執行部を発足させた自民党・高市早苗新総裁。株式市場は連日株価が上昇している。高市総裁の誕生は、物価高で苦しむ国民生活にどのような影響を与えるのか。
株価上昇も…物価高進む恐れ
まずは、高市総裁の掲げる経済政策を見ていく。
石破茂総理の辞任表明以降、株価は上昇傾向にあった。日経平均株価を見ると、高市氏が新総裁に決定した後には日本株が買われる動きが加速。7日の終値は4万7950円で過去最高値を更新する“高市トレード”と呼ばれる状況になっている。
株価上昇の背景にある高市総裁の経済政策とはどういったものなのか。本人は「サナエノミクス」と名付けていて、「アベノミクス」を継承するとしている。安倍晋三元総理が進めた経済政策・アベノミクスは「大胆な金融緩和」「機動的な財政出動」「民間活力を引き出す成長戦略」という“3本の矢”で日本経済の再生を目指したものだ。
高市総裁が提唱する「サナエノミクス」は「大胆な金融緩和」と「機動的な財政出動」まではアベノミクスと同じだが、3本目の矢を「大胆な危機管理 投資・成長投資」に変更するという。これは、政府主導で分野ごとに官民連携体制を作り、積極的に投資を行うというものだ。
具体的には、AI、半導体、核融合、造船などの分野を挙げている。投資の規模として、2021年の総裁選に出馬した当時は10年間で100兆円規模の投資を行うと主張していた。こうした成長分野への投資によって増えた税収で、財政を正常化していくというものだという。
また、高市総裁は著書『美しく、強く、成長する国へ。ー私の「日本経済強靱化計画」』のなかで、安倍内閣が「プライマリーバランスの黒字化を目標にした」つまり借金に頼らず必要な予算を税収で賄うとしたことで、結果的に予算を縮小する緊縮財政を継続せざるを得ない状況になったと指摘している。これについて高市総裁は時限的に「財政の黒字化ルール」を凍結して、投資に必要な財政出動を優先すべきと主張していた。
ただ、物価高が進行する恐れも指摘されている。
財源については「成長戦略によって増やした税収を活用する」としているが、これまでも不足した場合は「赤字国債の発行もやむなし」とする考えを示している。
積極財政により財政規律が悪化したとみなされた場合、通貨の価値が下落し、円安や長期金利の上昇につながる可能性も指摘されている。円相場は8日、約8カ月ぶりに一時1ドル=152円台となった。こうした円安の進行で輸入品を中心にインフレが加速し、物価高が進行する恐れもある。
中小・小規模事業者の賃上げを後押し
高市総裁は総理になってまず着手することとして、物価高対策の実施を挙げている。今月中旬にも召集されるとみられる臨時国会での焦点となりそうだ。
まずは「ガソリン税と軽油引取税の暫定税率を廃止」。これは本来のガソリン価格に、1リットルあたり25.1円上乗せされている暫定税率を廃止するという。新たに軽油に関しても、上乗せされている1リットルあたり17.1円の暫定税率を廃止する意向も示している。
高市総裁が打ち出している物価高対策には他にも「診療・介護報酬の引き上げ」がある。去年度、病院の7割以上が赤字となり、介護施設は倒産件数が去年に過去最多となった。高市総裁はこうしたことを挙げて、本来なら2026年度や2027年度に改定しなければならない診療報酬や介護報酬について、「過去2年分の人件費や物価高を反映して改定を前倒す」としている。医療・介護分野について補正予算で早急に支援を行うとしている。
さらに、自治体への交付金を増やして賃上げを促進する考えも示している。政府が地方自治体に渡す「物価高対策に使う交付金」を積み増し、地方自治体から一部の企業に補助金を支給する。これによって、賃上げ促進税制が受けられない赤字の中小・小規模事業者の賃上げを後押しする考えを示している。
物価の影響を除いた実質ベースの賃金は、8カ月連続で前年同月を下回っている。朝日新聞によると、大企業以外にも賃上げの動きを広げられるかが課題だとしている。
こうした物価高対策の財源はどのように捻出するのか。
ガソリン税と軽油引取税の暫定税率廃止により、年間約1兆5000億円の減収が予想されていて、このうち地方自治体は年間約5000億円の減収になるという。財源について高市総裁は、「税収の上振れ分や基金を活用する」と説明している。
経済政策で国民民主と接近? 連合は警戒
物価高対策を実行するためにも野党との連携が不可欠だ。
高市総裁との急接近が指摘されている国民民主党は、経済政策で高市総裁との共通点が多いという。
まず「財政出動」について、高市総裁は先月19日の出馬会見で「責任ある積極財政で日本経済を成長させる」と財政出動を積極的に行う考えを示している。一方、国民民主党は7月の参院選の公約で「積極財政と金融緩和により、賃金デフレから脱却」を掲げるなど、積極財政による経済再生を目指す考えが共通している。
国民民主党が主張してきた「年収の壁」の引き上げについても、高市総裁は「引き上げには賛成だ」とし、玉木雄一郎代表は7日の会見で「178万円を目指して、今年から引き上げてもらう」と早期の実現に意欲を見せている。
さらに野党が主張してきた「ガソリン税の暫定税率廃止」について、高市総裁は4日の会見で「ガソリンと軽油の価格を下げたい」としていて、玉木代表も「最優先事項なので、まずしっかりやってもらうよう求めていく」と改めて強調している。
国民民主党との共通点が指摘される高市総裁だが、4日の会見で、「どの政党と連立協議に入りたいか」と問われた際に「自公連立が基本中の基本」としたうえで、「現時点でどことは言わない」と述べるにとどめている。
一方で、国民民主党側の支持母体から懸念も出ているという。
国民民主党と立憲民主党を支援する連合は、これまでも国民民主の連立入りに否定的な見解を示してきたが、7日に芳野友子会長は連合の定期大会で、国民民主党を念頭に置いたのか、「組織内に『なぜ連合の考え方と違う動きをするのか?』『政権の延命に手を貸しているのではないか?』との意見が多数ある」と述べた。国民民主党と自民党との連携がどこまで進むかは不透明な情勢だ。
(「大下容子ワイド!スクランブル」2025年10月8日放送分より)