究センター理事長・宮田律氏が注目しているのが、革命防衛隊司令官に任命されたアフマド・バヒディ氏。ワシントンポストによると、革命防衛隊のなかで対外工作を担う精鋭部隊、コッズ部隊の司令官や国防相、内務相などを歴任。対米交渉では対立的な姿勢を示していた。
さらにもう一人注目なのが、治安維持などを担う革命防衛隊傘下の民兵組織「バシジ」の司令官に任命されたホセイン・タエブ氏。イラン・インターナショナルによると、革命防衛隊情報機関の元トップで、2009年の反政府デモ弾圧に関与した人物だという。
また、イラン政府は9日、国家安全保障最高評議会の事実上のトップである事務局長がモフセン・レザイ氏に交代したと発表。レザイ氏は、1980年代、イラン・イラク戦争で革命防衛隊の司令官を務めた人物で今年3月からはモジタバ師の軍事顧問も務めている。
ウォールストリートジャーナルによると、今回の人事の狙いはイランの核開発計画とホルムズ海峡問題で譲歩を求めるトランプ大統領との交渉で断固として譲歩しないという、モジタバ師の決意を表しているという。
政権中枢の勢力図に変化
こうした中、イランの政権中枢の勢力図に変化が生じているという。
米戦争研究所(ISW)の分析では、米国との交渉方針を巡って現在、政策を主導している対米強硬派のバヒディ氏と、ペゼシュキアン大統領、ガリバフ国会議長、アラグチ外相ら交渉・妥協派とが対立しているという。
イラン・インターナショナルによると、3月にはこんな確執もあったという。ペゼシュキアン大統領が空爆で死亡した情報相の後任を任命しようとした際、革命防衛隊の副司令官だったバヒディ氏が阻止したという。その理由を「戦時下という状況を鑑み、重要かつ機密性の高い指導的地位はすべて、追って通知があるまで革命防衛隊が直接選任・管理しなければならない」と話していたという。
米戦争研究所(ISW)の分析では、現在、バヒディ氏が率いるグループが海峡の完全支配を主張し、現時点で政策を主導している可能性が高いとみている。
背景に豊富な資金力?
革命防衛隊はなぜ強大な権力を維持できるのか?背景に豊富な資金力があると言われている。
イラン国内の状況から見ていく。アメリカのフォーブスによると、制裁の影響などで6月のインフレ率は前年同月比で88.6%と、1年前よりも物価が2倍近くになっているという水準だ。また、食品価格の上昇率は世界でも最高水準だ。こうしたことから人口9200万人のうち3分の1以上にあたる3200万〜4000万人が「絶対的貧困線」、人が生きるための最低ラインを下回る生活になっているという。
一方、イギリスのエコノミスト紙によると、革命防衛隊の収入は急増している。革命防衛隊は、去年のイランの原油輸出のおよそ半分となるおよそ4兆8000億円分を担っている。輸出先は主に中国で、今年に入り原油高で収入が倍増しているとみられる。
また革命防衛隊は、複数の巨大複合企業を抱えており、イラン企業のおよそ半分に関与。建設・住宅・医療品製造など海外競合企業の撤退と物価上昇が相まって収益が急拡大しているという。
さらに、港湾、空港、国境検問所を運営していることから、密輸取引を独占。武器輸出に紛れ込ませていたたばこや麻薬などの密輸品に海運の混乱でプレミア価格が付き、イランの貿易業者に有利に働いているという。
米国頼みの安全保障脱却?
中東のサウジアラビアがアメリカ頼みの安全保障から脱却するため、メッカ共同防衛協定に署名した。
7日に協定を結んだのは、核保有国であるパキスタン、原油で資金力の豊富なサウジアラビア、防衛産業が急成長しているトルコの3カ国。3カ国の共通点は、いずれもアメリカとは親密だが、イスラエルとはパレスチナやガザ問題をめぐり、緊張関係にある点だ。
協定には、いずれかの国へのいかなる武力攻撃も3カ国全体への攻撃とみなすとされている。
朝日新聞によると、トルコの中東専門家は「アメリカへの信頼が低下し、イスラエル、イランへの警戒感が高まる中、各国は抑止力の多角化を迫られている」と指摘している。
(2026年8月13日放送分より)






