立憲民主党の野田佳彦代表の豹変発言に注目が集まっている。真相を訊くべく、ジャーナリストの青山和弘氏が本人に直撃取材した。
4日の衆院予算委員会の質疑で、物価対策について野田代表が「我々が訴えたような食卓応援給付金のようなものを考えるのか」と発言すると、石破総理は「問題意識は恐らく共通していることはたくさんある」と同調するように応じた。
立憲が主張する給付付き税額控除などについては、野田代表は「ぜひ真摯に協議をさせていただければと思う」と発言し、石破総理は「その通りにしたい」と語った。
これまで裏金の温床として企業・団体献金の廃止を訴えていた野田代表だが、4日には「落としどころを一緒に協議していきませんか」と語り、これに石破総理は「そのようにしたい」と応じた。
さらに、「第1党と第2党が党首同士で真摯な議論をすることに大きな意味はある」と石破総理が言えば、野田代表は「やっぱり比較第1党と第2党が真摯に協議して結論を得る」と語った。
先の参院選で立憲民主党の議席は横ばい。特に 政党への支持が問われる比例区で立憲は国民民主や参政党に後塵を拝した。さらに、投票率が伸びた今回の参院選では無党派層からの投票先として国民民主、参政党よりも低い結果に。
党内では泉健太元代表が参院選を振り返り、現役世代においては「立憲スルー」状態だったとXに投稿。立憲内部には「このままでは衆院選は戦えない」「野田代表の求心力に陰りが…」といった声もある。
石破総理と野田代表のライバル同士の突然の急接近にこんな声も囁かれている。「石破総理最大の応援団長は野田代表だ」(政治担当記者)
これまでの主張を変えてまで石破総理を支援するように見える野田代表。協調路線を示し、ともに「延命」を画策しているのか。青山氏が野田代表を直撃し、単刀直入に斬り込んだ。
「石破総理を応援しているんじゃないかと言われても、それは構わないということ?」(青山氏)
「長い間やってきて、お互いのことを知り尽くしていると思う。後援会長じゃないが『何やってんだよ』『思い切ってやったらどうか』という感じ」(野田代表)
なんと「石破総理の後援会長」との指摘を完全に否定はしなかった。さらに戦いの方針も変更するという。理由は新勢力の台頭にあった。
「打倒自民党。今回も(参院選も)そう戦ったつもりだった。結果的には、打倒自民党で終わらす戦いではもういけない。やっぱり右のポピュリズムが強すぎる。左右のポピュリズムに対抗してといつも言っていたが、左のポピュリズムよりも右のポピュリズムが強烈。今ヨーロッパで起こっているようなことが日本でも起こり始めたと意識すべき。そこにどうやって政治が対抗するか。
昨日広島に行ったが、広島で参政党が比例で第2位。あれだけ平和教育をやってきて、小学生2人の挨拶も見事だった。感動するぐらい。ああいう平和教育を徹底してやってきた広島で核武装安上がり論を言った候補者もいたような政党が、比例で我々より上にいってしまう。沖縄でも、長崎でも強かった。これ何なのかということは、党の総括というよりも、それを超えていて、これからもそういう力は続くのではないか」(野田代表)
野田代表が危機感を抱いているのは、参院選で議席を大幅に伸ばし、比例区の得票率も立憲を上回った参政党の存在だ。
「良いか悪いかは別にして、参政党の日本ファースト。中身はいろいろ問題があると思うが、聞こえがいい。不遇感を持っている日本人にとって、外国人は優遇されているかもしれないというところにメッセージが届いた。それが繰り返された。例えば、外国人排斥のようなことを助長するような発言に対しては、我々は分断と対立を乗り越えて、多様性を認め合う社会を作っていこうと言い続けてきている。いろいろな弊害はあると思うが、特別に外国人が優遇されているというよりは、むしろ不遇感を持っている日本人が多い。そこに着目をした改善が必要だと思うし、共生社会を作って支え合っていくのが理想だ」(野田代表)
