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2025年8月8日 02:44

検証結果に疑問の声も…“冤罪事件”警視総監が異例の謝罪 当事者の受け止めは

検証結果に疑問の声も…“冤罪事件”警視総監が異例の謝罪 当事者の受け止めは
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機械メーカー『大川原化工機』をめぐる冤罪事件で、警視庁は7日、捜査の問題点を検証した報告書を公表し、警視総監が、会見で異例の謝罪をしました。

迫田裕治警視総監
「捜査の基本を欠き、その結果、控訴審判決において、違法であるとされた捜査を行なったことを、真摯に反省しております。本件捜査によって、多大なご心労、ご負担をおかけしたことについて、深くお詫びを申し上げます」

2020年3月、警視庁公安部は、軍事転用が可能な機械を不正に輸出したとして、大川原化工機の社長ら幹部3人を逮捕。輸出規制に関する経済産業省の省令を独自に解釈し、捜査を進めました。

東京地検の主任検事は、公安部の逮捕容疑のまま、起訴に踏み切ります。しかし、初公判のわずか4日前に起訴が取り消され、3人が無実であることが明らかになりました。

東京高裁は、今年5月、公安部の違法捜査を認定し、東京都と国に合わせて1億6600万円余りの賠償を命じ、この判決は確定しました。

これを受けて警視庁は、検証チームを設置。退職者を含む、幹部や捜査員47人に聞き取りを行い、その結果を公表しました。

迫田裕治警視総監
「捜査上の問題点を総括しますと、公安部全体の捜査指揮系統の機能不全が、最大の反省事項だったと考えております」

捜査の中心を担ったのは、公安部外事1課5係。
約20人の捜査員を束ね、現場を指揮した係長は、慎重意見に耳を傾けず、直属の上司である管理官も、それに異を唱えることはありませんでした。

警視庁検証チームの報告書
「複数の当時の捜査員が、第5係長に慎重意見を述べても、正面から相手してもらえなかったと述べていることからも、検挙を第一に考えるあまり、自身の捜査方針にそぐわない捜査上の消極要素に対し、十分な注意を払っていなかったと認められる」

また、その上司にあたる外事1課長から公安幹部への報告も、捜査の概要や予定を伝えるのみ。幹部側も、詳細な報告を求めなかったといいます。

そして、報告書は、次のように結論付けています。

警視庁検証チームの報告書
「公安部が、組織として慎重に検討していれば、その時点で捜査方針が見直され、関係者の逮捕に至ることはなかった可能性は否定できない」
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ただ、捜査関係者からは、報告書の内容に疑問の声が上がっています。

捜査関係者A
「一般的に課長への報告は、いいことも悪いことも含めて、すべて報告する。報告しない管理官なんているのかな」
捜査関係者B
「検証結果を見て『え?本当に幹部知らなかったの?』って。長く公安部にいたが、当時、基本的に幹部に報告をあげていた。この事案は、大きな事案でもあるし、報告はあげるはず」

調査結果に基づき、警視庁は、公安部の歴代幹部19人を『処分』または『処分相当』と判断。ただ、最も重い処分でも、減給1カ月相当にとどまりました。

再発防止策として警視庁は、幹部が初動段階から捜査情報を共有できる“部長捜査会議”の設置など、指揮体制の見直しを進める方針です。

また、上級庁にあたる警察庁も検証結果を公表。不正輸出事件の捜査に関して、取り調べの録音・録画を実施するよう、全国の警察に指示しました。

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大川原化工機 大川原正明社長
「いまの立場でやれることとしては、かなり突っ込んではいるのでは。個々の責任が、すごくあいまいなまま。それは内部で検証してるから」

弁護士は「捜査指揮系統の機能不全」と総括した警視庁の姿勢を厳しく批判しました。

高田剛弁護士
「事件が欲しくて欲しくてたまらない。検挙しなきゃ後がない。追い込まれた彼らが逃がすもんかと、無理をした結果が、これ。それが、一番大きなの問題なのに、覆い隠すかのように、捜査指揮系統の機能不全が、最大の反省材料だと総括。そこは大きな問題」

