参議院選挙では、各党がSNSでもしのぎを削った。
ANNが6月21日、22日に行った参議院選挙に関する調査では、「投票先を選ぶ際に何を参考にするか」でおよそ3人に1人が「SNSや動画サイト」と答えるなど、SNSはいまや選挙には欠かせないツールとなっている。
今回の選挙において、SNS上で特に広がった言葉の一つが「日本人ファースト」だ。選挙期間中、X上では「日本人ファースト」を含む投稿の数は約500万に上った(リポスト・引用ポストなども含む)。キャッチコピーとする参政党が、14議席を獲得して“躍進”するなど、今回の選挙を象徴する言葉の一つとなった。
しかし、選挙期間中「日本人ファースト」は、一部で不正確な情報も含んで拡散した面もあった。この言葉はX上でどのように広がっていったのか。すべての投稿を対象にした「X全量分析」からみていく。
■調査期間:1月1日-7月19日
■調査対象:公開されている全アカウントの投稿(リポスト、引用ポスト、返信も含む)
■グラフは「日本人ファースト」を含む投稿をもとに作成
「日本人ファースト」はどう広がった? 4つのステージで分析
「X全量分析」により、「日本人ファースト」を含む投稿数(リポスト・引用ポストなども含む)の推移をみると、選挙日に向けて盛り上がる中に、特に投稿が急増する4つのステージがあることが見えてきた。
■ステージ1 初の投稿1万超 「ニュースまとめアカウント」のバズり(3月末)
今年に入ってからの「日本人ファースト」の投稿数の推移をみていくと、3月までは「数百から1000ほど」の投稿数であった。それが3月29日に初めて1万を超える。さらに30日には一気に4万を超えた。
29、30日の投稿では何が拡散されていたのか。すべての投稿を分析すると、どちらも「ニュースまとめアカウント」による投稿が多くのリポストを稼ぎ、投稿数全体(リポストなど含む)の大部分を占めていた。
30日では、「神谷宗幣議員『日本人ファーストの社会を目指していただけないか』石破茂首相『日本人ファーストは外国人に対して差別だ』」というタイトルの記事が、当時最多となる約8000リポストされた。これは3月27日の委員会での神谷議員の質問に対する、石破総理の答弁をまとめた記事だ。なお、実際の石破総理の答弁で、タイトルにある「日本人ファーストは外国人に対して差別だ」という文言はないことには注意が必要である。
その投稿をさらに、政治系インフルエンサーが引用ポストして、翌日も含めてさらに約1万3000リポストされ、投稿が拡散した。30日以降、数百程度で推移していた「日本人ファースト」は、「数千から1万台」の投稿規模で推移するようになる。
■ステージ2 参政党の公約が地上波に 神谷党首も取り上げ拡散(6月上旬)
次の盛り上がりは、参院選公示の約1カ月前となる6月6日、7日だった。
6日になると、「日本人ファースト」をキャッチコピーとした参院選の公約発表のニュースが地上波で放送された。神谷党首と参政党候補者が「報道ステーションで普通に報道してる!! 明らかにフェーズが変わった!」など投稿し、合わせて当時最多となる約8500リポストされた。また、公約発表のニュースをほかの多くの政治系インフルエンサーも取り上げてリポストされるなどして、投稿数の多くを占めた。
6日には合わせて2万7000投稿。7日は倍増して6万となり、ついに「日本人ファースト」に言及する投稿数は1日5万を超えた。この時期になると、一つの投稿が大きく拡散して、全体の大部分を占めるというよりも、神谷党首ほか複数の政治系アカウントの投稿が拡散する傾向があった。
これ以降、「数千から1万ほど」だった投稿数は跳ね上がり、1日3万投稿以上で推移するようになる。
■ステージ3 都議選に向けて盛り上がり 「外国人問題」と共に投稿急増も(6月中旬〜公示)
「日本人ファースト」は、6月19日に約8万、26日に約10万投稿を記録した。それ以降は、公示日まで10万前後で推移する。
この2回の盛り上がりの内容を見ていく。この時期の最初のヤマは都議選前日の6月21日に向かってできている。この時期では「日本人が「日本人ファースト」って言ってなぜ叩かれるのか」という投稿が1万を超える最多のリポストがついた。この他、都議選で参政党への投票を呼び掛ける投稿なども多く拡散された。
都議選で参政党候補3人が当選した後、投稿数はさらに増加する。
24日から26日までで、多く拡散された投稿を見ると、「外国人が優遇されている」という内容などがあった。また、これらの投稿に対して「外国人差別でないか」など、「日本人ファースト」に対する反論の投稿も見られるようになった。
これまでみた2つのステージでは、多く拡散した投稿の大部分が、賛同する意見だったが、この頃からは反対意見も巻き込んで、投稿数が増加していく傾向が見られた。
■ステージ4 反対意見も巻き込み、膨れ上がる投稿数(選挙期間中)
公示日になると、投稿数は約18万まで増えて、そこから20万前後で推移していく。そして、13日になると投稿はさらに急増し、約40万を記録した。
13日前後の投稿を見ると、12日に民放テレビ局が放送した「外国人政策」を取り上げた報道に関する投稿が、多くを占めた。ニュースまとめアカウントや、政治系インフルエンサーら中心に、X上で番組の内容を批判的に取り上げ、最も多くて1万リポストを超える投稿もあった。また、報道内容を支持する投稿も増えて、賛否含めて「日本人ファースト」を含む投稿は膨れ上がった。その後も、投稿数は40万前後という高い水準で推移して、19日には、今年に入って最多となる49万投稿を記録した。
また、選挙期間中の投稿では、「日本人ファースト」と共に外国人に対する誤った情報を発信する投稿も複数見られた。例えば、「生活保護は外国人ばかり」「外国人は優遇されている」などだ。厚生労働省によると、2023年度時点で世帯主が外国籍で生活保護を受ける世帯の割合は、全体の約2.9%だった。また、制度として外国人が優遇されることもないとしている。
このように、特に選挙期間中では、参政党への批判的な報道や投稿などが、さらなる反響を呼んで投稿が増加していく傾向がみられた。また、その中には賛否、そして不正確な情報など、様々な情報が含まれていた。
一部不正確な情報も 拡散された投稿には注意が必要
「日本人ファースト」がX上で盛り上がる経緯を4つのステージに分けて見てきた。
初めて1万投稿を超えるきっかけは、一部強調した見出しを付けた「ニュースまとめアカウント」だった。その後、参政党公約が地上波に取り上げられることで一段と盛り上がり、都議選や外国人問題に対するX上での関心の高まりなどから投稿は増加する。「日本人ファースト」への反対意見なども増加して、選挙期間中の総投稿数は跳ね上がった。
「X全量分析」を通しては、大きな話題となれば賛否含めてますます投稿が増え、さらに人々の目につきやすくなるというX上での傾向がみられた。しかし、その盛り上がりの裏では、一部不正確な情報も拡散されたことには注意が必要である。