「官邸の異分子」に直撃 総理は“サラリーマン妻”優遇という「年収の壁」崩せるか
[2023/11/13 18:00]
国民民主党の副代表も務めた前参議院議員の矢田稚子(やた わかこ)さんが、内閣総理大臣補佐官に起用されるというニュースが駆け巡ると、“連立組み換えの布石ではないか”と永田町には衝撃が走った。
まもなく2カ月が経過し、岸田内閣の支持率がANNをはじめ各社で政権発足後最低にまで落ち込むなか、矢田さんは政権にとって切り札となるのか。また、高学歴な男性中心の総理官邸で「圧倒的なマイノリティーだ」と話す矢田さんが今、どう感じているのか単独取材した。
(政治 官邸担当記者 澤井尚子)
■異例の抜擢からまもなく2カ月 矢田稚子さんとは?
若いころから両親の介護やきょうだいの面倒をみるなどヤングケアラーでもあった矢田さんは、高校卒業後、当時の松下電器産業、現在のパナソニックに入社し、女性の昇進や職場環境の向上に励んだ。
その後、「電機連合」の組織内候補として参議院議員を6年間、その際には国民民主党の副代表も務めた。また、いわゆる「選択的夫婦別姓」も当事者としての目線から推進してきた。
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■「誰かと結婚すれば、年金納めなくてよくなるの?」■「誰かと結婚すれば、年金納めなくてよくなるの?」
日本国内に住んでいる20歳以上、60歳未満の人はすべて、国民年金に加入することになっていて、学生も例外ではない。(※猶予は可能)
ただ、会社員や公務員の配偶者だけは、「国民年金第3号被保険者」として、一定の年収までであれば保険料を払わなくても基礎年金がもらえる仕組みになっている。1985年の年金制度改革で導入された。“24時間戦えますか?”のサラリーマンが当たり前だった時代。内助の功で支える主婦がモデルとなっている。
共働きが主流となった今もこの制度が続いていることについて、矢田稚子総理補佐官は、「(一定の年収の)壁の中にいれば保険料を支払わなくて済むので、あたかも得ですよという運動が30年近く行われてきた。むしろ、保険料を払うことで、個人として年金や保険に加入でき、自立できるメリットを伝えることも大事だ」と話す。
■「第3号被保険者」の99%が女性
厚生労働省によると、「第3号」は721万人(2023年3月時点)で、そのうち男性は5万人から10万人程度であり、女性が99%という圧倒的多数だ。そのうち約4割が働いていているものの、まさに「年収の壁」を超えないように調整している状態にある。
働き手不足が深刻になるなか、岸田総理はここに着目し、応急措置を打ち出した。この10月からは、収入が増えて社会保険が適用されても、手取りが減らないよう取り組む企業に対して助成したり、一時的な増収であれば2年に限って、年収が130万円を超えても扶養に留まれたりする対策がスタートしたのだ。
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■抜本改革で“不公平感”を是正できるか■抜本改革で“不公平感”を是正できるか
今回の「壁」対策は、あくまで2年限りの弥縫策な上に、そもそもサラリーマンの妻がモデルのため、自営業者や農業・漁業などに従事する人の配偶者は対象外で、不公平感を上塗りしているという指摘もある。
そこで、注目されるのが5年ごとに見直される年金制度改革で、次は2025年に予定されている。岸田総理は10月上旬、中小企業の経営者や社員らとの対話の場で、「長い目で見たら制度そのものを変えないと問題解決につながらない」と踏み込んだ。
これは、第3号被保険者の縮小や撤廃をにらんだ制度改革との受け止めが広がったが、その後もはっきりとした打ち出しはない。矢田補佐官も「(第3号が)不公平だという声も上がるなか、2年後の年金改革についても(社会保険審議会で)論議がなされているのでそれをしっかり見守っていきたい」と述べるに留めている。
■自民党総裁選のある来年(2024年)の秋が議論のヤマ
「年収の壁」により優遇を受けている人にとっては、負担ともなる抜本改革に岸田総理が切り込むのか。2025年の改革に向けて、矢田補佐官は「来年の夏から秋にかけて議論の方向性を決めていかないといけない」と話す。
来年の夏から秋というのは、岸田総理にとってはまさに、自民党の総裁選で2期目の再選を狙う重要なタイミングで、30年維持され続けてきた痛みも伴う抜本改革に切り込むのか。少子高齢化社会における持続可能な年金制度改革が待ったなしの課題であることは論を待たない。
官邸入りしてまもなく2カ月の矢田補佐官は、岸田総理の実像についてこう分析する。
「日本社会に顕在している課題に対して真摯に向き合って、多少抵抗感や痛みを伴っても、しんどくても変えていかないといけないという覚悟みたいなものを感じる。やはり改革するときに多少の痛みは伴うが、少し支持率を気にしながら柔らかい表現をして優しいメッセージを出すことを選ぶよりも、今ある課題をきちっとみなさんに提示をして、変えていくんだという強い意識で(政権運営に)臨んでいる」