トランプ政権への審判でもあるアメリカ中間選挙は、共和党が大敗し、民主党が上下両院の多数派を奪還。トランプ大統領やその家族の巨額ビジネス、そして、これまでの政権運営をめぐり、議会調査が本格化するのは必至だ。米政界では議会調査に備え、弁護士確保の動きも…。専門家は「2027年最大のニュースになる」と指摘する。(BS朝日 日曜スクープ)
1)トランプ大統領 2期目就任後に資産急増 息子たちも巨額ビジネス
トランプ大統領やその親族は、第2次トランプ政権がスタートしてからの2年間近くで、暗号資産、ドローン、AI、予測市場へと事業を拡大。2期目の就任後、トランプ氏の個人資産は急増した。米政府倫理局が公表したトランプ氏の2025年資産報告書によれば、暗号資産関連の収益は14億ドル(2300億円)を超えていた。
少なくとも現代のアメリカで、在任中にこれほどの事業収入を得ている大統領を私は知らない。アメリカでは政府高官に関しては厳しい利益相反規制の法律があるが、大統領には適用されない。大統領は国全体のありとあらゆる政策に関与するため、利益相反ということを考え出すと政策判断ができなくなってしまう。そうするとアメリカの国全体に影響があるので例外にしているが、だからといって何をしてもいいわけではない。これまでは大統領に就任したら保有資産を売却したり、ブラインド・トラストという自分では運用に関与できない信託に移したりしてきた。トランプ大統領の場合は、それも事実上行っていない。
トランプ大統領の息子たちのビジネスも問題視されている。トランプ氏の長男ドナルドJr氏は、本人が参画するベンチャーファンド「1789」がレアアース磁石のスタートアップ企業「バルカン・エレメンツ」に出資。それからおよそ3か月後に国防総省が、バルカン・エレメンツに6億2000万ドルを融資した。さらに、トランプ氏の娘の夫クシュナー氏が中東各地の政府系ファンドから集めた資金で運営する投資会社「アフィニティ・パートナーズ」は、運用資産が昨年末時点で30%近く急増したと報じられている。
アメリカのメディアや政界でよく使われる言葉に「マネタイズ・ホワイトハウス」がある。「ホワイトハウスを利用して、金を儲ける」という意味で、トランプ・ファミリーの行いを分かりやすく表現している。歴代大統領の家族で、この言葉に関連して思いつくのは、バイデン前大統領の息子ハンター・バイデン氏だ。米議会の調査では、彼は、バイデン前大統領の副大統領時代にウクライナの天然ガス企業の役員になり、年間100万ドルという大きな報酬を受け取り続けた。中国系の企業ともつながりを持った、いわくつきの人物とされる。
そのハンター・バイデン氏について調べた弁護士リチャード・ペイター氏はメディアのインタビューで「ハンター・バイデン氏はけしからん男だが、トランプ氏の子どもたちがやっていること、トランプ氏がそれを助長していることは、1,000倍ひどい」と言っている。クシュナー氏は中東和平特使として和平案の推進や調整を図ってきたが、これも、中東でサウジ、UAEからの投資を得ることが目的だったのでは、と言われる。トランプ氏もカタールから寄贈された新エアフォース・ワンの件など、いくつも調査対象になりうる。調査が行われれば、アメリカの政治は大騒ぎになるだろう。
去年10月にトランプ氏の支持者の一人、ハガティ上院議員に会った際「万一、民主党が両院を奪還して弾劾裁判に入っても、最終的に上院での3分の2は取れず、罷免のリスクはないのでは」と尋ねたところ意外だったのは、彼が「3分の2まではいかないと思うが、予想以上に造反が出る可能性がある」と語ったことだ。共和党議員の中での最も大きな不平不満は、関税やイラン攻撃ではなくトランプ氏の汚職の疑念、利益相反だと。今後、議会調査の中でこういった事実が明らかになれば、共和党内もこれでは2028年は戦えないとトランプ氏から距離を置く可能性がある。
2)関連企業や政権スタッフが弁護士確保に…中間選挙後に備え
トランプ大統領と関わりのある企業は中間選挙後を見据える。ブルームバーグは「暗号資産事業からベンチャーキャピタル、予測市場などトランプ大統領やその家族とつながりのある企業は、弁護士やロビイストの採用を急ぎ、議会による調査の可能性に備え始めている」と報じた。
実際、民主党は中間選挙後に追及を強める構えだ。召喚状を出す権限を取得し、調査スタッフを増員するための予算も確保できれば、早ければ2月にも調査に着手するとみられる。民主党下院トップのジェフリーズ院内総務は「不正を行った者の責任を初日から追及する」と明言している。
