ドイツ東部のザクセン・アンハルト州議会議員選挙で、極右政党・AfD(ドイツのための選択肢)が得票率43.8%で39議席を獲得し、16議席増という圧勝を収めた。
第1党だったCDU(キリスト教民主同盟)が15議席と大幅に落ち込む一方、AfDは過半数まであと3議席に迫り、州レベルでの政権獲得が現実味を帯びてきた。連邦議会でもすでに150議席を擁して第2党の地位にある。
なぜ今ドイツでAfDへの支持が広がっているのか。『ABEMA Prime』では、ドイツの事情に詳しい2人の識者を招き、AfDの実像とその背景にある社会構造、さらに世界規模で進むポピュリズムの潮流について考えた。
■東側から積み重なった不満 極右政党躍進の理由

AfDが掲げるのは反移民や愛国教育の推進であり、かつてナチスドイツのヒトラーが用いた言葉に酷似したスローガンを公約に盛り込んでいるとして批判を集めてきた。ドイツ政府もAfDを極右団体と認定し警戒を強めており、メルツ首相は今回の選挙結果を「ここ数十年間で最も重い敗北」と表現した。
ドイツ東部に35年在住し移民組織ネットワーク・LAMSAの副代表を務める貝山美夏氏はAfD台頭の背景について、ドイツの社会変化から説き起こす。「ドイツ統一直後に東ドイツへ移住し、失業率が高まり経済危機が個人レベルで体感されていく中、統一の喜びから国政に対する不信感がとても高くなっていた」と述べた。
その後、イスラム教に反対するペギーダ運動が台頭し、AfDがその不満を吸収する形で急速に拡大したと説明する。さらに「2014〜15年の大きな移民の動きを経て、AfDは統一からの不信感、コロナからの不信感、移民政策への不信感というテーマを社会情勢に合わせて変えながら有権者の心を引きつけていった」と分析する。
今回の州議会選挙を現地取材した元読売新聞ベルリン特派員のジャーナリスト・三好範英氏は、「私が13年前にベルリン特派員だった頃は、右派政党が連邦議会に進出するとは考えられなかった。ドイツは変わった」と率直に語る。
AfDの性格については専門家に話を聞いたとした上で、「ナチス思想を掲げる“ネオナチ”やNPD(ドイツ国家民主党)の流れを汲む人間もいるが、それはAfDの中で一部に過ぎないという見方もある。全体としては、もう少し現実的に話せるナショナル・コンサーバティブ(国民保守主義)な性格の人間も多い」と述べる。また三好氏は、既成政党がAfDとは話し合わず、連立も組まないとするブランドマウアー(防火壁)戦略を続けてきたと説明。その上で、AfDへの対応をめぐり、従来の方針だけでは対処できないのではないかという議論も出ているとし、ドイツ政治は「今まさに転換点にある」にあると指摘した。
貝山氏はAfDに投票した市民についても踏み込んで語る。「投票した市民がナチズムに傾倒しているとは考えていない。社会的な背景があって不安や不信感がそこに票として集まっている」としつつも、「幹部政治家たちはヨーロッパおよび国際的に『白人のための理想的なヨーロッパ』を掲げるグループと直接的に関わっている。社会的影響を考えると危機感を持って見ていく必要がある」と警告する。
メルツ政権への不満は大きく、9月の支持率は15%まで低迷。三好氏も「今のメルツ政権がなかなかうまくいっていない。中道右派と中道左派の連立政権だが、年金改革や社会保障の改革を進めようとしているものの、2025年5月に政権が生まれてから、その夏に改革を仕上げると豪語したのに何もできていない。メルツの指導力のなさに対する失望感がある」と指摘した。
■「外国人のいない外国人排斥政策」実像なき恐怖が生む支持

今回選挙が行われたザクセン・アンハルト州は、移民が比較的少ない地域でもある。貝山氏はこれを「外国人のいない外国人排斥政策」と表現し、「移民というものが日常生活の中で接触する機会がなければ、それは全くの幻(ファントム)だ。本当の敵が日常にいない場合、これが悪いのだと示せば民衆は簡単に集まってくる」と語る。
また、移民組織として戸別訪問を行う中で市民の声を直接聞くと、「移民というテーマは全く出てこない。それよりも孤独であること、経済的な不安のほうが本当の心配事であり、AfDならそれを解決してくれるのではという期待で、『一度(政権を)やらせてみたほうがいい』という考え方が広まっている」と述べる。
三好氏は、「ドイツでも東側の人たちはSNSなどを通じて、西側で移民受け入れ後に何が起きているかの情報が入ってきており、『あのようにはなりたくない』という将来への不安が広まっている。旧西ドイツ側の人々が極右政党を支持するには、まだ非常に強いためらいがある。むしろ東にはそのためらいが少ないため、票がAfDに流れた」と補足する。
2015年の難民流入を受け、メルケル前首相がハンガリーから来た難民を追い返さないとした判断について、 三好氏は、「メルケル自身が回顧録で、この決断によって(首相を務めた)16年間の政治が前と後ろに分かれると書いているほどの画期的な出来事だった。国からの支援を受け取る難民家族が普通の市民では稼げないほどの金額を受け取っているという声もあり、福祉を食い物にされているという具体的な不満はやはりある。単に漠然とした不安だけではない」と述べる。
2ちゃんねる創設者・ひろゆき氏は、イギリスのEU離脱(ブレグジット)を引き合いに出し、「ロンドンなど都市部は外国人と普通に生活しているが、地方の外国人が少ない地域では何か起きたわけでもないのに漠然とした不安が大きくなり、EU離脱につながった。日本でも日本人ファーストを主張する政党の支持は都市部より田舎の方が多い。外国人との接点がないことが、逆に外国人への根拠のない不安を大きくしてしまう」と分析する。
■ひろゆき氏「ポピュリストは世界中の先進国で増え続ける」
今回のAfD躍進は、ドイツ固有の問題にとどまらないとの見方が相次いだ。近畿大学 情報学研究所 所長 夏野剛氏は「AfDが政権を取っても別に何も解決しない。ただ現政権がうまくやれていないから何かを変えたいというエネルギーが溜まっている。これはドイツだけでなく世界各国共通だ」と述べる。
そして「トランプ政権が生まれてから、トランプ氏がやっていることがいいことなのかよく分からない。常任理事国の一国であるロシアが侵略戦争をやり国際秩序が完全に崩れた中で、耳あたりのいい変革を叫ぶ人間が期待の星に見えてしまうのは悲しい現実だ。日本にもこういう傾向はある」と語る。
また、ひろゆき氏は「EUとしては中国からの安い製品に対して価格規制をかけるなど手を打っているが、現場の人たちはEUの政策がどうなったかよく分からないまま生活は良くなっていないという感覚になっており、ポピュリストは今後も世界中の先進国で増え続けるのではないか」と述べた。
(『ABEMA Prime』より)