“ポスト石破”を争う自民党総裁選。『BS朝日 日曜スクープ』は告示前夜の時点での、候補者5人の“現在地”を分析。専門家は、小泉・高市両氏を軸に展開すると予測しつつも、今後の戦いに潜む“不確定要素”も指摘する。
1)カギ握る党員票「高市氏の強みは…」 総裁選の“変数”探ると…
今回の自民党総裁選は、党所属の国会議員と党員・党友が投票する、いわゆる「フルスペック型」で行われる。改めて昨年の総裁選の票数を確認すると、1回目の投票では党員・党友会の票を最も集めたのは高市早苗氏。一方で国会議員票は小泉進次郎氏がトップだった。
澤井尚子氏(テレビ朝日政治部与党キャップ)は今回、党員党友票に強い高市氏と、国会議員票に強い小泉氏を軸に展開すると分析する。
林尚行氏(朝日新聞前政治部長)は「議員票に関してはやはり小泉氏が強い」としつつも、今後の論戦に注視する。
ただ、問題は党員票だ。高市氏の強さは、党員票が前回とあまり変わらないとみられることではないか。昨年、高市氏に入れた人が、今回は小泉氏に変えるかというと、多分そうではない。小泉氏は、石破氏の得た党員票をどのぐらい獲ってくることができるのか。1回目から高市氏と党員票がほぼ変わらないとなれば、議員票で決選投票というのが自ずから見えてくる。
久江雅彦(共同通信特別編集委員)は、「今回の総裁選を見る大きなポイントは変数が2つ」と、以下のように分析をした。
まず前回石破氏に投じられた票がどこに行くかがポイントで、一部は高市氏、小林鷹之氏、茂木敏充氏に行くが、かなりの部分は小泉氏と林氏に行くとみている。小泉氏に流れる票の方が若干多いと思うが、自民党員は地方で年配者が多いので林氏に投じる人も言われているよりは多いかもしれない。
もう一つの変数は、小林鷹之氏を支持している保守系の議員票の流れ。旧安倍派の衆議院議員は、半数以上が高市氏支持で、7人前後が小林氏支持だ。ここを因数分解すると、参議院議員の旧安倍派「清風会」のうち、20人ほどの票がまだどこに行くのかわからない。例えば10票前後が小林氏に行くと、高市氏は見込んだ票が得られなくなる。
こうしたことを総合すると、現状では小泉氏が党員党友数も議員票も3桁をとる勢いだが、2番手が高市氏と即断するのはまだ早い。林氏は2番手になるかどうかで、今後、総理を目指す足場が違ってくるし、高市氏が2番手になれば党内バランス、人事、保守系の影響力も変わってくる。2番手争いが今後の自民党の潮目を決める、あるいは野党との連携の強さを決める重要なポイントになる。
2)各陣営のメンバーから見える“戦略” “世代交代”訴える危機感には…
9月20日時点の番組調べでは、茂木敏充氏は主に旧茂木派の議員が支持。小林鷹之氏には浜田靖一・衆院議院運営委員長や石井準一・参院国対委員長が陣営入りした。林芳正氏には旧岸田派を中心としつつ、中谷防衛大臣、伊藤復興大臣、小野寺政調会長らが支持を表明。高市早苗氏には旧安倍派の支持が目立ち、小泉陣営には麻生派や旧菅グループの議員らが名乗りを挙げる。
林尚行氏(朝日新聞前政治部長)は、“世代交代”に着目し、以下のように指摘をする。
大切なのは、自民党総裁を決めることではなく、政権の中心で与党として機能していくこと。そのためには、必ずどこかで選挙をしなければいけない。その際に国民、有権者にどう受け止められるかもポイントになる。
さらに、今回注目されているのが、小泉陣営の選対本部長に就いた加藤財務大臣だ。長年、加藤氏の取材を続けてきた澤井尚子氏(テレビ朝日政治部与党キャップ)は、ある人物の存在を指摘する。
久江雅彦氏(共同通信特別編集委員)は、小泉陣営は加藤氏の影響力が及ぶ「職域」票にも着眼していると分析。
3)総裁選に求められる“論戦” トランプ大統領“初来日”の可能性も
今後の総裁選の重要ポイントは? 林尚行氏(朝日新聞前政治部長)は、小泉氏と高市氏の争いを以下のように読み解く。
今回の総裁選では「右」か「左」かが取りざたされているが、実は今この国の分断は「上下」で起きている。「上下」で不満を持っている層をどう包摂していくかも、自民党という大衆政党は問われている。その辺をきちんと論戦で見せてほしい。
久江雅彦氏(共同通信特別編集委員)は、少数与党の現状を踏まえ「自民党だけでは総理は生まれない。野党とどう組むのか明確にする必要がある。総裁選の裏で、野党の政策、野党がどのような事項に対峙していくかをよく見ないと、日本の政治は見えない」と強調。自民党総裁選の隠れた主役は野党だと指摘した。
澤井尚子氏(テレビ朝日政治部与党キャップ)は今後のスケジュールも踏まえ、外交面での動きにも注目をする。
番組アンカーの末延吉正氏(ジャーナリスト/元テレビ朝日政治部長)は、自民党の姿勢に疑問を呈し、厳しく断じた。
(「BS朝日「日曜スクープ」 2025年9月21日放送より)
<出演者プロフィール>
澤井尚子(テレビ朝日政治部与党キャップ。官邸、野党など政治取材に従事。関税交渉をめぐり日米首脳会談をカナダで取材)
林尚行(朝日新聞コンテンツ政策担当補佐役。前政治部長。共著に「総理メシ〜政治が動くとき、リーダーは何を食べてきたか 」(講談社)「「ポスト橋本の時代」(朝日新聞出版))
久江雅彦(共同通信社特別編集委員、杏林大学客員教授。永田町の情報源を駆使した取材・分析に定評。新著に『証言 小選挙区制は日本をどう変えたか』(岩波新書))
末延吉正(元テレビ朝日政治部長。ジャーナリスト。東海大学平和戦略国際研究所客員教授。永田町や霞が関に独自の多彩な情報網を持つ。湾岸戦争などで各国を取材し、国際問題にも精通)