今、ワシントンで一番の話題は、トランプ政権の閣僚、高官のみならず民間企業のトップも弁護士を雇って、訴訟に備えていることだ。これまでトランプ氏に近づいてビジネスの利益を得た人たち、企業のトップやイーロン・マスク氏らが皆、議会調査の対象になりうる。2027年最大のニュースは、この議会調査になるだろう。
議会調査に備える政権スタッフは少なくとも数十名、100人を超える規模の可能性もある。真っ先に弾劾裁判にかけられるのは、ヘグセス国防長官だろう。調査に協力することで、自らの罪を逃れようとする人も出てくるはず。相当気が気ではないはずだ。
民主党のジェフリーズ下院院内総務は「ヘグセス長官に関しては辞任に追い込む」と既に公言している。イラン戦争はじめ諸々のことが調査の対象になる。他にも、ケネディ厚生長官のワクチン政策、ブランシェ司法長官のエプスタイン事件の関連文書への対応、ラトニック商務長官の家族企業の利益相反の問題。さらに暗号資産ビジネスや外国からの巨額投資について本当に適切な審査を行ったのか、財務省、ベッセント財務長官の責任を問う声も出てきている。
3)アメリカの民主主義はどこに向かうのか
アメリカ社会に精通する専門家らは、アメリカ民主主義の拠って立つ根幹の揺らぎを指摘する。有権者の判断が向かう先は…。
アメリカの民主主義は、必ずしも憲法や法律だけで成り立ってきたわけではない。文書に書かれていない暗黙のルール、例えば、“利益相反を避ける”、“メディアを脅かさない”、“権力をむやみに使わない”など自制心に由来してきた部分が大きい。今、その暗黙のルール自体が、支配者の既得権益を守るためのものになっているのではないかとの見方が出てきて、その結果、それを壊すものが民主主義を回復する救世主のような、強い指導者に見えてしまっている。今後、この暗黙のルールをアメリカ社会が政治の中でどのように回復していけるのか、研究者としては注目したい。
今、AIが労働者のみならず、いわゆるホワイトカラーや中間層の将来を非常に不安定にしている。それだけに「一生懸命働き、正直に生きてきた人たちが報われないのはなぜか。それは、どこかでズルをしているエリートがいるからだ」ということで、“左”や“右”のポピュリストといった、より過激な方に社会が引っ張られ、アメリカが益々“真ん中”に寄りにくい社会になってしまうのではという危惧がある。
残念ながら、“アメリカファースト”から“ミーファースト”に、アメリカ人の価値観がひれ伏してしまった。特に富裕層・権力者の間で、アメリカの昔の正義感や公平感が失われている。トランプ氏の暴走を許している大きな要因は、周りの閣僚、スタッフ、議会などが、誰も止めようとしないことにある。むしろ自分たちの利益のため便乗した。これをどこかで止めない限り、不正まみれの国に陥りかねないと、非常に危惧している。
アメリカでは既得権を持っている人たちがいる一方、苦しんでいる、あるいは忘れられた人々がいる。大きな政治潮流を見る際には、これらの日々の生活で苦労している人、忘れられた人々がどういう形で誰に政治を託すのかというのが重要だ。2008年、オバマ氏が当選した際に変革をもたらす一つのシンボルとなった。しかしオバマ氏は、世界金融危機の際に大手銀行の責任の追及や幹部の処罰をしなかったことで失望を招き、その後、トランプ氏が右側から台頭した。ところが、トランプ氏も経済格差を解決するのではなく、富裕層減税を行い、私腹を肥やした。次の大統領や議会は、また“左”に振れる可能性があるが、過激主義は分断を深めるだけで大きな問題解決はできない。有権者の支持が、“左”オバマ、“右”トランプ、もう一回“左”に行くと、一巡する動きが起きているが、もっと穏健で常識的な政治家が中心になってもらわなければという結論に至ってもらいたい。
(「BS朝日 日曜スクープ」2026年11月1日放送より)
<出演者プロフィ-ル>
渡辺靖(慶応義塾大学教授。専門は米国研究、文化政策論、パブリック・ディプロマシー、文化人類学。ハーバード大学で博士号。著書「アメリカとは何か」(岩波新書)など関連多数。中央公論で「アフター・トランプ」連載中)
ジョセフ・クラフト(経済・政治アナリスト。東京国際大学副学長。投資銀行などで要職を歴任。米政治経済の情勢に精通。米国籍で日本生まれ)
杉田弘毅(ジャーナリスト。21年度「日本記者クラブ賞」。明治大学特任教授。共同通信でワシントン支局長、論説委員長などを歴任。著書「国際報道を問い直す-ウクライナ紛争とメディアの使命」(ちくま書房)など関連多数)





