国際

日曜スクープ

2026年8月20日 18:00

ロシア核戦略と北方領土“原子力潜水艦の活動海域を防御”プーチン大統領訪問の背景

ロシア核戦略と北方領土“原子力潜水艦の活動海域を防御”プーチン大統領訪問の背景
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終戦の日を2日後に控えた8月13日、ロシアのプーチン大統領が北方領土を初訪問した。

実はロシアは、北方領土が面する海域、オホーツク海を核戦略上、“聖域”と重要視し、周辺の“要塞化”を進めてきた。さらに、中国の対日批判にも足並みをそろえており、軍事的な連携も強めている。『BS朝日 日曜スクープ』は、安全保障の観点からプーチン氏の言動を読み解く。

1)ロシアが重要視する北方領土 防衛省「戦略原潜の活動海域を防御」

今年6月の防衛省の資料によると、ロシア軍にとって「北方四島・千島列島における軍備強化は、戦略原潜(戦略原子力潜水艦)の活動海域として重要なオホーツク海を防御するとともに、ウラジオストク配備の主要水上艦を中心とする艦艇の太平洋へのアクセスを維持していくうえで重要」とされている。サハリン南部、ウラジオストクのほか、カムチャッカ半島から北方四島に向かう直線状に地対艦ミサイルが配備され、国後島、択捉島、サハリン南部には地上軍部隊や戦闘機、ウラジオストクには主要水上艦、カムチャッカ半島南部には原子力潜水艦の基地が配置されている。

核戦略の主力とされる戦略原潜は、対立する核保有国から先制核攻撃を受けたとき、被害を免れて確実に報復できる戦力として位置づけられる。ロシアは、“戦略原潜の活動海域”オホーツク海に面する北方領土の軍事拠点化を進めてきた。

兵頭慎治氏(防衛省防衛研究所 研究幹事)は「北方領土の本質的な問題は、軍事・安全保障上の問題になる」と分析する。

オホーツク海は、冷戦時代から「アメリカに対する核の発射場」として“聖域”であり、ロシアの“海上の勢力圏”という位置づけ。勢力圏の内側のオホーツク海と太平洋を隔てるフェンスの役割をしているのが、千島列島・北方領土だ。そして、ロシアの原潜が通れる深い船の通り道が国後水道、択捉水道であり、これまでロシアは軍を国後島と択捉島に駐留させてきた。2つの島をしっかり押さえておけば、船の通り道をコントロールできる。そのため、特に国後島と択捉島はロシアからすると軍事的な価値が高い。
これに加え、新たな地政学的な重要性が出てきたのが北極海航路だ。この航路もオホーツク海を通る。ウルップ島の北にあり、地対艦ミサイルが配備されている松輪島は、5年前、新たにロシアが軍事拠点化を始めた。北極海航路の通り道であり、軍事的にコントロールする必要性が出てきたためだ。

駒木明義氏(朝日新聞編集委員)は、北方領土に対するロシアの姿勢の変化と、戦略的価値の位置づけが重なると指摘する。

ロシアは極めて戦略的に重要と考えている。プーチン大統領が「北方四島はロシアが主権を有する領土であることは国際法上確定している」と初めて発言したのは2005年9月27日。それまでは「日本とロシアの間に国際法上認められた境界線はまだ存在していない」との立場をとっていたが、2005年の発言で立場を変えて以降、変わらない姿勢を示してきた。その姿勢の変化は、アメリカとの関係悪化を受け、オホーツク海を、原子力潜水艦を中心とするロシアの艦船が自由に動ける“聖域”あるいは“要塞”のような領域としてコントロールするために、この領域と島々が死活的に重要と判断した時期と重なる。
プーチン大統領も繰り返し主張しているが、ロシアは、島を引き渡せば米軍基地が置かれると危惧している。その後、プーチン氏は「日本にある米軍基地へのミサイル配備に反対」と発言。さらに公の場でではないが、ロシアの報道によれば「日本がまずアメリカとの同盟関係を解消しないと話は進まない」とまで発言した。日米同盟がある限り、ロシアにとってこの島の戦略的価値は変わらないという考えだ。

小谷哲男氏(明海大学教授)は、冷戦時代からの歴史を踏まえつつ、この海域をめぐる米国とロシアの見解を読み解く。

1956年に日ソ共同宣言が協議された際、日本が歯舞・色丹の2島の返還で講和することにアメリカはNOと言った。“四島返還”が日本の立場であるべきだと。もし2島であきらめるなら、沖縄は返さないとまで言ってきた。当時まだこの海域に戦略原潜は航行していなかったが、アメリカはソ連の軍事的な影響力を抑えるために日本に相当な圧力をかけていた。1970年代に入ると、ここに戦略原潜が入ってきてワシントンを直接、核ミサイルで狙えるようになり、アメリカにとっても、オホーツク海の軍事的な重要性はさらに高まった。アメリカの本音としては、4島が日本の領土として戻ってきたら米軍基地も置きたい。少なくとも監視施設は置きたいと考えている。
北極海航路という観点では今や、中国も商船だけでなく軍艦がオホーツク海に入ってくる。ロシアは本音では、ここに中国の軍艦が入ることを嫌悪しており、オホーツク海周辺での軍事力の強化を考えているだろう。アメリカはそこも懸念している。
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2)中国の対日批判に足並みそろえるロシア 日本の今後の戦略は

