石破茂総理の辞任に伴い、自民党総裁選が9月22日告示、10月4日に投開票される。これまでに茂木敏充前幹事長、小泉進次郎農水大臣、小林鷹之元経済安保担当大臣、高市早苗前経済安保担当大臣といった面々が出馬表明する中、岸田政権時から官房長官として総理を支えてきた林芳正官房長官も昨年に続き、出馬を表明した。
1995年に初当選した林氏は、党では経済、財政畑を中心に経験を積み、2008年には防衛大臣で初入閣。以降、経済財政担当大臣、農水大臣、文部科学大臣、外務大臣など重要ポストを歴任してきた。経験十分ながら、他の候補者と比較して有権者から地味な印象も持たれがちな林氏だが、議員で構成されるバンドではギターを担当、漫画などのサブカルチャーを愛する一面も持つ。総裁選には3度目の挑戦となる林氏。「林プラン」と命名した政策、訴えはどこまで党内で響くのか。「ABEMA Prime」でその戦略や本音を聞いた。
■林氏に聞く“10の質問”

林氏は東大法学部から三井物産、ハーバード大学院という経歴を持つ超エリート。1995年に参議院で初当選を果たし、以降5選を果たすと、数々の大臣ポストを歴任。閣僚辞任の際には即対応することから「政界の119番」とも呼ばれる。出馬表明会見では「成長戦略を実現させて景気対策も合わせて、1%の実質賃金上昇の定着」を実現すると語った林氏に、10の質問を聞いた。
Q1.議連に所属するほどの漫画好き。好きなセリフは?
星君!(巨人の星・伴宙太)
Q2.国会議員バンド「Gi!nz」のギター担当。そのお値段は? 34万円。クリームホワイトのストラトキャスター。
Q3.漫画にアニメに音楽に…サブスク何個入ってる?
ネットフリックス、ディズニー、(アマゾン)プライムの3個
Q4.「食べログ」有料会員…あなたの人生最高レストランは?
難しいが、ピーター・ルーガー。今、恵比寿に来ている。
Q5.総理大臣の報酬「4000万円」は高い?低い?
低い。
Q6.死ぬまでにお金は使い切る?家族にいくら残す?
全部残す。
Q7.「政界の119番」として閣僚登板も…名誉?もう嫌?
名誉だ。
Q8.林さんのピンチ!誰に119番する?
本部長の田村憲久さん。
Q9.約1年の石破政権…総理は何点?林さんは何点?
総理85点、林芳正75点。
Q10.総理としてより大事なのは…実務能力?国民人気?
国民の人気だ。
■2人の総理を支えた官房長官

岸田文雄前総理、さらに石破茂総理と総理が交代しても官房長官として支え続けた林氏。実務能力の高さは自他ともに認めるところだが、石破総理との1年間をどう振り返るのか。自己採点では石破総理に85点、自身に75点をつけたが「近くで見ていると(石破総理も)いろいろ迷われながら、決断の連続だった。類稀なる言葉の能力はある。運が悪かったというのもなんだが、ハマる時代だったならという思いはある」と率直な思いを述べた。
総理として85点となれば、辞任する必要もないとも考えられるが「(衆院選・参院選などの)選挙に負けた。自民党全体に責任はあると思うが、会社も社長が責任を取るという意味で、総理が責任を取るということ。ただ総理一人がダメだったわけではない」と語った。現官房長官としては、政府として進めた政策には自身が総理になっても推し進める意向を持つ一方、自民党総裁としては「党の方はゼロからの再建。徹底的に改革をしなければいけない」と説明した。
石破総理と進めてきた政策の中で、違いはどこか。真っ先に出たのは2万円の給付金だ。「今回、2万円を公約したが私だったらやらなかったかもしれない」。また日本が持つコンテンツ産業には「もっと打ち出したいと思う」と注力したい意向を示した。ただし2万円の給付は「公約は重い」と撤回するつもりはない。また暫定税率の廃止についても合意しているためやり切るが、一方で「減税は約束していない」とも述べた。
■自ら求める発信力の向上

林氏は有権者からはメディア露出が多い小泉氏、前回の総裁選では1回目で1位になった高市氏らと比べて、地味な印象を持たれがちだと言われている。今回も実務能力、経験を打ち出すと思われたが、林氏自身はより人気・発信力を高めていくことの必要性を感じている。総理・総裁に必要なものとして「人気というか、正確に言えば説得力。『この人が言っていることなら信じていい』と思ってもらえることだ」と語る。「実務は周りの官房長官などが支える。ただ最後の難しい決断が総理に行く」と、最終的には判断を下す者にこそ必要なものがあるとした。
「林芳正」という政治家を知ってもらうためには、場所を選ばない。総裁候補として発言する映像メディアも地上波、BS、ネット配信などに、大きな差を感じていない、特にネットについては国民民主党、参政党などの躍進を見て思うところもあると話す。「今はやはり双方向。『1億・総放送局』のようになっている。うまく使えば民主主義は発展するが、偽情報・誤情報も多い。健全な言論空間になるといい」と、積極的に活用する意向を明かした。
会見で明かした「林プラン」は3項目。1つ目は「1%程度の実質賃金情報の定着」とし、国民所得と経済生産性の向上による成長と分配の好循環を目指す。2つ目は「2040年代に向け持続可能な社会保障」で、強靭な経済を構築するための工程表作成と推進をする。そして3つ目は先述の「党改革〜ゼロからの再建」だ。他候補からは、さらにエッジを立てた発言、政策が打ち出されている可能性もあるが、林氏はそれに乗らない。「できないことを言って、もしできなかった時には失望が高まる」と、堅実に進める姿勢は崩さなかった。
■GDPよりも大事な「幸福感」

高い実務能力を持つ林氏だが、大きな意味合いとしてはGDPなどの数字の向上を求めるよりも、むしろ日本国民の「幸福感」を押し上げることこそが、本来の目的だと力説する。「GDPの研究はずいぶんやったが、GDPが増えても楽しくならないし、幸福にならない。そんなギャップがある。昔はLP(レコード)1枚が2500円したが、今は(サブスクで)800円で聞き放題。800円だから幸せが3分の1になったかといえば、むしろ今の方が幸せだ。プライスレスというか、環境がいい、家族と過ごす時間があるなど、そういう数字にできないところを、何か統計でも取って、それを増やしたい」。
2025年の世界幸福度ランキングでは、1位が8年連続でフィンランド、2位がデンマーク、日本は55位と低い。「まずは指標を作って、それが上がっていなければやり方を変える。今はGDPがまさにその指標になっていて税や予算といった政策を打つが、(幸福度につながるものが)GDPではない部分があるならば、そこを何らかの形でわかるようにしたい。実感できる幸せは大事だと思う。『幸せ』を甘っちょろいという話だと思わず、馬鹿にされてもいいから言い続けていく」。 (『ABEMA Prime』より)