終戦の日を2日後に控えた8月13日、ロシアのプーチン大統領が北方領土を初訪問した。
実はロシアは、北方領土が面する海域、オホーツク海を核戦略上、“聖域”と重要視し、周辺の“要塞化”を進めてきた。さらに、中国の対日批判にも足並みをそろえており、軍事的な連携も強めている。『BS朝日 日曜スクープ』は、安全保障の観点からプーチン氏の言動を読み解く。
1)ロシアが重要視する北方領土 防衛省「戦略原潜の活動海域を防御」
今年6月の防衛省の資料によると、ロシア軍にとって「北方四島・千島列島における軍備強化は、戦略原潜(戦略原子力潜水艦)の活動海域として重要なオホーツク海を防御するとともに、ウラジオストク配備の主要水上艦を中心とする艦艇の太平洋へのアクセスを維持していくうえで重要」とされている。サハリン南部、ウラジオストクのほか、カムチャッカ半島から北方四島に向かう直線状に地対艦ミサイルが配備され、国後島、択捉島、サハリン南部には地上軍部隊や戦闘機、ウラジオストクには主要水上艦、カムチャッカ半島南部には原子力潜水艦の基地が配置されている。
核戦略の主力とされる戦略原潜は、対立する核保有国から先制核攻撃を受けたとき、被害を免れて確実に報復できる戦力として位置づけられる。ロシアは、“戦略原潜の活動海域”オホーツク海に面する北方領土の軍事拠点化を進めてきた。
兵頭慎治氏(防衛省防衛研究所 研究幹事)は「北方領土の本質的な問題は、軍事・安全保障上の問題になる」と分析する。
これに加え、新たな地政学的な重要性が出てきたのが北極海航路だ。この航路もオホーツク海を通る。ウルップ島の北にあり、地対艦ミサイルが配備されている松輪島は、5年前、新たにロシアが軍事拠点化を始めた。北極海航路の通り道であり、軍事的にコントロールする必要性が出てきたためだ。
駒木明義氏(朝日新聞編集委員)は、北方領土に対するロシアの姿勢の変化と、戦略的価値の位置づけが重なると指摘する。
プーチン大統領も繰り返し主張しているが、ロシアは、島を引き渡せば米軍基地が置かれると危惧している。その後、プーチン氏は「日本にある米軍基地へのミサイル配備に反対」と発言。さらに公の場でではないが、ロシアの報道によれば「日本がまずアメリカとの同盟関係を解消しないと話は進まない」とまで発言した。日米同盟がある限り、ロシアにとってこの島の戦略的価値は変わらないという考えだ。
小谷哲男氏(明海大学教授)は、冷戦時代からの歴史を踏まえつつ、この海域をめぐる米国とロシアの見解を読み解く。
北極海航路という観点では今や、中国も商船だけでなく軍艦がオホーツク海に入ってくる。ロシアは本音では、ここに中国の軍艦が入ることを嫌悪しており、オホーツク海周辺での軍事力の強化を考えているだろう。アメリカはそこも懸念している。
2)中国の対日批判に足並みそろえるロシア 日本の今後の戦略は
日ロ関係のさらなる悪化が懸念される中、ロシアと中国が対日批判で足並みを揃えている。
7月24日、ロシアのラブロフ外相と中国の王毅外相が会談を行い、日本の“再軍備”を阻止すべきとの主張で一致。さらにプーチン大統領の北方領土訪問が報じられたおよそ2時間後、中国大使館が中国とロシアの駐日大使の共同文書を発表。「第2次世界大戦の勝利の成果を否定するあらゆる行為に断固反対する」としている。
兵頭慎治氏(防衛省防衛研究所 研究幹事)は、ロシアと中国のパワーバランスに着目。両国の軍事的な動きを警戒する。
両駐日大使による共同文書の発表は、偶然とは思えない絶妙のタイミングだ。中国が対日強硬姿勢を強める中、今回のロシアの動きは中国に利用されている側面も否めない。これは単に政治的な動きだけではなく、軍事的な動きにも関わっている。両国は日本周辺での共同軍事活動を強化しており、先月も日本のEEZの中で、中ロ両軍が実弾射撃訓練を行った。中国の対日けん制にロシアが様々な場面で歩調を合わせつつある。
プーチン大統領からすれば、中国のジュニアパートナーにはなりたくないとの思いもあり、以前はロシア極東地域で軍事的なプレゼンスを見せつけて、中国をけん制する思惑もあった。ただ、今はウクライナ戦争で手一杯で、中国の様々な形の支援に頼る状況となっており、
完全に力関係は中国が上で、政治的にも軍事的にもロシアは中国に引きずられている。中国への依存が強まるほど、ロシアは日本に対して、より厳しい姿勢を向けていくであろう。
米政権内部の情報に精通する小谷哲男氏(明海大学教授)は、中国とロシアに対する米国の見方を解説する。
プーチン大統領の北方領土訪問で、日本政府は対抗措置を検討している。駒木明義氏(朝日新聞編集委員)は、国際法重視のメッセージを毅然と示すことの重要性を説く。
番組アンカーの末延吉正氏(ジャーナリスト/元テレビ朝日政治部長)も、高市政権の国際情勢への対応を懸念する。
(「BS朝日 日曜スクープ」2026年8月16日放送より)
<出演者プロフィール>
駒木明義(朝日新聞編集委員。モスクワ支局長などを歴任。クリミア併合を取材。著書「ロシアから見える世界 なぜプーチンを止められないのか」(朝日新書)「安倍vs.プーチン 日ロ交渉はなぜ行き詰まったのか?」 (筑摩選書)など)
兵頭慎治(防衛省防衛研究所 研究幹事。専門はロシアの外交と安全保障。ロシアの軍事、政治などの情勢を調査・研究)
小谷哲男(明海大学教授。米国の外交関係・安全保障政策の情勢に精通。「日本国際問題研究所」研究主幹)
末延吉正(元テレビ朝日政治部長。ジャーナリスト。東海大学平和戦略国際研究所客員教授。永田町や霞が関に独自の多彩な情報網を持つ。湾岸戦争などで各国を取材し、国際問題にも精通)





