石破政権として初めての経済財政運営の基本方針「骨太の方針」が13日、閣議決定された。大枠は岸田前政権の路線を維持しており、「賃上げを起点とした成長型経済の実現」を柱に掲げている。
一方で、去年から変わったいわゆる“石破カラー”もあるという。第一生命経済研究所・主席エコノミストの星野卓也氏に、今後の財政政策を巡るポイントを聞いた。
「減税政策よりも賃上げ政策こそが成長戦略の要」
「減税より賃上げで野党の政策を跳ね返しているというところは、一つ参院選に向けて対立軸のようなものを作っているのかもしれない」(第一生命経済研究所 主席エコノミスト・星野卓也氏、以下同)
中でも、実質賃金と最低賃金に数値目標が入ったことが1つ、今後の論点になるという。
まずは、労働者が実際に受け取った給与から物価変動の影響を除いて算出した指標である「実質賃金」。今回の骨太の方針では、「2029年度までの5年間で年1%程度の上昇」と明記している。
一方で今月発表された、4月の実質賃金は、物価高の影響で4カ月連続のマイナスである。目標を達成するための方法が見えづらいと星野氏は話す。
「1つは企業がそれなりに稼いでいるが実質賃金が上がらないというのは、企業が海外でもうけたお金を国内の労働者にまわっていくようなパスがつくれないかなど。食料やエネルギーを輸入に依存しているため、その価格が跳ねると国の所得が減り、実質賃金という意味ではマイナスに効いている状態」
また、最低賃金についても、就任当初から掲げていた「2020年代に全国平均1500円」を目指すことを強調。去年の骨太の方針で、岸田前政権が掲げていた「2030年代半ばまでに」からは前倒しした形である。
「かなりピッチを上げるため副作用が心配。雇用が減る形にはならないかもしれないが、今、新卒採用などで起こっていることとして、新卒の給料が上がり新しい人を雇うのが大変になってきている。今いる人のお給料を、下げるまではせずともあまり上げないということが起こっているが、最低賃金も同じようなことが起こる可能性があると思っている。そういう副作用も心配」
「減税政策よりも…」は政府の鉄の意志?

今回の骨太の方針に「減税政策よりも賃上げ政策こそが成長戦略の要」と書かれていることについて、ダイヤモンド・ライフ編集長の神庭亮介氏は「減税政策よりも」とわざわざ書く必要があったのかと疑問を呈した。
「賃上げしてほしいのはみんな同感だろうが、あえて“減税政策よりも”と強調してくるところに政府の鉄の意志を感じた」
また、13日に石破総理が発表した、すべての国民に一律に2万円を給付し、子どもや低所得者にはさらに2万円を上乗せする方針についても、神庭氏は以下のように指摘した。
「選挙の前になるとお金を配る話が出てくる。私は“選挙前お金配り禁止法”を作ってほしい。全国民に給付するが、なかでも住民税非課税世帯には手厚くするという。住民税非課税世帯は高齢者の方が7割超を占める。一方で、日本の家計の金融資産の6割を高齢者が保有しているというデータもある。非課税世帯はフロー(収入)だけに着目して決められており、ストック(資産)をどんなにたくさん持っていても関係ない。現役世代が頑張って稼いだお金を、余裕のある高齢者も含む非課税世帯に手厚く配分すると、ますます世代間格差が広がってしまう」
また、減税と給付の違いについてエコノミストの星野氏は「減税を一度やってしまうとだらだらと続いてしまうという議論があるが、給付も毎年のようにやっている。やめられないという意味では給付もそんなに変わらないのでは」と指摘。神庭氏もこれに同意。
「ほとんど麻薬のようなもので、選挙の度に給付、給付と言っている。減税と何が違うのか。有権者がありがたみを実感しやすい、という点はあるかも知れない。給与明細に目を通して、税金や社会保険料をどれだけ取られているかチェックしている人は恐らくあまりいない。給付金が振り込まれてくると、わかりやすく“お金もらった感”が出る。政治家の立場から見ると、“お金配ってやったぞ感”を出して恩を着せられるわけだ」
「現役世代の本音としては、税金を取って配り直すくらいなら、最初から取る額を減らしてくれよと思うが、1回集めて配り直すことによって利権やパワーが発生する。だからこそ意地でも減税せず、1回集めたものを配り直すことにこだわっているのだろう。有権者は給付金を無闇にありがたがるのではなく、『それってウチらの税金ですよね?』と冷静にチェックしてほしい」
(『ABEMAヒルズ』より)