政治

2025年2月22日 21:00

【池上解説】トランプ大統領と石破総理の関係性は?関税合戦で日本はどうなる

2025年2月22日 21:00

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日米首脳会談が先日行われました。連日大きなニュースになっていましたね。

報道ではおおむね「成功」といわれていましたが、実際はどうだったんでしょうか。

そして一体どんなことが話し合われていたんでしょうか。日本のこれからに大きく関わってくることですから、確認しておきましょう。

【成功?失敗?日米首脳会談】

 安倍さんとトランプさんは大変な仲良しでした。お互いに「シンゾー」「ドナルド」と呼び合っていましたね。今回石破総理とトランプ大統領は特にそういった呼び方はしていなかったようです。でも握手の時は2人とも大変いい笑顔をしていました。

ではそんな2人はどんな話し合いをし、どんな結果となったのでしょうか。

石破総理はこんな約束をしてきましたね。

石破総理の約束の二つ

1:アメリカの天然ガスを大量に買う

2:アメリカへの投資を増やす

他にもいろいろありますが、この2つは大変大きな約束でした。これだけ見るとなんかアメリカの言いなりになっているのかな、だからトランプ大統領の機嫌が良かったのか、とも思います。でもそんなことはないんです。日本にもちゃんとメリットはあるんです。まずは1つ目の天然ガスから解説いたしましょう。

【日本にとってのメリットは?アメリカの天然ガス大量購入】

液化天然ガス(LNG)は日本ではほぼすべてを輸入し、火力発電の燃料や家庭用の都市ガスの原料として使われています。この天然ガスを「大量に買う」と石破総理は約束してきました。では今現在、日本はアメリカからどの程度の天然ガスを買っているかご存知でしょうか。今どこの国からどのくらい輸入しているのか確認しましょう。

液化天然ガス輸入相手国

1位はオーストラリアで38.2%、2位はマレーシア15.5%、そして3位がアメリカ、9.6%となっています(出典:財務省貿易統計)。アメリカからは1割弱ですから意外と少ないですね。これをもっとたくさん買いましょう!ということになったわけです。具体的にどれくらい、というのは決まっていませんが、トランプさんは「日本は歴史に残る記録的な量の輸入を始める」という言い方をしています。

こうしてみていくとなんか日本が無理矢理買わされるのでは?という気もしてきますが、そうではありません。お互いにメリットはあります。アメリカにとってのメリットはもちろん、売上が増えて儲かる、ということです。それに対し日本にとって一番大きいメリットは将来的に、これまでより安く買える可能性がある、ということです。トランプさんはアラスカの天然ガス掘削を進め、それを日本に売りたい、としています。実はこのアラスカの天然ガス、バイデン大統領の時代には自然保護のため、として新規掘削を認めてこなかったものなんです。それをトランプ大統領は「掘って掘って掘りまくれ!」と就任当日に宣言、掘削を積極的に進めていくことになったんです。

今日本が輸入しているアメリカの天然ガスは、テキサス州やメリーランド州で掘られたものです。これをパナマ運河を通って日本まで運んできているんです。このパナマ運河は大変混んでいる上に、1回の通行料が最大で2億円近くもします。日本までやってくるのに1か月近くかかるとも言われています。

パナマ運河

でもアラスカからなら日本まで比較的運びやすい。1週間もあれば届くと言われています。そうするとコストは下がります。当然値段も安くなる、もしくは高騰を抑えられるのでは、とみられているわけです。

アラスカ・メリーランド州

これから採掘を始めるのですぐにアラスカから買えるわけではありませんが、これから何年か後には電気代やガス代が下がるかもしれない、これが日本にとってのメリットですね。

さらに1つの国にばかり頼ってばかりいると、その国との関係が悪化したり、国際情勢の変化によっては天然ガスなど資源が輸入できなくなってしまう可能性もあります。そういう意味では色々な国から輸入をして多様化を図る、というのは日本にとってもメリットだ、という側面もあります。

【日本にとって得?損?対米投資1兆ドル】

日米首脳会談の取り決め

そしてもう一つ、石破総理が約束したことが対米投資額を1兆ドル(約150兆円)まで引き上げることです。150兆円と聞くと国家予算より多いわけですから、びっくりするような数字ですよね。でもトランプさんにはびっくりするような数字を出すことが大事、と考えたわけです。でもこれまでも日本は約8000億ドルもの投資をしてきています。これを1兆ドルにまで引き上げる、そういうわけです。

これもなんか多額のお金をアメリカから要求された…そんなように思えてしまいますが、そういうわけではありません。ここで言う対米投資とはアメリカに新しく日本企業が進出したり、すでにある工場にさらに設備投資をする、そういうことにお金を使いますよ、ということです。つまり国がお金を出すわけではなく、日本の企業が自分たちのためにアメリカで使う金額を増やす、そういうことです。この会談の前に日本の企業にアメリカにどのくらい投資してもらえるか、ヒアリングした結果ですね。主体はあくまで民間企業です。それを政府としても応援していこう、そういう立場なんですね。

では日本企業にはどんなメリットがあるんでしょうか。トランプ大統領は自動車などに高い関税をかける、今そう言っていますよね。でもアメリカの工場で作ってアメリカで売る分には関税はかかりません。だからトランプさんが何にどれだけ関税をかけるかわからないので、アメリカに工場をつくるのはメリットがあるとも言えるでしょう。でも当然デメリットもあります。

日本で雇用が失われる?

それは日本の産業の空洞化です。これまで日本にあった工場をアメリカに移し、さらに関連企業までアメリカに移ってしまったとしたら。雇用が大量に失われますよね。これは困ってしまいます。

【池上が高評価!日米首脳会談のポイント】

今回の日米首脳会談、日本のメリット、デメリットについてみてきましたが、私が特に注目したのは安全保障についてです。会談前はトランプ大統領に「もっと防衛費を増やせ!」とか「駐留米軍の費用を日本はもっと出せ!」など言われるんじゃないかと心配されていましたが、そんなことはありませんでした。それどころかトランプさんは「同盟国の日本のためにアメリカの防衛力と抑止力を100%提供する」という言い方をしました。

アメリカ トランプ大統領

つまり尖閣諸島などで問題があった時、アメリカは助けてあげますよ、ということをはっきり言ったわけです。これは非常に大きいと思います。この点においては成功と言えるでしょう。

池上彰さん

トランプさんはその後プーチン大統領との電話会談をするなどロシアのウクライナ侵攻についても停戦に向けて動きだしました。プーチンさんとサウジアラビアで話し合いをする、なんて言っています。この後どのように停戦にもっていくのか、本当に停戦はできるのか、トランプ大統領の動きにはこれからも目が離せません。

(池上彰のニュースそうだったのか!!2月22日OAより)