政治

2025年9月25日 16:00

自民党総裁選5人の“現在地” 小泉・高市両氏軸に展開も…水面下の“不確定要素”

自民党総裁選5人の“現在地” 小泉・高市両氏軸に展開も…水面下の“不確定要素”
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“ポスト石破”を争う自民党総裁選。『BS朝日 日曜スクープ』は告示前夜の時点での、候補者5人の“現在地”を分析。専門家は、小泉・高市両氏を軸に展開すると予測しつつも、今後の戦いに潜む“不確定要素”も指摘する。

1)カギ握る党員票「高市氏の強みは…」 総裁選の“変数”探ると…

今回の自民党総裁選は、党所属の国会議員と党員・党友が投票する、いわゆる「フルスペック型」で行われる。改めて昨年の総裁選の票数を確認すると、1回目の投票では党員・党友会の票を最も集めたのは高市早苗氏。一方で国会議員票は小泉進次郎氏がトップだった。

澤井尚子氏(テレビ朝日政治部与党キャップ)は今回、党員党友票に強い高市氏と、国会議員票に強い小泉氏を軸に展開すると分析する。

5人の出馬なので、決選投票となるのはおそらく今回も同様だ。高市氏支持の国会議員票は、広がりが限られるものの、上川陽子氏が立候補しなかったこともあり、女性議員票が前回よりもかなりついている。一方で小泉氏は、既に出陣式で80人近く集めているので現時点で100票は固めているのではないか。現時点ではやはりこの2人が優勢だ。

林尚行氏(朝日新聞前政治部長)は「議員票に関してはやはり小泉氏が強い」としつつも、今後の論戦に注視する。

議員票自体は小泉氏が強い。議員は、果たして小泉進次郎という人物が総裁選“本命”であるのか、投票日までの論戦期間全体を通して見定めることができる。勝ち馬との流れになれば上積みされていく。
ただ、問題は党員票だ。高市氏の強さは、党員票が前回とあまり変わらないとみられることではないか。昨年、高市氏に入れた人が、今回は小泉氏に変えるかというと、多分そうではない。小泉氏は、石破氏の得た党員票をどのぐらい獲ってくることができるのか。1回目から高市氏と党員票がほぼ変わらないとなれば、議員票で決選投票というのが自ずから見えてくる。
候補者

久江雅彦(共同通信特別編集委員)は、「今回の総裁選を見る大きなポイントは変数が2つ」と、以下のように分析をした。

石破氏の辞任直後から、小泉氏・高市氏がツートップという見方が強く、確かにそこが基軸だが、事実関係で数字を見ていくと、林芳正氏がある程度行くと私はこれまでも指摘してきた。
まず前回石破氏に投じられた票がどこに行くかがポイントで、一部は高市氏、小林鷹之氏、茂木敏充氏に行くが、かなりの部分は小泉氏と林氏に行くとみている。小泉氏に流れる票の方が若干多いと思うが、自民党員は地方で年配者が多いので林氏に投じる人も言われているよりは多いかもしれない。
もう一つの変数は、小林鷹之氏を支持している保守系の議員票の流れ。旧安倍派の衆議院議員は、半数以上が高市氏支持で、7人前後が小林氏支持だ。ここを因数分解すると、参議院議員の旧安倍派「清風会」のうち、20人ほどの票がまだどこに行くのかわからない。例えば10票前後が小林氏に行くと、高市氏は見込んだ票が得られなくなる。
こうしたことを総合すると、現状では小泉氏が党員党友数も議員票も3桁をとる勢いだが、2番手が高市氏と即断するのはまだ早い。林氏は2番手になるかどうかで、今後、総理を目指す足場が違ってくるし、高市氏が2番手になれば党内バランス、人事、保守系の影響力も変わってくる。2番手争いが今後の自民党の潮目を決める、あるいは野党との連携の強さを決める重要なポイントになる。
重鎮
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2)各陣営のメンバーから見える“戦略” “世代交代”訴える危機感には…

9月20日時点の番組調べでは、茂木敏充氏は主に旧茂木派の議員が支持。小林鷹之氏には浜田靖一・衆院議院運営委員長や石井準一・参院国対委員長が陣営入りした。林芳正氏には旧岸田派を中心としつつ、中谷防衛大臣、伊藤復興大臣、小野寺政調会長らが支持を表明。高市早苗氏には旧安倍派の支持が目立ち、小泉陣営には麻生派や旧菅グループの議員らが名乗りを挙げる。

支援メンバー

林尚行氏(朝日新聞前政治部長)は、“世代交代”に着目し、以下のように指摘をする。

小泉氏の陣営は“老・壮・青”のバランスがとれている一方、小林氏の陣営は若い。自民党が掲げる“解党的出直し”に、小林氏が“世代交代”という球を投げた。前回の衆院選で若手議員も多く落選したが、衆参ともにまだそれなりの数を占める。彼らがどのように考えて動くかが鍵になる。今回“世代交代”を明確に打ち出したのは小林氏のみで、本人の強い意思でこの言葉を用いたと聞いている。そこには、小林氏と小林氏支持の若手議員たちのある種の危機感がある。対して小泉氏は、王道の総裁選をするべく“老・壮・青”のバランスをとってきた。
大切なのは、自民党総裁を決めることではなく、政権の中心で与党として機能していくこと。そのためには、必ずどこかで選挙をしなければいけない。その際に国民、有権者にどう受け止められるかもポイントになる。

