政治

2025年10月9日 12:00

自民党新総裁に“女性初”高市早苗氏 麻生陣営“前夜の票読み”舞台裏…今後の政治は

自民党新総裁に“女性初”高市早苗氏 麻生陣営“前夜の票読み”舞台裏…今後の政治は
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米国でも超えることができなかった“ガラスの天井”を打ち破り、女性初の自民党総裁となった高市早苗氏。『BS朝日 日曜スクープ』は、決戦投票に向けての議員票の動きを読み解きつつ、高市新体制での今後の政治を分析した。結党70年となる自民党の歴史の中で、新しい流れは日本の政治をどのように変えていくのか。

1)“決選投票では高市氏に…”議員票で麻生陣営ラストスパートの1週間

高市早苗氏が“勝利”した自民党総裁選で注目したいのは、1回目の投票から決選投票にかけての議員票の動きだ。高市氏がプラス85票、小泉氏がプラス65票と、高市氏の方が大きく票を伸ばし、小泉氏が有利とされていた議員票でも逆転した。

久江雅彦氏(共同通信特別編集委員)は、「最終的な逆転のヤマ場は投開票日の前日、金曜日の深夜だった」と指摘する。

麻生さんは1週間ぐらい前から、高市さんに寄せたいと周辺に漏らしていたが、決戦投票で高市氏が勝つにはまだ票が少し足りない、水曜、木曜まではそういう感じだった。高市さんに票を寄せて決戦でドンとひっくり返す、その“秘密の作戦”が何とか行けそうだなと見えてきたのが最終的に金曜日、投開票日前日の深夜。麻生陣営の参謀級の人が集まって計算している。これで100%は行かないけど、光明が見えてきたと。それを受けて麻生さんが翌日、投開票日当日の朝、午前中に「党員党友票で1位だった人に、決戦では固めるように」と言った。麻生派の票は各候補に散っていたが、それが決選投票では基本的に高市氏に来た。これがまず1番大きい。
また、茂木陣営は、ツートップには入れないが、主流派に乗って茂木氏の能力を発揮したいという強い思いがあった。木曜日から金曜日にかけ、決戦ではまだ高市勝利に少し票が足りない状況ではあったが、高市氏に乗っていった。林芳正陣営は、私の計算では1回目に林氏を支持した人のうち10人前後の票が高市氏に流れている。
ここでポイントになったのは小林鷹之氏。キャスティングボードとなって全体の帰趨を決めた。小林氏が1回目で集めた議員票44票は、記者も陣営幹部もほとんどが、決戦で小泉氏と高市氏で半々に割れるだろうと見ていた。私の分析では、おそらく37〜38票、つまり小林氏の票の8割強が高市氏に乗っている。
結果

さらに久江雅彦氏(共同通信特別編集委員)は、票の流れを分析することが今後の政治を見ていくために非常に重要であると指摘。「誰がどう動いたのかということが次の人事につながり、政策への影響力にも影響する」と強調した。

ここから見えることは、基調は、麻生氏が覇権を握ったということだ。麻生派で行先未定だった票、あるいは各陣営に散っていた票を一気に集約して戻した。麻生氏は高市氏の勝利に大きく貢献している。茂木氏も1回目の34票、ほぼ全てを高市氏に乗せていると見ている。
小林鷹之氏も投票の2時間前、午前11時に陣営幹部に「私も1回目で党員票が多い方に行く」と言った。実は、その2時間前に下打合せがあって、決選投票で何もないまま小泉・高市両候補に流れては、今後の足場もないと。ここは、高市さんに乗ることによって、小林鷹之氏が重要なポジション、例えば政調会長や重要閣僚に就き、小林氏を支援した人たちにもやりたい仕事ができるかもしれないというのが一点。同時に、保守派の今後、近未来を見たときに、ポスト高市の足場が明確に固められるということで、かなりの票が高市氏に流れた。ゆえに、小林氏はその貢献度から確実に重要なポジションで処遇されることになる。
今回の総裁選の駆け引きが、すなわち今後のやぐらというか、高市政権あるいは政府与党、自民党の中の骨組みがどうなっていくかという人事にそのまま影響することになる。

2)1回目投票の小泉氏“議員票80” 突き付けられる“選挙の鉄則”