野田代表によれば、参政党が掲げる「日本人ファースト」は、移民の排斥を訴え、極右政党が躍進する昨今の欧州の状況と似ていると指摘。日本での右傾化の流れを食い止めるために中道政党の結束が必要だとした上で、その実現には野田代表と考えが近いとされる石破総理の存在が不可欠。対立する問題を乗り越え連携を優先する。それが「石破総理の応援団長」という指摘を完全には否定しなかった理由だ。
「既成勢力と言われようと、中道がもっと固まって頑張らないと日本の政治は良くならないと思った。だから、自民党の右側と近寄っても意味がない。間違いなく日本自体が大きく今変わってきたことを実感したので。その現実を見た時に、この流れがずっと続くことは極めてリスクがある。自民党でこの後どなたがどうなるかわからないが、我々の気持ちに親和性を持ってくれる人がいる間に決められることは決めていこうということが今回の予算委員会の背景。むしろこういう時こそ、他の党のスローガンを言って申し訳ないが、『対決より解決』だ」(野田代表)
国民民主のお株を奪う「対決より解決」。その解決の相手は、石破総理その人だ。では、これまで長年対立していた問題はどうするのか。
「野田代表も結局、これまで言っていた企業団体献金の全面禁止ではない。これは野田さんとしては大丈夫なのか」(青山氏)
「大丈夫じゃない。それは廃止でずっと言ってきたし、頑張ってきた。公開を強化するという内容だが、受け皿の政党支部は全然減らない。会期末まで持っていたけれど、結論が出ないまま。サッカーでいうと延長戦前半、後半終わった。もうPKしかない状況。
政治資金規正法や公職選挙法は、相手とこちら側の主張が完全一致することはなかなかない。少なくとも比較第1党と第2党は合意して、他党に賛同を呼びかける形にしないと結論が出ないので、出さなきゃいけないギリギリの場面だと思ったので、ああいう提案をした」(野田代表)
では給付金についてはどうなのか。民主党政権時代、財政規律派だった野田総理(当時)は「税と社会保障の一体改革」を掲げ、安定した社会保障の提供のため消費税を10パーセントに引き上げた、まさに増税のザ・当事者。
しかし、参院選では、食料品消費税を0パーセントにした上で、1人2万円の給付金を出す「食卓応援給付金」を公約に掲げた。これは減税を否定してきた自民党とは相容れない政策だった。
「野田代表が(食卓応援給付金のようなものを考えるのかと)呼びかけて、石破さんはかなり乗ってきましたよね?」(青山氏)
「思った以上に即答してきたので驚いた。覚悟を決めて言ってきたのかなと。給付金だって公約していたことを曲げて、我々の食卓応援給付金にするのか」(野田代表)
また、石破総理と野田代表が協議しようとしている給付付き税額控除は、税金から一定額を控除する減税で、課税額より控除額が大きいときには、その分を現金給付する方法だ。例えば、10万円の給付付き税額控除を実施する場合、納税額が5万円の人は差額の5万円が現金給付される。
「これはパッケージで消費税減税を言っている。それ全部飲めるかというとなかなか大変だと思う。社会保障と税の一体改革だって与党と野党が一致点を見出しながらやったこと。同じようなことでいいのではないか」(野田代表)
これらの「一致点」が、石破総理の在職中に見出し実績を作っていくことが、保守勢力の台頭を食い止め、立憲のプレゼンスを高める。それが野田代表の「擦り寄り」戦略の真相ではないだろうか。
「(石破総理)本人がその気があったって幹事長辞めたらもたない。どれぐらいの期間彼が頑張るかわからないが、その間でも協議して決着つけられるものがあるなら、今の党首が決めたことを次代わった党首が全否定はなかなかできない。今こそだから対決より解決だ」(野田代表)
最後に総理経験者の野田代表にこう尋ねた。
「野田さんがもし石破さんの立場だったら、自分の進退はどう考える?」(青山氏)