さらに、今回注目されているのが、小泉陣営の選対本部長に就いた加藤財務大臣だ。長年、加藤氏の取材を続けてきた澤井尚子氏(テレビ朝日政治部与党キャップ)は、ある人物の存在を指摘する。

今回の選対本部長就任は菅元総理との関係での動きとみる。加藤氏は、前回の総裁選出馬時にも菅氏に相談していたと聞く。今回は小泉氏を応援して、小泉氏のマイナスと言われる部分を自分が補完するということだろう。政策についても、選択的夫婦別姓に関して加藤氏は慎重な立場。そこについても話をしたうえで陣営についたのでは。
加藤財務大臣

久江雅彦氏(共同通信特別編集委員)は、小泉陣営は加藤氏の影響力が及ぶ「職域」票にも着眼していると分析。

加藤勝信氏は厚労大臣職も長く、日本医師会・歯科医師会・薬剤師会の三師会にも影響力がある。税制の関係でトラック協会などにも強い。職域は、今の自民党員の3〜4割程度だと思うが、生活もかかっているので、団体にもよるが票を固めやすい。その意味でも菅元総理は全体をひとつにまとめ上げている。

3)総裁選に求められる“論戦” トランプ大統領“初来日”の可能性も

今後の総裁選の重要ポイントは? 林尚行氏(朝日新聞前政治部長)は、小泉氏と高市氏の争いを以下のように読み解く。

序盤、党員にどう語りかけるかが各候補者の重要なファクターになっている。高市氏は地方議員とオンラインで繋ぎ、地方議員の下の党員に語りかけるイベントを開いた。清和会的な安倍氏路線の継承者であると改めてアピールしている形だ。一方、小泉氏と林氏は、谷垣禎一元総裁に会いに行き、SNSに投稿。自分はまさに穏健保守、保守本流の継承者であるとアピールした。かつての“清和会対宏池会”という構図が垣間見える。
今回の総裁選では「右」か「左」かが取りざたされているが、実は今この国の分断は「上下」で起きている。「上下」で不満を持っている層をどう包摂していくかも、自民党という大衆政党は問われている。その辺をきちんと論戦で見せてほしい。
谷垣氏

久江雅彦氏(共同通信特別編集委員)は、少数与党の現状を踏まえ「自民党だけでは総理は生まれない。野党とどう組むのか明確にする必要がある。総裁選の裏で、野党の政策、野党がどのような事項に対峙していくかをよく見ないと、日本の政治は見えない」と強調。自民党総裁選の隠れた主役は野党だと指摘した。

澤井尚子氏(テレビ朝日政治部与党キャップ)は今後のスケジュールも踏まえ、外交面での動きにも注目をする。

新総裁選出後、おそらく1週間ぐらいで総理大臣指名選挙が行われる。その直後には、ASEAN、APECでの首脳会議が予定されており、トランプ大統領出席の可能性もある。トランプ氏初来日もありえるだけに、新総理が初外遊を含めどこまで諸外国と向き合えるかにも注目だ。
日程

番組アンカーの末延吉正氏(ジャーナリスト/元テレビ朝日政治部長)は、自民党の姿勢に疑問を呈し、厳しく断じた。

自民党は“解党的出直し”と言っているが、本当に実現できるのか。小泉純一郎氏から数えて、今度は8人目の首相になるが、菅氏以外はすべて世襲議員。小泉進次郎氏も4世議員だ。世襲が自民党の活力を失わせているのではないか。路線の議論をしっかりせずに、選挙に勝つために保守色を出すとか、リベラルを消すとか、そんなことをやっていてはだめだ。自民党は、格差の問題が政治の中に入り込んでいることをもっと鋭角的にとらえるべき。これまでと同じことをしていても“自民党復活の道標”にはなり得ない。
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(「BS朝日「日曜スクープ」 2025年9月21日放送より)

<出演者プロフィール>

澤井尚子(テレビ朝日政治部与党キャップ。官邸、野党など政治取材に従事。関税交渉をめぐり日米首脳会談をカナダで取材)

林尚行(朝日新聞コンテンツ政策担当補佐役。前政治部長。共著に「総理メシ〜政治が動くとき、リーダーは何を食べてきたか 」(講談社)「「ポスト橋本の時代」(朝日新聞出版))

久江雅彦(共同通信社特別編集委員、杏林大学客員教授。永田町の情報源を駆使した取材・分析に定評。新著に『証言 小選挙区制は日本をどう変えたか』(岩波新書))

末延吉正(元テレビ朝日政治部長。ジャーナリスト。東海大学平和戦略国際研究所客員教授。永田町や霞が関に独自の多彩な情報網を持つ。湾岸戦争などで各国を取材し、国際問題にも精通)

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