公明党の斉藤代表は10日、自民党の高市総裁との会談で、政治とカネの問題の取り組みが不十分だとして、26年間続いた自公の枠組みを解消することを通告しました。連立が白紙となることで、総理大臣指名選挙が混沌としてきました。
“連立白紙”拡大する余波
「たぶんこれ自民党、激震走っているんじゃないか。恐らく公明党の支持があってギリギリ当選されている人たちも、恐らく数十人単位でいると思う。そういう人たちも含めて、今の執行部に対する責任論がこれから噴出してくるんじゃないか」
「少数与党の国会がさらに少数になるということで、国会の意思決定が非常に難しい」
「私自身、公党の代表として内閣総理大臣を務める覚悟はある」
自民と共に“冬の時代”も
公明党と自民党。その蜜月は四半世紀にわたります。1999年、小渕総理大臣が公明党の神崎代表、自由党の小沢党首と握手を交わし、自自公連立政権がスタートしました。「平和の党」を標榜する公明党には、当初から政権入りする狙いがありました。
「公明党が今日まで掲げてきた中道政治をまさに実現するいいチャンスだ」
その後、自由党や、保守党の離脱を経て、連立は自公の2党体制に。自民党にとって公明党は、次第に欠かせないパートナーになっていきます。
「公明党と自民党の連立政権、非常にきっちりした絆であると同時に、非常に柔らかい、ぎゅーっと伸ばしても切れない、ぐっと曲げても切れない」
絆は、自民党が下野しても切れませんでした。2009年に麻生政権が衆院選で敗北し、野党に転落した際は、公明党も野に下り、3年3カ月の冬の時代を共にします。再起を果たしたのは2012年。第2次安倍政権の誕生で、公明党は与党に復帰します。
「日本を取り巻く安全保障環境が大きく変わるなかで、日本国民を守るために何が必要かという観点から、引き続き安保法制懇での議論を進めてまいります。同時に友党・公明党の皆様方のご理解を得る努力も積み重ねたい」
欠かせない“下駄の雪”
“安倍1強”と言われる時代。時には意見することも。安保法制をめぐって国論が二分された2010年代中ごろ。
「憲法9条の規範性、法的安定性を保てるかどうか。日本国憲法の平和主義は守り抜く。しっかり見極めることが重要」
公明党は、集団的自衛権をめぐって自民党に修正をのませ、その行使に一定の歯止めをかけます。ただ、与党の一員として、憲法解釈の変更などに道を開いたのは確かなことです。いつしか公明党は、自民党に踏まれてもどこまでもついていく「下駄の雪」などと揶揄(やゆ)される存在に。それでも、固い支持母体を持つ公明党は、自民党にとって欠くことはできません。
「つらい時、悲しい時、苦しい時に一緒であるということほど、ありがたいことはございません。公明党の皆様方に指導いただき、心から感謝をしています」
ところが、新総裁の誕生から1週間で、事態は連立解消となりました。
政界再編で自民大打撃か
「率直にびっくりしましたし、大変残念だと思っています。できれば公明党さんにはもう一度考え直していただきたい」
自民党の英利アルフィヤ衆院議員。千葉県選出、若手の外務政務官です。2度目の当選を果たした去年の選挙では、立憲民主党の候補に6000票余りの差で敗けましたが、公明党の推薦もあって比例復活しています。
「公明党と連立が組めないことにより、さらに厳しい選挙になるだろうなと。公明党さんは本当に女性の政治参加というところで強い思いを持っていらっしゃる政党でもあります。だからこそ、もう一度、女性総理が誕生しようとしている今、高市総裁にもう少しお時間をくださればと思うところもある」
実際、自民党の議席には今後、どれほどの影響が出そうなのでしょうか。
「公明党が得た比例票、これを自民党候補が得票した数から引くと、次点だった野党候補に抜かれる選挙区が出てきます。その抜かれる選挙区というのが単純に計算すると52(選挙区)。自民党候補が小選挙区で当選した132の小選挙区のうち、52選挙区では結果が変わる可能性がある」
さらに。
「公明票が1小選挙区につき2万票あるとした時に、2万票が単純に減るだけではなく、さらに競合の野党系の候補にそれが乗る場合、自民党候補にとって4万票のディスカウントになる」
野党との連携や協力は
(Q.当面の焦点は、20日にも召集される国会の総理大臣指名選挙になりますが、対応はどうしますか)
「1回目の投票では党首である私、斉藤鉄夫と書くことになります」
(Q.ただ実質的には、それで誰かが過半数を取ることは到底見込めない現状のなかで、2回目、2人による決選投票に持ち込まれた場合はどう対応されますか)
「それは色々な仮定が重なって、色んな状況が生まれてきますので、今の段階で申し上げることはできません。その状況になって、党内でよく議論をして決めたいと思います」
(Q.今回、高市総裁の下では連立離脱となりましたが、親和性が高いのは自民党ではないかという声もありますが、どうですか)