議員票では小泉氏が優位とみられた中、高市氏が勝利した背景を佐藤千矢子氏(毎日新聞専門編集委員)は以下のように分析をした。

舞台裏
党員票は事前の予想通りだったが、第1回投票の議員票数は驚きだった。実は小泉陣営は95から100ぐらい取るだろうと言われていて、当日土曜日の出陣式、投票に向かう前に、党本部近くの会議室で海軍カレーパンをふるまって92人が食べたと。ところが、カレー食い逃げ事件が今回も起こった。80しか入らなかった。これは林陣営に票が流れたと言われている。はじめは勝ち馬的に小泉氏に乗ろうと思ったが、小泉氏が独自色を失っていく中、林氏に流れたと。 
また1回目の投票では、小林氏に関しては麻生陣営が明らかに票を回している、4〜5票ぐらい。明確な約束があったわけではないが、そうした上で小林陣営は「自分は党員票の一番多い人に入れる」と。全員そうしなさいとは言わないが、意志統一が図られた。茂木陣営は当日昼ぐらいに、色んな意見があったと聞いているが、参院選で大敗した後の総裁選ということで党員票は重いことと、一致結束していこうと。決戦投票で高市さんをやってくださいという指示までは下りなかったが、“皆で一致して高市氏”と受け止めたという。

佐藤千矢子氏(毎日新聞専門編集委員)はさらに、高市氏の勝因のひとつとして決戦投票直前の演説を挙げた。

出席をしていた議員たちに話を聞くと、決戦投票前の演説は高市氏の方がやや良かったと。
高市氏、珍しく原稿を用意していて、絶対に獲る、獲りにきたと。少し動いた票があったと聞いた。ここで大きな票が動くわけではないが、迷っていた人は動く。

末延吉正氏(ジャーナリスト/元テレビ朝日政治部長)は、今回の総裁選は政局の潮目を変えたと分析をした。

そもそも今回の総裁選は、前回も立候補した5人が出馬。最初の頃は、内向きな話ばかりで動きが鈍かった。もっと激しい議論が欲しかった。自民党がなぜ有権者から見放されたのか、分かっていないのではと勘繰ったほどだ。小泉氏は失言をしないようひたすら紙を読んでいるような状況だった。選挙では“戦わない人”は負ける。小泉氏は今回「シナリオ通りやればいける」と後ろを向いてしまった。
この総裁選で、一番印象的だったのは若い小林氏の動きだ。小林氏に集まっていた44票は、かつて菅氏の再選も止めた、結束の固い、仕事のできる集団の票だ。彼らは「世代交代」をするならば、自分たちの動きを見て欲しいという気概を持っていたと思う。彼ら中堅・若手の人たちは本気で動いていて、小林氏の働きは非常に大きかった。この総裁選の結果は、これまで菅氏と森山氏が仕切ってきた政局が麻生氏と茂木氏の仕切りに替わることを意味する。また、逆転で“女性初”の新総裁が生まれたインパクトはプラスにもマイナスにも大きく、これから大きく動いていくだろう。

3)女性初の自民党総裁 変われるのか“日本の政治”

今後の注目ポイントについて佐藤千矢子氏(毎日新聞専門編集委員)は、「現実路線をどのように調整しながらやっていくのかが最も問われるところ。また、連立はそう簡単にはいかない。衆院だけでも過半数を回復すべく解散も視野に入れているはずなので、その動きにも注目だ」と指摘。

久江雅彦氏(共同通信特別編集委員)は「人心をいかに掌握し、全体の力を発揮していくか。人間関係を巧みに動かし、物事を動かし、国民の生活を少しでも良くしていけるように動いていけるか」が、最大のポイントであるとした。

番組アンカーの末延吉正氏(ジャーナリスト/元テレビ朝日政治部長)は、女性初の自民党新総裁への期待を示す一方で「野党、特に野党第1党にもっと頑張ってもらいたい。選択肢を示してほしい」と野党に檄を送った。

(BS朝日「日曜スクープ」2025年10月5日放送分)

<出演者プロフィール>

佐藤千矢子(毎日新聞専門編集委員。第一次安倍政権時に官邸キャップ。元政治部長。2001年ワシントン特派員。著書に「オッサンの壁」(講談社))

久江雅彦(共同通信特別編集委員、杏林大学客員教授。永田町の情報源を駆使した取材・分析に定評。新著に『証言 小選挙区制は日本をどう変えたか』(岩波新書))

末延吉正(元テレビ朝日政治部長。ジャーナリスト。東海大学平和戦略国際研究所客員教授。永田町や霞が関に独自の多彩な情報網を持つ。湾岸戦争などで各国を取材し、国際問題にも精通)

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