綻びを見せる菅政権…蜜月のはずの公明党とも不和?[2020/12/30 13:01]

●危ぶまれる総理の“判断力”

年末も押し迫ったころ、与党幹部らは不安げだった。

「菅さんに意見する人が誰もいないってよく聞くね。このままだとまずい。」
「総理は、不都合な情報が入ってこないと嘆いているらしい。官邸はどうなっているんだ。」

新型コロナの感染拡大に歯止めがかからず、GoToトラベル一斉停止や、ステーキ会食などで菅総理は一気に批判を浴びた。

「“経済優先”の刷り込みが国民にできてしまったのは大変な失敗だ。会食なんてしないで、自ら率先してコロナを封じ込めている姿を見せないと、不満のはけ口になるだけでしょう。」

政権発足から3か月ほどで与党内から出てきた、菅総理の判断力を危ぶむ声。
高支持率でスタートした菅政権の磐石ぶりに綻びが見えるようになったのは、実は11月にさかのぼる。本来、菅総理にとって関係性が良好とみられた公明党との不和が目立つようになったからだ。

●“公明”の狼煙か、“岸田”潰しか

「公明、広島3区擁立検討 小選挙区議席は“悲願”」
中国新聞にこんな見出しが躍ったのは、11月11日のこと。
その1週間後には、中国地方の比例区で当選を重ねてきた公明党の斎藤副代表が「広島3区」からの出馬を宣言した。

広島3区は、去年夏の参議院選挙での買収事件で立件され、自民党を離党した河井克行被告の選挙区だ。
自民党候補者不在の隙をついて公明党が乗り込んできた構図で、選挙対策に関わる自民党関係者は、そのしたたかさに困惑していた。

「公明党はもう、広島3区で斎藤さんを応援しなければ他の区は支援しないって、圧力をかけているようだ。広島の場合、公明党の支援がなくても勝てる人がほとんどなんだけど…。」

なぜ公明党は強気に出たのかー。
「公明党だって政党なんだから、比例区に甘んじているわけじゃない。不祥事があればいつだってうちから小選挙区を狙いに行く。なんでもかんでも、自民党についていって、許す、そういうもんじゃない。これは政党として当たり前のことだよ。」

公明党幹部は“政治とカネのスキャンダルにこれ以上巻き込まれるのはこりごり、自民党が信頼を失っている中で、公明党でとれる議席があるならとりにいくのは当然だ”と、世論を読みながら自民党を突き放していた。

ところが、自民党内で囁かれたのは、こういう声だ。

「官邸と公明党が組んだ岸田潰しだろ」

●菅総理と公明党の“蜜月”…そこに疑念が

そもそも、「広島」という選挙区は、池田元総理や、宮沢元総理を輩出し、「宏池会の牙城」と言われてきた。
今では、1区選出の岸田前政調会長が率いる「岸田派の牙城」だ。
ところがそれを崩されたのが去年の参議院選挙。

岸田氏率いる広島県連は、自民党現職で岸田派の重鎮、溝手顕正氏を全面支援していた。
しかし自民党本部は、県連の反対を押し切って、2人目の候補者として河井案里氏を擁立し、のちに買収事件へとつながる“破格の支援”をもって当選させた。
溝手氏の落選は、「岸田氏の落ち度」となり、派閥領袖としての権威失墜ともなった。

弱り果てた岸田氏のおひざ元で、今度は公明党がその一角を取りに行く、さらなる「岸田派の牙城」崩し。
これはもしかして、菅総理が仕掛けた「ポスト菅」潰しなのではないか…
永田町をかけめぐったのはそんな憶測だったのだ。

菅総理が公明党の支持母体、創価学会幹部と関係が深いことはよく知られている。
それゆえに、公明党の強気姿勢の背景には、菅総理との何らかの確約があるのだろう、自民党内にはそういう見方をする人がおり、憶測が憶測を呼んだ。

しかし、長年自民党が守ってきた議席を公明党に明け渡すのは苦渋の選択だ。
本当に菅総理は、公明党とうまくやっているのだろうかー
自民党内に生まれた疑念。それを決定的にさせたのが、医療費をめぐる混乱だった。

●与党の政策決定での失敗

12月初め、75歳以上の後期高齢者の医療費窓口負担を1割から2割へ引き上げる政策をめぐり、官邸と公明党は全面対立の様相を見せていた。
公明党は年収240万円以上を対象とするよう迫った一方で、菅総理は、より対象者が多くなる年収170万円以上とすることを譲らず、自民・公明の政調会長同士らの調整では決裂を繰り返していたのだ。

コロナ禍で負担を増やすことはできるだけ避けるべきー
解散総選挙を見据えてそう世論に配慮した公明党に対して、菅総理は、社会保障改革の実行にこだわっていた。
菅総理のその強い意志を、自民党内ではここでも、「公明党とは話がついているんじゃないか」「菅さんは公明党と握っているでしょう」と楽観視する向きがあった。

水面下で調整が行われていたら、決着も早いはず…しかしなかなか合意に至らない。
一体誰が、交渉の窓口となっているのか…方向性も落としどころも見えないまま、最終的には菅総理自らが9日の夜、山口代表とのトップ会談に臨み、譲歩する形で決着せざるをえなかった。

結局調整は誰もできていなかった…
与党の政策決定のプロセスが機能していないことが露呈した瞬間だった。

●官邸の司令塔は機能するか

「これまで選挙とか政策とか関係なく、包括的に公明党への根回しをやってきたのは菅さんだった。あのときも、裏で動いたでしょう。」
菅総理に近い自民党議員は、当時の混乱をこう振り返った。

ただこのように、周辺が菅総理の動きを推し量り、思いを忖度した結果、世論をくみとったり、公明党と調整したりしながら政策決定をすることができなかったのではないだろうか。
総理に意見する人がいないようだと嘆いていた自民党議員は、政府与党の意思疎通の悪さを課題にあげたうえでこう言った。

「官邸には司令塔がいないんだよね。もっと菅さんの手足になる人がいないと。
菅さんは、数字を気にするから支持率をとても気にしているだろう。
厳しい支持率は、自分の発しているメッセージが届いていない裏返しでもあるからね。」

最大の課題であるコロナ対策で、今後強いメッセージ性を持って、収束に向けた舵取りができるのか。
年明け早速、コロナ特措法改正などをめぐり、政府与党が一体となって取り組まなければならない局面を迎える。他にも、オリンピック開催や、解散総選挙という難しい政治課題が山積みだ。時に自民党にも厳しく出る公明党とどう歩調を合わせていくことになるのか。
国民の命がかかっている状況が続くだけに、そのリーダーシップが問われている。

政治部 河田実央

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