【報ステ解説】「1〜2年は国債」発言狙いは?“反撃能力”与党合意へ 防衛費どこから[2022/12/01 23:30]

日本の防衛政策が大きな転換点をむかえています。

自衛隊が敵のミサイル拠点などを攻撃する、いわゆる“反撃能力”の保有をめぐり、自民党と公明党は2日に合意する見通しです。

岸田総理:あらゆる選択肢を排除せず、反撃能力も含めて議論を進めていく。これが基本的な考え方。決して他国を攻撃するために、この議論を行っているのではなく、我が国の国民の命や暮らしを守るため。

反撃能力とは“敵基地攻撃能力”とも呼ばれてきた、自衛隊が敵のミサイル発射基地などを攻撃できる能力です。

憲法9条のもとに専守防衛を掲げている日本。「武力攻撃を受けたときに初めて防衛力を行使し、保持する防衛力も自衛のための必要最小限に限る」としてきました。

反撃能力については、自衛の範囲に含まれるとしつつも、政策的判断で保有してきませんでした。

浜田防衛大臣:近年の急速な状況変化をふまえ、迎撃能力の向上のみで国民を守ることができるのか。

日本がこれまで進めてきたのは、敵のミサイルを撃ち落とす『迎撃ミサイルシステム』です。

しかし、一度に大量のミサイルが発射された場合や、変則的な軌道のミサイルなど、すべてを撃ち落とすのは難しいとも言われるように。

そのため浮上したのが、相手が今にも日本にミサイルを撃とうとしている時に、先に敵の基地を攻撃する反撃能力です。

問題は、そのタイミングです。“先制攻撃”とみなされれば国際法違反となります。

公明党・山口代表:いたずらに、この攻撃がエスカレートしないようにと。やはりそこは専守防衛、必要最小限。

与党の協議会では、どういう場合を相手が攻撃に着手したとみなすのかについて、議論を続けてきました。

慎重な公明党は、厳格な定義が必要としましたが、自民党側から「手の内を明かすことになる」などの異論もあり、結局、個別に判断していくことで決着しました。

報道ステーションの世論調査では、61%の人が「反撃能力を持つべき」と答えています。

ただ、反撃能力には巨額の費用がかかります。

国内では、相手の射程圏外からの攻撃を可能にする『スタンド・オフ・ミサイル』への改良に今年度393億円を計上しているほか、アメリカからは、1発1億円を超える巡航ミサイル『トマホーク』数百発の購入も検討しています。

岸田総理は、5年後には防衛費を今より倍増させ、GDP比2%とする方針です。

政府の有識者会議と財務大臣の諮問機関は、その財源について、増税を検討するべきとしています。

財政審財政制度分科会・増田会長代理:安易に国債発行するということは、第2次世界大戦の我が国の教訓。

戦前に発行された多額の国債は、その後のインフレで国民の資産を犠牲にしたとして、国債を前提にするべきでないとしています。

こうしたなか、自民党の政策責任者である萩生田光一政調会長はこう話しました。

自民党・萩生田光一政調会長:結論から言うと、将来的には安定した財源を確保しておいたほうがいい。やっぱり税に負担をしてもらう。ただ当面はですね、抑止力を高めることの方が優先順位は高いので、当面、私は国債でつないでいくということでいいのだと思う。1年、2年は国債でやむを得ない。(有識者会議の提言に)「国債ダメ」と書いてあって、その理由が第2次世界大戦の時に国債を乱発したためにインフレになったって、いつの話してんのかな。

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◆政治部官邸キャップ・山本志門記者

(Q.萩生田政調会長は「1〜2年は国債でやむなし」と発言し、さらに政府の財政審議会の苦言についても「いつの話をしてるのか」と述べました。その真意は何だと思いますか)

一番の狙いは、政府内に出ている増税論に対する牽制だと思います。つまり、今直ちに増税できる環境にはないんだと。

例えば、物価高やエネルギー高、賃金を上げなきゃいけない。こういったことで法人税も所得税も上げにくい、国民の理解は得られにくい。こういった状況が発言の背景にあります。

自民党からは、来年4月には統一地方選挙も控えるなかで「選挙への影響を避けたい」という思惑も透けて見えますし、今の内閣支持率を踏まえれば「増税ができる政権の体力もない」という意見が党幹部からも出ています。

こうした状況のなかで、いわば増税に向けた議論を先送りにすることが、発言の真意だと思います。

(Q.岸田総理はどのような道筋を描いていますか)

岸田総理は「年末に防衛費増額の財源を示す」と、増税でまかなうことに含みを残していますが、実は、複数の周辺に対して「すぐに増税できる状況じゃない」と漏らしています。

そういう意味では、萩生田政調会長と、同じ方向を向いているとも言えます。

まず初年度の来年については、防衛費の上げ幅を低めに抑えることで、増税はしないという大きな方向性が官邸内からは聞こえてきます。

ある官邸幹部は「赤字国債を否定しない当面の5年間と、安定財源による5年後の話は分けて考えている」と明かしています。

そのうえで、当面の財源をどう作っていくのか。

ますは国の支出のなかで削れるところはないか、来年の税収が上振れで入ってくる分をあてにする、特別会計などに眠っているお金、いわゆる埋蔵金を探す。これらを当面の財源とすることで、再来年度以降の増税につなげていくべく、国民の理解を少しずつ広げていきたいというプロセスを描いているようです。

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