11月3日(日本時間4日)に投開票が行われるアメリカの中間選挙まで、残すところ1カ月となった。大統領選挙の合間の年に行われるこの選挙は、連邦議会の上院3分の1と下院の全議席が改選される。現在、ホワイトハウスに加えて上下両院の過半数を握る「トリプルレッド」状態にあるトランプ政権・共和党だが、ここ1週間ほどで情勢は劇的に変化し、一転して極めて厳しい窮地に立たされているという。
【映像】トランプ大統領とずっと一緒?ナタリー・ハープ補佐官(35)
大詰めを迎えるアメリカ中間選挙の最新情勢と今後の見通しについて、テレビ朝日外報部の斉木文武デスクが解説した。
■外交とイベントの不発 裏目に出た「トランプ全面押し」
トランプ政権は支持率低下による苦境を打開すべく、9月に巻き返しを図る戦略を展開した。しかし、その試みはことごとく裏目に出てしまった。
通常の中間選挙では実施されない共和党の党大会を開催し、「トランプ・ア・パルーザ」=トランプ祭りと揶揄されながらも、候補者よりもトランプ氏自身を前面に押し出したが、支持率の低い大統領が目立っても、選挙区で戦う候補者から歓迎されず、前向きな勢いを生み出せなかった。
さらに、成果を期待された米中首脳会談も空振りに終わった。中国からの大型投資や大型購入案件の獲得には至らず、実質的には貿易戦争の一時停止の延長にとどまった。そればかりか、外交演出が裏目に出て国内の反感を招いた。ホワイトハウスの建物の屋上に中国国旗がはためく様子や、習主席を出迎えた空港でタラップ下に敷かれた赤じゅうたんのシワを兵士がひざまずいて直す姿を中国高官が見下ろす映像がSNSなどで話題になり、「屈辱的だ」とか「アメリカの兵士に何をさせているのか」との批判も噴出した。主要メディアであるCNNなどを取材から締め出したことも重なり、政権がアピールしたかった「手ごわい中国とわたりあう強いリーダー」像は、ほとんど報じられなかった。
■予測市場で民主党優勢が急上昇 “ちぐはぐな政策”が地元を圧迫
こうした失策の影響は、数字にも如実に表れている。政治データサイト「リアル・クリア・ポリティックス」の予測(10月1日時点)では、本来共和党が保持していた6つの議席を民主党が奪還し、上院で民主党が53対47で過半数を奪い取る見通しとなっている。また、アメリカの大手予測市場「ポリマーケット」でも、上下両院で民主党が勝利する確率がわずか10日間で10%以上急上昇し、一時は65%に達するなど、「民主党圧勝」の見方が急速に強まっている。
背景にあるのは、トランプ大統領の不人気と、ちぐはぐな政策が地元候補の足を引っ張っている現状だ。例えば、トランプ氏がこだわるカナダとの貿易戦争は、カナダ経済とかかわりの深い激戦区のメイン州やミシガン州の地域経済を直撃している。また、アイオワ州やカンザス州といった農業地帯では、イランとの戦争が原因でディーゼル燃料価格が高騰したため、トラクターなどを動かす農家経営を圧迫している。トランプ氏の政策の影響で、本来であれば共和党が手堅く勝利するはずの保守的な州でも候補者が追い込まれている。守るべきエリアが広がりすぎた結果、限られた選挙資金を集中的に投下できない悪循環に陥る可能性も出てきた。
■側近をめぐる懸念 客観的な情勢判断を失わせる「情報の遮断」
トランプ大統領がこうした現状を正しく認識しているのか、についても疑問が出始めている。そこで注目を集めているのが、トランプ氏の個人秘書の役割を務める35歳のナタリー・ハープ大統領補佐官の存在だ。いま、テレビの夜のトークショーなどに格好の話題を提供している。
彼女は、ジョージア州の民主党上院議員ジョン・オソフ氏が8月の演説で取り上げたことで、大きな注目を集めた。「人間プリンター」とあだ名され、常に持ち歩く携帯式のプリンターで印刷した、トランプ氏が喜ぶ称賛記事ばかりを見せているとされている。大統領就任以来、一度も休まず付き従っているとされ、初めは「大統領との距離が近すぎる」と話題になった。
ところが、前述のCNN取材拒否も彼女が批判記事をトランプ氏に見せて怒らせたことがきっかけで、正規のプロセスを経ずに決まったとCNNなどで報じられ、問題はもっと根深いのではと考えられるようになった。彼女は右派テレビの元キャスターで、考え方に保守的な偏りを持つのではと危惧されている。そうした側近によって大統領の情報アクセスが事実上支配され、トランプ氏が客観的な世論や厳しい選挙情勢を正しく把握できていないのではないかという懸念が、共和党の身内からも漏れ始めている。
■民主党が掲げる「反腐敗」と新たな争点「データセンター反対論」
民主党側は、大企業や富裕層のための政治を批判する「反腐敗」「反金権政治」を前面に押し出している。再選を目指すオソフ上院議員が党内のオピニオンリーダーで、現在の政治システムを「大企業が献金という金を投入して望む政策を得る自動販売機」と例え、一般庶民が搾取されていると訴える。米メディアは「反腐敗ポピュリズム」と呼ぶことも多い。
彼らが具体的な公約として掲げ、支持を広げているのは大きく分けて4つのポイントだ。第1に、公職にある政治家の株や仮想通貨の取引を禁止すること。第2に、企業や大富豪からの巨額な政治献金を規制し、政治への影響力を排除することだ。実際に選挙戦も草の根の市民からの献金で戦っている。
さらに、高騰する医療費や薬代に対応するための公的な医療保険制度の拡充も大きな柱となっている。少しの入院や手術で数百万から一千万円規模の請求を受け、自己破産する人が後を絶たない現状に対し、保険会社や製薬会社による政治支配が原因だとし、政治献金を介した関係を絶つべきだと主張しているのだ。
そして4つ目が、AIデータセンター建設に対する規制強化である。全米で加速するAI需要に伴い、データセンターが建設ラッシュとなっている。なかには住宅地の近くに建設されるケースもあり、冷却水の使用による水道代の高騰、電気代の上昇、騒音問題に加え、完成後の雇用創出効果が少ないことへの不満がでている。実際には水道代や電気代の上昇には別の原因があるとか、高い経済効果があるとして、一方的な悪者扱いに警鐘を鳴らす声もあるが、IT企業や富豪が庶民の暮らしを犠牲にして利益を得る「搾取の象徴」としてデータセンターがターゲットとなり、民主党が建設規制を打ち出すことで地方の不満票をさらに取り込んでいる。
■残り1カ月の行方 「10月は11月ではない」
民主党優勢で進む中間選挙だが、波乱の芽は残されている。懸念されるのは、選挙が正常に執り行われるかという点だ。トランプ氏は7月の演説で「アメリカの選挙システムは中国にハッキングされている」と持論を展開しており、敗北した場合に選挙結果の無効化や、選挙自体の延期を主張する前触れではないかと警戒されている。
また、アメリカの選挙には「October is not November(10月は11月ではない)」という格言がある。10月の段階でどれだけリードしていても、投開票のある11月の蓋を開けてみるまでは分からないという意味だ。イラン情勢の推移や大規模なテロ事件、あるいはスキャンダルの発覚によって流れが一変する可能性は十分に存在する。
民主党がこのままの勢いで上下両院を奪還するのか、あるいは共和党が巻き返すのか。世界が注視する運命の投開票まで、緊迫した攻防が続く。
(ニュース企画/ABEMA)