夏の風物詩“盆踊り”をめぐって、日本保守党・百田尚樹代表のX投稿が話題になっている。「選挙に強くない国会議員は、地元の盆踊り大会にどれだけ出るかで当選か否かが決まります」。どうやら、自民党・小林鷹之衆院議員が地元で盆踊りをする様子を批判した一般人の投稿に反応したようだ。
百田氏は「盆踊りに精を出す政治家も政治家だが、それで投票するかどうかを決める有権者もどうなんだ。日本が良くならないはずや」との持論も綴ったが、ネットでは「地元の人気取り! 踊ってないで仕事しろ」「盆踊りに参加して地元の生の声を聞くのも大事」と賛否の声があがった。
国会議員の盆踊り参加は無意味なのか。『ABEMA Prime』で“政治家の地元回り”を考えた。
■1日最大30箇所も 国光あやの衆院議員「単に回るだけの人もいるが、選挙は強い」
政治家は盆踊りで何をするのか。有権者との握手や、子どもとの写真撮影、屋台で「地元食材の料理」に舌鼓、振付を覚えて積極的に踊りに参加するなどがある。また、「自治体」「商工会議所」「地元企業」の関係者との談笑や、地方議員に地元の課題などを聞き、時には地域ごとの盆踊りやお祭りを“はしご”することもある。

自民党の国光あやの衆院議員(茨城6区)も、祭りがあれば駆けつけ、複数件あればはしごすることもあるそうだ。8年間の議員生活で、1日で回った祭りは最大30件。「田舎のほうでは朝6時くらいから神事をやっていて、コロナ禍でも土日は平均1日10件あった。ただ、行けない時には遠慮している。30カ所になると、1カ所あたり約30分。単に踊ったりあいさつしたりでは芸がなく、1個くらいは困りごとを聞いて、政策へ生かすことを目標にしている」。
しかしながら、「政策をやらずに単に回っているだけでも、選挙が強い人はいる。業界では“顔見世興行”と呼んでいるが、それだけで親しみが湧き、投票しようと思う人はいる。前回の衆院選でも、よく回っている人が勝った」といった実情も明かす。
立命館大学政策科学部の上久保誠人教授は、地元回りが国会議員の仕事となっている現状に疑問を呈する。「盆踊りに政治家が来ていても、それで投票はしない。かつての自民党は、地元の活動量が圧倒的な力を持っていたが、時代遅れになっている。盆踊りのような集まりには、高齢者しかいない。そこで拾う民意があるにしても、(幅は)限られている」。
■音喜多駿・元参院議員「9割が義務感」「世襲議員は秘書で許される」
日本維新の会・元参院議員の音喜多駿氏は「政治家を11年間やって、何百カ所の盆踊りへ行った」という経験から、「現職の人は認めないが、行くのは選挙のためだ。9割以上の人は行きたくないが、義務感で回っている」と断言する。「盆踊り会場で話を聞くのはほぼ無理だが、単純接触を繰り返すことは後につながる。行くのがデフォルトで、行かないと『あいつだけ来なかった』と陰で言われる。そのマイナスを防ぐ側面もある」。

現職時代を「精神的に良くない。家族サービスで土日に休んでいる時、『どこかで祭りがあった』とXで見ると、ライバル候補に出し抜かれた気持ちになる」と振り返る一方、「世襲議員のように知名度があると、『うちの代議士は忙しいから』と秘書で許される。しかし自分なんかが秘書を行かせたら、『いつからそんな偉くなったんだ』と怒られる」とも話した。
17年の専業主婦を経て、再就職と転職を重ねる薄井シンシア氏は、「盆踊りは日本の伝統文化であり、政治家が行ってどこが悪い」と肯定する。「政治家ならば義務だ。私はホテル業界にいたが、夕方にロビーへ行き、宿泊客の空気を読むことを義務づけていた。『盆踊りに参加したから投票する』というわけではないが、政治家は雲上人でないという親近感を印象づけるのが大事だ」。
そして、「企業の社長も、社員や株主、ビジネスパートナーへの顔見せに加えて、会社を経営しなくてはならない。タスクをうまく人に任せて、効率的に働くことが、政治家に求められる能力だ」と話した。
国光氏は「地元回りを無駄だと思ったことはないが、人は使える時間が限られている。地元活動をフルにやると、東京で政策を練る時間が減ってしまう。参院選でも、東京では頑張っているが、地元回りが少なかった候補が、残念な結果になった。今の日本の民主主義では『両方とも頑張ろう』にしかならない」と考えている。
■SNS施策だけではダメ?「どっちか半分をやめる、はできない」
上久保氏は、盆踊りで勝つ選挙がSNSで変化してきていると指摘する。参政党や国民民主党の躍進は、盆踊りで有力者に頭を下げるような古い民意の汲み取り方が時代に否定された結果であり、今まで政治に対して声をあげてこなかった“普通の人たち”の支持をSNSを通して受けたためだと分析。ネット選挙がもっと活発になれば、地元組織票で勝つという選挙のあり方も変わるのではと予測する。

一方で国光氏は、ネット活用について「存在感は増しているが、『衆議院か、参議院か』『選挙区か、比例か』で変化する。百田氏は参議院の全国比例だが、衆議院の小選挙区では、デジタルの“空中戦”だけで話を聞こうとすると、どうしてもまだバイアスがかかってしまう」と実感を語る。
上久保氏は、地元回りの問題点を挙げる。まずは「地元の集会は高齢者や経営者が多い。そうした声は有権者の真ん中の意見と言えるのか」といった観点から、「地元の声は偏っている」とする。加えて、選挙で勝つために、政策よりも「地元のために何をやったのか」ばかりアピールすることになり、地元回りが利益誘導につながる可能性を危惧する。
では、どのように意見を集めればいいのか。音喜多氏は「国光氏の言うとおりで、ネットも重要。どっちか半分をやめる、はできない。地元回りから帰って、22時からインスタライブをやるなど、単純に稼働量が増えている。どちらかをサボると票が減り、選挙に負ける“ブラック労働化”が加速している」との実感を明かした。(『ABEMA Prime』より)