「2回目の投票は、これは先ほど申し上げたように、その時に決めたいと思いますが、私個人の考えでは、いきなり野党である方に同意するというのはちょっと考えにくい。これまでずっと自民党の方と一緒に色々な法律や予算の準備をし、積み上げてきた関係です。また各地域におきましても、確かにこれから党同士で推薦をすることはなくなりますが、これまで積み上げてきた信頼関係をもとに人物本位、政策本位で、それぞれの地域で推薦をしていく。これはその候補者の方が公明党のことをよく理解してくれる方であれば、自然と公明党の支持層はその人を支援するということになると思いますし、そういう意味では、その点はこれから大きく変わるということはないと思います。ただ、その方が人物的に政策的に我々と親和性がある場合ですけど」
(Q.それは例えば、立憲民主党や国民民主党の方でもそうですか)
「基本的には同じ野党になりますので、そういうことになりますけれども、これまで積み上げてきた信頼関係というものは、なかなか崩れ難いものを持ってらっしゃる方もたくさんいる」
(Q.今回、政治とカネの問題で取り組みが極めて不十分だということで離脱になりました。仮に自民党がその重大性に気付いて、急ぎ斉藤さんの主張を取り入れた新しい政治資金改革の政策を取りまとめて実行に移すとしたら、連立を再考することはあり得ますか)
「今回いったん白紙にさせていただきました。ですから、そうだったらすぐ連立に戻りますということは、今この時点では申し上げることはできません。それはなかなか難しい。我々も党内手続きを経て、9日は全国から地方議員が集まって喧々諤々(けんけんがくがく)の議論をして出してきた結論です。そういう意味で、なかなか今回出した結論を覆すということはできませんが、今後も政策連携の中で一緒に仕事をしていくことはあり得ることだと思っています」
高市総裁“真意”読み切れず?
政治部官邸キャップの千々岩森生記者に聞きます。
(Q.9日、高市さんに話を聞いた時には「やりたいことがたくさんある」と話していました。公明党がこんな直ちに連立を離脱すると想定していなかったと思いましたが)
「同感です。9日に出演された時、高市さんは柔和でした。しかし、10日は非常に緊張感、顔も紅潮している感じでした。自民党の中を取材していても9日夜から10日朝にかけて、ぐぐっと緊張感が高まってきて、こうなった。私は官邸キャップとして岸田内閣・石破内閣の取材をしてきましたが、ここまで大きな溝が生まれることはほとんどなかった。これまでは菅元総理を中心として、公明党とのパイプ役がありましたが、今回の人事で一気になくなりました。斉藤代表は『政治とカネなんだ』とずっと言ってましたけれども、理由がそれだけだと額面通り受け止める人は自民党内にほとんどいなくて。特にこのパイプ役になっていた関係者を複数取材すると、やはり人事の問題。パイプがいないどころか、公明党に非常に厳しいタイプの方が何人も入っています」
(Q.例えば麻生さんもそうかもしれない)
「麻生さんもそういうタイプですね。もちろん、そういう議員にとっては離れてもいいんだという人もいます。そこは色んなタイプの方がいますが、この人事がそうだった」
(Q.総理大臣の指名が行われますが、齋藤さんは、決選投票では自民党以外の他の野党の党首の名前を書くことはないだろうと言っていました。今後どのような動きが考えられますか)
「首班指名に向けては、これまでは自公で過半数はいかないけれど、ほとんど勝てる状況でしたが、公明党が下りたと。仮に公明党が立憲民主党の方には乗らないにしても、国民・維新が乗れば自民党には勝てる状況になる。まして公明党が乗れば、さらに勝ちやすくなる。すごく簡単に言うと、公明・国民・維新の3党のなかで、2党が立憲民主側に乗れば勝てるという状況になって、野党側も勢いづいてきています」
(Q.野田さん玉木さんが首班に指名される可能性がある)
「これまでほとんどなかった。もうゼロに近かったものが、ちょっと出てきています」
(Q.ただ、高市さんが本命であることに違いはないですか)
「そうですね」
(Q.ただ、高市さんが総理大臣に選ばれたとしても、自民党単独で過半数にはほど遠いというなかで、政権運営はかなり厳しくなりそうですね)
「これまでは公明党の他にあと1党、つまり国民・維新・立憲のどこかが乗ってくれれば、法案は全部通ったわけです。ところが、公明党が下りるとなると、1党を探すだけでも大変だったのが、これから2党を探さなければいけない。自民党の国会運営は、この1年も大変だ大変だという声はさんざん聞きましたけど、増して大変になっていきます」
(Q.高市さんは『とにかく物価高対策を急いでやりたい』と言っていましたが、それもやや雲がかかってきたことになりますか)
「今、日程が1週間ぐらいどんどん遅れていますので、それもあります。それから、いわゆる対決法案的なところも非常に厳しくなりました。ガソリンの暫定税率は与野党ともにみんな賛成していますので、この辺はいくと思いますが、難しい法案になればなるほど大変になっていきます」
(Q.補正予算案の年内成立はおぼつかなくなってきますか)
「自民党の中では『少し厳しくなってきた』『年明けてしまうかもしれない』という声がすでに出始めています」