捜査関係者も、外事警察、特有の事情を口にします。

捜査関係者A
「公安部に所属して1つも事件化できずに、捜査員人生が終わった人も少なくない。失敗できないというプレッシャーや、何とか成功させたいという気持ちが背景にあったのでは」

冤罪で逮捕された3人のうちの1人、元顧問の相嶋静夫さんは、勾留中に胃がんが見つかり、亡くなりました。

治療のための保釈が認められなかったことに、遺族はいまも深い憤りを抱えています。

相嶋さんの長男
「もうちょっと延命できていたはずなんですね。そもそも安易に逮捕・勾留したっていうところが問題で。今回の件だけでいうと、逮捕・勾留必要ない事案だったと結論なってますけど。事件にならないもので安易に立証構造が不安定ななかで、“身柄拘束して自白させればなんとかなる”って、そのようなやり方が、完全に裏目に出た事例なんだなと」

8度にわたり、保釈を求めた相嶋さん。
東京地検は、拘置所に病状の確認すら行わず、一貫して反対し続けました。

上級庁にあたる最高検察庁も検証結果を公表し、当時の対応に誤りがあったことを認めました。今後は、重い病気を理由とする保釈請求があった場合、拘置所を通じて病状を正確に把握するよう、全国の検察に求めるとしています。

相嶋さんの長男
「実行性があるのかなと、疑問符がつくところはありますが、再発防止に踏み出そうという姿勢は感じられましたので、そこは、今後、期待したいところではあります」
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◆迫田警総監が述べた「捜査指揮系統の機能不全」とは、どういうものだったのでしょうか。

警視庁の検証によりますと、まず、捜査班の中では、現場を指揮していた『管理官』『係長』、その下に『捜査員』がいましたが、係長ら、現場の指揮官が検挙を第一に考え、消極要素(不都合な情報)に注意を払わず、捜査していた実態があるとしています。

不都合な情報というのは、例えば、大川原化工機の機械について、経済産業省は、最初から不正輸出にあたるのか疑問を示し、“否定的”でしたが、現場の指揮官は、慎重に検討することなく、捜査を進めました。

現場の指揮官が“検挙にこだわったのか”理由について、検証報告によりますと、「第5係は、担当事件の検挙機会が少なく、(不正輸出事件に関しては、数年に1件の検挙ペース)本件を、何とか積極方向で立件できるようにした」としています。

さらに、「捜査班の上には、外事1課の課長がいましたが、十分な報告が上がらず、課長は、捜査班の運営実態を十分に把握していなかった。その結果、公安部長など、さらに上の上層部にも、捜査の大まかな概要などしか伝えられないなど、報告が“形骸化”し、捜査方針の問題点を把握していなかった」と報告書はまとめています。

◆こうした警察内部による検証結果をどう見るべきなのでしょうか。警視庁キャップの石出大地記者に聞きます。

(Q.警察内部では、この検証内容について、どのような声が出ているのでしょうか)

石出大地記者
「実際に公安部の関係者に取材したところ、幹部側は『報告される内容は選べない』とする一方、現場側からは『本当に幹部は知らなかったのか』と疑問の声が聞こえました。私も取材のなかで、違和感というものを覚えました。それは公安部という組織が目指すものが、通常の事件と違う点です。通常の事件であれば、容疑者の特定と立証が最も最優先されるのに、公安部の場合は、その捜査による社会的な反響や、影響というものを強く意識する傾向にあると感じました」

(Q.結果を出さないといけないという現場捜査班の思いが、暴走につながったのでしょうか)

石出大地記者
「そもそも公安部は、立件するチャンスが本当に少なくて、『捜査員人生で、一度も立件できなかった』という人もいるほどです。そうした状況から、ゴールありきの捜査が行われてしまっていました。当時、『絶対、大河原化工機は怪しい』と、決めつけていた幹部も実際にいました。また、今回、公安部の複数の関係者に取材したところ、『消極要素よりも、立件できる方向に、視点が向かいがちになることもある』と話す人もいました。長期間にわたる任意の聴取などの捜査で結果がなかなか出ないなか、逮捕に踏み切る前に、公安部の幹部が一度立ち止まって、捜査内容を吟味することができたのではないかと強く感じました」
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