21日、総理指名選挙で自民党の高市早苗氏が選出され、初の女性総理大臣が誕生した。何が期待されて、どんなことが懸念されるのだろうか。早稲田大学の中林美恵子教授が解説した。
■高市総理誕生の裏に「ガラスの崖」?

歴史上、女性初の総理大臣に選出された高市早苗氏について、中林教授は「本当に単純にめでたいことだという風に思う。日本もようやくトップに女性が出てきたということだと思うので、日本としては少し胸を張れる場面が出てくるかもしれない」と語った。
しかし「女性のリーダーというのも時代がだいぶ流れ、ちっとも珍しくなくなってしまった。だから、ようやく日本が多少追いついたとしても、女性の活躍という意味では、もうすでに世界に遅れ、もう珍しくない時代に入って、女性だというだけで世界が認めるような時代はもう過去のものになってしまった」という。
その上で「日本全国の女性を代表するという立ち位置なのか、それとも自民党という戦後権力を握ってきた政党をまた昭和の時代に戻すような傾向になるのかは、これから見定めなければわからないと思う」との見方を示した。
高市新総理が自民党を「昭和の時代に戻す」ことを懸念点として挙げる中林教授だが、どういうことなのか。
「戦後日本が成長してきたのは、まさに自民党があったおかげ。これは確かだと思う。しかしながら、それがあまりにも制度疲労を起こして、その昔からの『政治とカネ』の関係を引きずることによって『失われた30年』が発生した。そういったところ(『政治とカネ』の関係など)に引っ張られてしまうと、日本の発展が危うくなるという意味で懸念されるべき問題だというふうに言える」(中林教授)
そんな高市新総理だが、自民党総裁に選出された時からSNSなどで話題になっていることがあった。それは、「“ガラスの崖”に立たされたのではないか」ということだ。
「学術的にも証明されていることだが、どの国でも女性のリーダーが出てくる時は、その政党あるいはその組織が崖っぷちに陥っている時に、最後の手段として『とりあえず女性』ということで出てくるケースが非常に多い。これは日本だけではない。つまり『“女性カード”を使ってなんとか延命しよう』『生き延びよう』あるいは『目先を変えて目くらましをしよう』と、中身は変わらないけれど表面的に変わったように見せる。一つの手段としていろいろな国が使っている手段・手法ということになる」(中林教授)
2024年の衆院選と7月の参院選で惨敗し、自民党が崖っぷちの状態に陥った矢先、国政の舵取りを任されることになった高市新総理に対し、総理指名選挙で毎回女性に投票し続けてきたという無所属の寺田静参議院議員が公式Xで自身の考えを発信した。
「正直に申し上げれば、以前まで私は高市さんのことがとても苦手でした。でも、今は『失敗してほしくない』と願う自分がおります。たとえ政策や価値観で賛同できない点があったとしても、子どもたちに実際に女性総理の姿を見せる効果は非常に大きく、『女性が初めて日本の総理になること』そのものを見つめる姿勢こそが、社会を変えていく大きな一歩だと考えます。日本でも女性は総理大臣になれる」(寺田議員のXから抜粋)
「大きく期待するのは女性だということで、自民党初の総裁になられ、そして今度総理になるが、そうすると自民党が作ってきた『失われた30年』、これをどういうふうに打開するのか。今までの自民党の政治と決別するような英断をすることが望まれる。女性だからこそできるのではないかということをもし期待するのであれば、その一点に尽きる」(中林教授)
■「女性が政治参画するハードルはいまだにある」

ダイヤモンド・ライフ編集長の神庭亮介氏は、寺田議員の発信に触れて「感慨深いものがある」と述べた上で「寺田氏は、実はこれまでの首班指名選挙でずっと国民民主党の伊藤孝恵氏に入れていた。今回もまた伊藤氏に入れるのかと思いきや、高市氏に投票した」とコメント。
今回高市氏に投票したことについて「(寺田氏は)野党系無所属の議員なので、自民党の総裁に入れていいのか葛藤があったと思うが、それでも女性リーダーが必要だと考えたのだろう」と推察した。
「寺田氏の《正直に申し上げれば、以前まで私は高市さんのことがとても苦手でした。でも、今は『失敗してほしくない』と願う自分がおります》というコメントに、非常に胸打たれた。ここで失敗、短期失脚みたいなことになってしまったら、『それ見たことか』『女性だからでしょ』という人が出てきかねない。だからこそ寺田氏は悩みつつも高市氏に票を投じたのでは。『女性の総理を選びたい』という寺田氏の気持ちはすごく尊いものだと思う」(神庭氏)
「リベラル派、左派のなかには『素直に喜べない』『高市さんが女性初なんて』みたいな言い方をする人もいるが、どうかと思う。高市氏が女性初の自民党総裁に選出された時に、立憲民主党の辻本清美氏は『自民党では初の女性総裁、高市さん、ガラスの天井をひとつ破りましたね。 対極の私からも、祝意をお伝えします』とSNSで発信した。素直な喜びと辻本氏の度量を感じさせる、いいメッセージだった。そして高市氏が総理に選出された後には、辻本氏は『ここから先は男も女もない。何をするかが問われます』と注文をつけた。これこそリベラルとして然るべき姿勢だ」(神庭氏)
さらに、「高市氏自身は決して、女性ということを殊更に強調してきたわけではない。女性だからではなく、能力があるから総理に選ばれただけだ。とはいえ、女性総理が0か1かの違いは非常に大きく、後に続く女性たちへの強いメッセージになることは間違いない。日本中の子どもや女性が高市さんの姿を見て、『政治の世界に挑戦してみよう』『もしかしたら私も将来総理大臣を目指せるかもしれない。だって前例があるんだから』と思えるのは、すごく大きいことだ」と語った。
「一方で、女性が政治参画するハードルはいまだに高い。選挙に出ようと思ったら、票ハラと言ってハラスメントに遭う。昼夜を問わない激務で、特に子育て中の女性はワークライフバランスの両立が難しい。今後、高市氏に憧れてたくさんの女性が政治の世界に足を踏み入れようと考えるだろう。その時に『ワーク全振りじゃないと政治家になれません』だとしんどい。すべての人が障壁なく政治の世界を目指せる世の中を、実現していってほしいなと思う」(神庭氏)
(『ABEMAヒルズ』より)