世界が注目した米中首脳会談。しかし、その映像は主要テレビ局のカメラが捉えたものではなかった。ホワイトハウスが自ら撮影・配信した暗く不鮮明な映像が流れ、習近平国家主席の表情すら確認できない状況に。背景には、トランプ大統領とメディアの深刻な対立がある。
18日、ホワイトハウスはCNN、MS NOW、ニュースサイト「ポリティコ」の3社に対し、報道内容への不満を理由に出入り禁止を通告した。3社はこれを合衆国憲法修正第1条の報道の自由に違反するとして連邦地方裁判所に提訴。さらに、主要テレビ各局も代表取材(プレスプール)をボイコットする方針を決定した。この中には、トランプ政権に融和的とされるFOXニュースも含まれていた。首脳会談当日の24日、連邦地裁は出入り禁止措置を「違憲の可能性が高い」と判断し、3社の取材アクセスの復旧を命令。しかし主要各局は、CNNが代表取材団に完全復帰できる確約が得られないとして、ボイコットを継続した。
今回の対立の構図と、その背後にあるメディアへの不信、そして報道機関のあり方について、『ABEMA Prime』では考えた。
■「前代未聞のボイコット」――米中会談の現場で何が起きたか

ワシントンを拠点に日本メディアとしてホワイトハウスを長年取材してきたジャーナリストの阿部貴晃氏は今回の主要局の動きについて「前代未聞のボイコットと言っていい」と語る。米中首脳会談は取材する側にとっても「やりがいのある大きなイベント」であるにもかかわらず、ボイコットは実行された。これはあくまでトランプ大統領によるメディア取材禁止への対抗手段として取られたものだと説明する。
政治学者のロバート・エルドリッヂ氏は、映像の質そのものよりも、ボイコットがもたらす構造的な影響を指摘する。「困っているのは視聴者だ。トランプは(ボイコットについて)そこまで気にしていないのではないか。いずれにせよこのボイコットは成功しないだろう」と述べ、メディアがトランプ大統領の“罠”に入り込んでしまっていると見る。「ボイコットすればするほど、国民はインターネットの方にどんどん流れていく。オールドメディアからの離反がさらに加速する」というのが同氏の見立てだ。
また阿部氏は、締め出しの根拠についても疑問を呈する。ホワイトハウス側はCNNに対し、ホワイトハウス内のシェルターに関する極秘情報の開示や、迎撃ミサイルを80%使い果たしたとする誤った安全保障情報を報じたことを問題視したとしている。しかしポリティコについては「裁判資料を見ると、トランプ大統領が出席した共和党大会の雰囲気が悪く、人が少なかったという報道が問題視されている。それが国家安全保障と何の関係があるのか」と首をかしげる。
■「トランプの不満が国民の不満でもある」――メディアへの問い

作家の佐々木俊尚氏は、今回の問題をトランプ政権側だけの問題として捉えることに異を唱える。「CNNは毎日毎日トランプの悪口を書いている。うんざりするぐらいに。それはトランプだけがうんざりしているのではなく、多分アメリカ国民の多くも、日本からCNNを見ている人もうんざりしている」と述べ、メディアに対する不満が国民側にもあるがゆえに、トランプ政権がCNNを締め出したとしても一定の支持が生まれてしまうと指摘する。
「イデオロギー的な偏向をメディア側がある程度自制して、客観中立に近づこうとする立ち位置を崩してしまうと、結局こういうことが起きる」と佐々木氏は断言する。さらに日本の状況にも触れ、「高市政権は記者会見を減らして、Xでの投稿を増やし、内閣広報費を約10倍に増やした。メディア側はそれを批判するが、国民の側から見ると、新聞テレビが政権批判ばかりやってきたイメージが強いから、(政府が)直接発信した方がいいと思ってしまう。この構造にはメディア側の問題もある。それをメディアの人たちが自覚しない限り、この問題は解決しない」と語った。
エルドリッヂ氏も同調する。「議会とメディアに対する信頼度・信憑性が最も低いというデータがある。トランプの不満が国民の不満でもあると思う」と述べ、メディアが反トランプの報道を「必要以上のバッシング」に使っている可能性があるとも指摘した。
阿部氏も、取材現場での実態として「カメラがないときはメディアもトランプ大統領に対して友好的に話すが、カメラが入った途端に喧嘩腰になり、スタンドプレーに走るメディアもいる。メディア側も責任を持って仕事をすることが必要だ」と語った。
■FOXの矜持――「一貫性」が示したもの

今回の対立で特に注目されたのが、FOXニュースの動向だ。トランプ政権に融和的とされてきたFOXが、他の大手各局とともに代表取材のボイコットに踏み切った。阿部氏はその意味をこう解説する。「FOXがメディア側についたことは、トランプ政権にとってショックだったはずだ。FOXのホワイトハウス担当記者は現在ホワイトハウス記者協会の会長でもある。FOXとしては自らの報道姿勢というよりも、報道機関としての生存本能に火がついた形だ」。
エルドリッヂ氏はさらに踏み込み、過去のバイデン政権との対比でFOXの姿勢を評価する。「バイデン政権のとき、(政権に批判的だった)FOXは相当いじめられていた。今回FOXがこういう措置を取ったのは、メディアの原理原則に基づく一貫性の表れだ。一方、左派のメディアはバイデン政権やオバマ政権のとき、右寄りのメディアがいじめられても知らんぷりをしていた。だからFOXの行動は評価できるが、左派メディアの行動は一貫性も原理原則もない」と述べた。
佐々木氏もこの点を「非常に大きな意味がある」と評価しつつ、日本の状況にも重ねる。「逆にFOXが締め出されたときにCNNは本当に声を上げるのか、上げないことが多い。日本の左派勢力にも似たようなダブルスタンダードが散見される。同じ行為でも自分たちと同じ勢力がやると何も言わないが、異なる勢力がやると大きく騒ぐ。辺野古のボート転覆事故が当初あまり報じられなかった件のような問題も起きている」と語った。
株式会社笑下村塾代表のたかまつなな氏は、メディアが信頼を取り戻すための根本的な問いを示す。「日本の政治報道を見ても、本当に国民が知りたいことを報じているのか疑問だ。汚職は大々的に報じられるのに、良い政策の立役者が誰かは報じない。それでは選挙のときにどう選べばいいかわからず、ポピュリズム的なものになっていくおそれがある。メディアはそろそろ、信頼を取り戻すためにどういう報じ方がいいかを考えなければいけない」。
佐々木氏は議論を締めくくるようにこう述べた。「自分たちの考えこそが社会正義であり、我々と違う考え方の人間は悪だという意識が日米のメディアに染み付いている。正義は多様であって、唯一の正義などない。考え方が違うだけなのだという根幹に立ち返るべきだ。リベラリズムとは本来そういうことで、他者を攻撃するための看板ではないはずだ」。
(『ABEMA Prime』より)