政治

2024年12月19日 18:00

「政治とカネ」政倫審再開の“舞台裏” 旧安倍派幹部が自民党執行部と交わした“3つの条件”とは

2024年12月19日 18:00

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少数与党ゆえの国会運営が続く石破政権。臨時国会の会期末が迫る中、10月の衆院選敗北の大きな要因となった自民党派閥のパーティ収入不記載、いわゆる裏金問題は、新たな動きがあった。衆参合わせて19人の議員が政治倫理審査会に出席したのだ。その経緯を独自取材した専門家は、党執行部と旧安倍派の間で激しいやり取りがあり、“3つの条件”で合意したと指摘する。信頼回復の道は切り開かれるのか。

1)衆参19人が政倫審に…“舞台裏”久江雅彦氏が独自取材

衆院政倫審に出席したのは、旧安倍派から萩生田元政調会長ら13人、旧二階派から平沢元復興大臣ら2人で、計15人。12月17日〜19日の3日間をかけての開催で、全員、全面公開だった。

また、参院政倫審は、公開を希望あるいは容認とした4人を対象に、18日に開催された。旧安倍派では、さらに23人の参院議員が政倫審出席の意向を示したものの、非公開を希望。強い反発を受けたものの、22人が議員の傍聴を認めるにとどまっており、日程は決まっていない。

公開希望

久江雅彦氏(共同通信特別編集委員)の独自取材によれば、衆院政倫審の開催決定にあたっては、自民党執行部と旧安倍派の間で激しいやり取りがあった。ポイントとなったのは、衆院選からおよそ2週間後、石破総理が「個人の判断になるが、説明責任を果たすため政倫審の場を含め、あらゆる場を積極的に活用されることを期待する」と発言したことだったという。

石破総理
選挙が終わっての石破氏のこの発言は、いわゆる旧安倍派からみれば、選挙の敗北・大敗を我々の責任にしている。「裏金を全部返せ」とか、「政倫審に出ろ」とか石破氏や自民党執行部は旧安倍派のせいにして延長戦をいつまでもやるつもりだ、と。逆に石破氏や森山幹事長から見れば、選挙で過半数が取れなかったのは、もともとは旧安倍派を中心とする、いわゆる裏金問題が影響したのだ、ということで、衆院選敗北のそもそもの風景が、どの窓から見るかによって違っている。
この発言を受けた後に、11月の終わり頃から参議院の国対委員長の石井準一氏が「来年、参議院選挙もあるし、いわゆる旧安倍派の議員も政倫審でしっかりとけじめつけた方がいい」と、まず参議院が動き始めた。その際、参議院が動き出すのに、我々が何もやらず、いつまでも「逃げている」と捉えられるのも心外だと。こういう声になってきて、キックオフが12月5日朝。議員会館の森山氏の事務所で萩生田氏と森山氏が会談し、政倫審でやっていく方向で、となった。 
ほぼ連日のように、政倫審の与野党の国対委員長の間で、何人出るのか、公開なのか非公開なのか、など話し合いが行われていた。最終的に12月10日、いわゆる旧安倍派の大方の議員が集まった時に、ただ出るのではなくて、出るのだったら堂々と公開の場に出るということになった。

2)旧安倍派 衆院政倫審“出席”で“3つの条件” 

旧安倍派15人が衆院政倫審に全員、公開での出席を決める際、久江雅彦氏(共同通信特別編集委員)は、旧安倍派と自民党執行部の間では“3つの条件”で合意したと指摘する。