日ロ関係のさらなる悪化が懸念される中、ロシアと中国が対日批判で足並みを揃えている。

7月24日、ロシアのラブロフ外相と中国の王毅外相が会談を行い、日本の“再軍備”を阻止すべきとの主張で一致。さらにプーチン大統領の北方領土訪問が報じられたおよそ2時間後、中国大使館が中国とロシアの駐日大使の共同文書を発表。「第2次世界大戦の勝利の成果を否定するあらゆる行為に断固反対する」としている。

兵頭慎治氏(防衛省防衛研究所 研究幹事)は、ロシアと中国のパワーバランスに着目。両国の軍事的な動きを警戒する。

プーチン大統領の北方領土訪問には、国内向けのアピールと日本へのメッセージの意味合いがあるが、中国の対日姿勢に寄り添う側面も大きい。既に、「日本の軍国主義復活に反対」と中ロが主張するなど、政治的に歩調を合わせる動きが強まっている。中国にとっては、8月15日に合わせたタイミングで日本をけん制したいとの思惑があり、そこにロシアが乗っかったのだろう。
両駐日大使による共同文書の発表は、偶然とは思えない絶妙のタイミングだ。中国が対日強硬姿勢を強める中、今回のロシアの動きは中国に利用されている側面も否めない。これは単に政治的な動きだけではなく、軍事的な動きにも関わっている。両国は日本周辺での共同軍事活動を強化しており、先月も日本のEEZの中で、中ロ両軍が実弾射撃訓練を行った。中国の対日けん制にロシアが様々な場面で歩調を合わせつつある。
プーチン大統領からすれば、中国のジュニアパートナーにはなりたくないとの思いもあり、以前はロシア極東地域で軍事的なプレゼンスを見せつけて、中国をけん制する思惑もあった。ただ、今はウクライナ戦争で手一杯で、中国の様々な形の支援に頼る状況となっており、
完全に力関係は中国が上で、政治的にも軍事的にもロシアは中国に引きずられている。中国への依存が強まるほど、ロシアは日本に対して、より厳しい姿勢を向けていくであろう。

米政権内部の情報に精通する小谷哲男氏(明海大学教授)は、中国とロシアに対する米国の見方を解説する。

中国とロシアの関係の深まりについては、米国としても懸念している。ウクライナでの戦争に影響を与えているし、イラン対する間接的支援も行われている。ただ、現状では、中国とロシアを離間させることに力を入れているとは思えない。それぞれの国といかにビジネスを通じた関係強化を図るかを優先的に考えている。

プーチン大統領の北方領土訪問で、日本政府は対抗措置を検討している。駒木明義氏(朝日新聞編集委員)は、国際法重視のメッセージを毅然と示すことの重要性を説く。

日本として重要なことは、ロシアの揺さぶりに右往左往することなく、「我々は国際法の原則を重視している。そこを揺るがせにしない」というメッセージを出すことだ。例えば、ロシアによるウクライナ侵攻は許されないと。首相がウクライナを訪問し、日本政府のこの戦争に対する考え方としてはっきり示すことも選択肢だ。高市首相はゼレンスキー大統領と国際会議で同席したことはあるが、まだしっかりと会談していない。こうした姿勢がロシア側に日本がロシアに歩み寄るのでは」という誤解を与えてしまっている側面もあるのではないか。

番組アンカーの末延吉正氏(ジャーナリスト/元テレビ朝日政治部長)も、高市政権の国際情勢への対応を懸念する。

高市首相は、外交パフォーマンスはうまいが、政権としての基本的な外交姿勢がまだ固まっていない。そこが非常に問題だと思う。国際情勢が激しく動く中、国内政治がリンクしていない。しっかり腰を据えて国際情勢を注視してほしい。

(「BS朝日 日曜スクープ」2026年8月16日放送より)

<出演者プロフィール>

駒木明義(朝日新聞編集委員。モスクワ支局長などを歴任。クリミア併合を取材。著書「ロシアから見える世界 なぜプーチンを止められないのか」(朝日新書)「安倍vs.プーチン 日ロ交渉はなぜ行き詰まったのか?」 (筑摩選書)など)

兵頭慎治(防衛省防衛研究所 研究幹事。専門はロシアの外交と安全保障。ロシアの軍事、政治などの情勢を調査・研究)

小谷哲男(明海大学教授。米国の外交関係・安全保障政策の情勢に精通。「日本国際問題研究所」研究主幹)

末延吉正(元テレビ朝日政治部長。ジャーナリスト。東海大学平和戦略国際研究所客員教授。永田町や霞が関に独自の多彩な情報網を持つ。湾岸戦争などで各国を取材し、国際問題にも精通)

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