岸田総理こだわりの“広島開催”G7 広島サミット ここに注目「4つのポイント」[2023/05/18 18:00]

G7広島サミットは、世界経済を引っ張る主要7カ国が、経済や安全保障など世界が抱える課題の解決に向けて話し合う枠組みで、日本での開催は7年ぶりとなります。
過去には、「民主主義や人権」などを重視する仲間に取り込もうと、ロシアを加えて「G8」として一緒に議論したこともありましたが、ウクライナ南部のクリミア併合で亀裂が生まれて、ロシアの参加を停止し、G7に戻しました。
そのロシアによるウクライナ侵攻が続き、中国が覇権主義的な動きを強めるなど、厳しく複雑な安全保障環境の中で、G7のリーダーらが広島に集ってサミットが開催されます。またG7に加えて、韓国やインドなど8カ国と国連など7つの国際機関を招待して拡大会合も予定されています。岸田総理は、分断や対立ではなく、協調を前面に結束を呼び掛ける見通しです。

■対ロ制裁めぐり、いかに実効性を高められるか?
今回は、ロシアのウクライナ侵攻をめぐる対応が主要テーマの1つとなります。ウクライナ侵攻から1年以上にわたり、G7は対ロ制裁やウクライナ支援で結束してきました。ある政府関係者は、「現状G7の結束に乱れは全くない」と強調していますが、各国の「支援疲れ」を指摘する声も出ています。ウクライナが近く大規模な反転攻勢に出る構えと言われている中で、「サミットでは改めてG7が結束して揺るぎない支援の意思を示すことが大事だ」としています。
その上で、今重要なのは、制裁の「抜け穴対策」だといいます。中国やインドなどロシアと友好関係を維持している国が抜け穴になっており、「十分な制裁効果があがっていない」と指摘する声もあります。対ロ制裁の効果を高めていくためには、G7だけでなく、インドなど招待国を通じてG7以外の国にも協力を取り付けられるよう、いかに説得ができるかが問われます。

■中国念頭に「一枚岩」になれるか?
台湾有事を念頭に岸田総理は、「今日のウクライナは明日の東アジアかもしれない」と繰り返し警鐘を鳴らしてきていて、中国への対応も重要なテーマとなります。岸田総理がG7と結束してロシア制裁とウクライナ支援を行う背景について、「ウクライナ危機の時に積極的に取り組んでおかなければ、台湾有事や日本有事の際に助けてもらえないのではないか」という危機感からだとある政府関係者は解説します。
ただ、中国に対する脅威認識を巡っては、「地理的に距離のある欧州とは温度差がある」との問題意識のもと、G7で中国への対応で足並みを揃えられるように、岸田総理は今年初めから各国を回り直接訴えかけてきました。総理に同行した政府関係者の一人は、「日本の訴えが浸透し、かなり欧州の関心を高められた」と胸を張ります。さらに、欧州各国にとっても、ロシアからのエネルギーに依存してきていたことで制裁によって経済活動に影響が出たことから、自分事としてとらえるきっかけになったといいます。そのため、「中国との関係においても依存していて大丈夫なのか」という危機感が広がり、半導体や重要鉱物において特定国への依存を高め過ぎないようにすることが大事だとの共通認識が広がってきているということです。
ただ、4月に台湾情勢を巡ってフランスのマクロン大統領が、米中対立から距離を置く発言をしたことで、G7の足並みの乱れを懸念する声もあがりました。中国への対応をめぐり、G7の中で、総論での一致にとどまるのか、各論でどこまで具体策を打ち出せるかというのも、焦点の一つとなります。

■中ロへの抑止力強化はグローバルサウスがカギを握る?
ウクライナ侵攻や台湾有事のリスクの高まりを受けて、岸田総理がサミットで重視するのは、グローバルサウスと呼ばれる新興国や途上国との連携強化です。しかし、グローバルサウスは、中ロ寄りでも欧米寄りでもない立場をとる国が多く、いかにG7側に引き寄せられるかが課題です。代表格であるインドやブラジルなど招待国を交えた議論の場を去年より増やし、サミット全体のおよそ3分の1の時間を当てます。
ただ、グローバルサウスの国々は、経済成長して国を安定させるために中ロから軍事的・経済的な支援を受けていることから、ウクライナ侵攻を続けるロシアへの制裁に加わらない国も多いのが現状です。2月に行われた国連総会決議でロシアに即時撤退を求める決議を採択しましたが、インドやベトナム、南アフリカなど32カ国は棄権をしました。
ロシアへの圧力をより強めるためにも、グローバルサウスをG7側に引き寄せることを目指していますが、G7が重視する「民主主義・人権」を振りかざしても、発展途上の新興国などは自分たちの経済成長が最優先で、中ロとの関係も重視しています。そのため、「『民主主義』VS『権威主義』のどちらにつくのかというアプローチで迫るとかえって相手を遠ざけることになりかねない、より世界を分断してしまうことになる」と指摘する政府関係者もいます。
岸田総理としては、ウクライナ侵攻で影響を受け、エネルギー・食糧不足への不安を大きくするグローバルサウスが抱える課題について、同じ問題意識をもって一緒に解決していく姿勢を示したい考えです。G7はグローバルサウスとの関係を深め、中ロへの抑止力強化にいかに繋げられるかが注目です。

■岸田総理が“広島開催”にこだわったワケ
被爆地であること、岸田総理の地元であることが決め手となりました。世界のトップが集まるG7サミットは警備のしやすさから、三重県・伊勢志摩サミットなどのように都市部から離れた場所で行われてきています。日本では30年前に東京で開催されて以来の市街地開催となります。実は、名古屋などほかに名乗りを上げていたのですが、ウクライナ侵攻を続けるロシアが核兵器の使用をちらつかせて威嚇をする中で、世界のリーダーたちに原爆の悲惨さを知ってもらいたいと、岸田総理がこだわりました。
一方、「今、核軍縮は冬の時代だ」と指摘する政府関係者もいます。というのも、ロシアが核兵器の使用をちらつかせて威嚇をし、中国や北朝鮮も核戦力を増強させていることから、「普通に軍縮を語っても議論を進められる状況にない」といいます。さらに、G7のうちアメリカ、イギリス、フランスの3カ国は核保有国であり、日本も「核の傘」に守られる中で、「核抑止の大切さは否定しがたい事実としてある」とも指摘します。ただ、そういう厳しい現実の中でも、目指すべき核軍縮の方向性に向けて機運を高めていけるように、「改めてこの問題に光を当てたいというのが総理の強い思い」だとしています。
サミット初日の19日に、岸田総理は原爆資料館でG7首脳を出迎えます。そこで、G7のリーダーらに被爆の実相に触れてもらい、原爆の悲惨さを訴える考えです。「核兵器のない世界の実現」に向けて、核軍縮への理想と現実の距離感をどう縮めていけるか、岸田総理のリーダーシップが問われます。

ANN取材本部(テレビ朝日)土田 沙織

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