この問題をいつまでも執行部が引きずって、何かあるたびに我々の責任だと言われるのはかなわない、もう蒸し返さないで欲しいということで、森山氏と萩生田氏の間で、署名はしていないものの、“3つの条件”で合意をした。その“3つの条件”というのは
・一つ目は『衆院の政倫審を年内に終わらせること』
・もう一つは『不記載の問題に関し、今後野党からの各種の要求に賛同・協力しない』
つまり野党が何を言ってきても、「政倫審またやれ」と言われてもやらないよ、と。参考人あるいは証人喚問も含めて、もうこの問題はこれでけじめをつけるのだ、と。
・もう一つは『速やかな人事正常化』
これは、「含む落選議員」だ。まず現職議員は今、各委員会の理事などから外れている。来年の通常国会に向けて、理事のポストにもつけていく。落選議員たちは、いわゆる各自民党の地域の支部長から外れた形で空白になっている。ここもしっかりと支部長に戻してください、と。
久江さん
つまり、安倍派としては、政倫審に出ることによってこの問題に完全に区切りをつけたいという話をした。もともと、この問題が出た時に、当時総務会長だった森山氏に萩生田氏が「政倫審に出たい」と言ったが、事務総長クラスが出ればいいと言われ、不満があったらしい。中堅若手では、「説明を」と言っても幹部がずっと説明をしなかったので、自分たちは説明をしたいという意思を強く持っている人が結構多い。12月12日に正式に政倫審開催が決まって、この3つの手形を落とすというか、担保を取るために、森山幹事長はこれを受け入れることになった。森山氏と石破氏も連絡を取り合っていて、石破氏もこれを「了」としている。  
世の中の見方、野党の見方はまた別の角度があろうが、旧安倍派と石破総理、あるいは自民党執行部の間においては、今回、政倫審を開くことによって、今後はこの問題を蒸し返さないという、口頭の取り交わしがある。野党は世論を背にして参院選に向けてずっと裏金問題を追及し続けていくかもしれないが、自民党の中においては、こういう収め方をしたというのが私の取材だ。

3)信頼回復のためには… 元会計責任者“参考人招致”への対応に注目

中北浩爾氏(政治学者/中央大学教授)は、野党が要求する派閥の元会計責任者への参考人招致との関連を指摘する。旧安倍派の会計責任者は自身の公判で、パーティ券収入のキックバック再開について「ある派閥幹部の要望だった」と述べていた。

松本氏
参考人として、旧安倍派の会計責任者だった松本淳一郎氏の招致を求める野党の発言もある。これを回避するとなると、世間の理解を得られるかどうかは相当怪しいと言わざるを得ない。10月の衆議院選挙で自民党は、インフレなどの問題もあるが、やはり裏金問題、「政治とカネ」の問題が最も打撃になったのは間違いない。きちんと政倫審に出て、公開のもとで説明をすることが大切だ。例えば、参議院でも、過去に411万円の還流を受けていた西田昌司氏が政倫審に出て説明した。これは彼にとって決してマイナスにはなっていない。正々堂々と出た方が世間も納得するだろう。説明を尽くすことが参院選に向けても必要だ。もう早く、裏金問題について決着をつけた方がいい。

久江雅彦氏(共同通信特別編集委員)も、「安倍元総理が『パーティ収入の還流は止める』と言ったのに、なぜ還流が再開したのか、安倍派幹部は『わからない』と言って、問題が拡大した」と分析。「誠心誠意、話す」ことの重要性を指摘した。

末延吉正氏は(ジャーナリスト/元テレビ朝日政治部長)は、自民党が信頼回復するためのポイントについて以下のように指摘をした。

自民党は、いま起きている「政治の空気の変化」への感度が鈍い。そもそも旧安倍派から見れば、政倫審についても、執行部がこういう形で仕切るから待てと、ずっと調整をしてきた。それなのに説明もきちんとできないまま衆院選となり、比例復活もできず、旧安倍派は4割しか当選できなかった。しかも若手は当選してもポストに就くことができない。このままでは一人前の政治家としては扱われない、それでいいのかという部分でおそらく萩生田氏が動いたのだろう。 
ただ、世の中から見れば、「ずるいことをしたのはそちらでしょ」と。国民は納得していない。「政治とカネ」の信頼を問う件は、国民はなかなか忘れない。そこを「永田町的な了解」で対処しているとすると、自民党は参院選に向けて、変わっていないではないかということで、またまずい結果を招くことになるだろう。しっかりと話して、その上で次へ行かなければ、今のままではなかなか生まれ変われない。

<出演者プロフィール>

久江雅彦(共同通信社特別編集委員、杏林大学客員教授。永田町の情報源を駆使した取材・分析に定評。新著に『証言 小選挙区制は日本をどう変えたか』(岩波新書))

中北浩爾(政治学者。中央大学法学部教授。専門は政治学。自民党の歴史などに精通。著者に『自民党-「一強」の実像』(中公新書)『自公政権とは何なのか』(ちくま新書)など多数)

末延吉正(元テレビ朝日政治部長。ジャーナリスト。永田町や霞が関に独自の情報網を持つ。湾岸戦争などで各国を取材し、国際問題にも精通)

(「BS朝日 日曜スクープ」 2024年12月15日放送分よりをもとに構成 ※放送後の政倫審の動きを加筆しています)