10月28日に行われる見通しの日米首脳会談。大きな議題になりそうなのが経済と安全保障だ。高市総理はアメリカの要求とどのように向き合うのだろうか。
日米が直面している問題。その1つが、石破政権で合意した関税交渉である。政府関係者によると、トランプ大統領の訪日中に「署名式」が行われる見通しだ。
関税引き下げの条件として合意した80兆円規模の対米投資について、日米間で交わした覚書では日本が資金を出さない場合、再び関税が引き上げられる内容が盛り込まれている。
15日、ワシントンを訪問した加藤前財務大臣はベッセント財務長官と会談し、日本の対米投資について議論。財務長官は、日本がロシア産エネルギーの輸入をやめることを期待していると伝えたとSNSで明らかにしている。日本が輸入しているLNG(=液化天然ガス)は、アメリカがアラスカでの大規模な開発に意欲を示している分野でもある。
もう1つ、関税と分けて協議するとしてきた防衛費の増額。アメリカ・グラス駐日大使は先日の講演で、日本の防衛力強化への取り組みを歓迎した。これまで「アメリカは日本を守るが日本はアメリカを守らない。これはあまり良いことではない。以前(安倍元総理に)話した。これは防衛の協定だが、貿易でも同じことが言える」と、日米安保条約に対する不満を漏らしてきたのがトランプ大統領だ。
日本政府は2022年、国の安全保障に関する戦略として2027年度までの5年間の防衛費総額を43兆円と定め、毎年1兆円程度のペースで増額してきた。最終的にGDP比2%への引き上げを目指すことが記された安全保障3文書について、高市総理は就任会見で、前倒しで改定する方針を示した。
日米関税合意でなぜ今「署名式」?

政府関係者によると、日米で合意した関税措置について、トランプ大統領の訪日に合わせて「署名式」を行う見通しだということだ。このタイミングでの「署名式」には、どういう狙いがあるのだろうか。
現代アメリカの政治・外交が専門の前嶋和弘氏は「トランプ氏に大きなプレゼントを贈る感じ」だと語る。
「セレモニーとして、日米間は合意した、日本はしっかりアメリカに投資していく、ということを見せる。一方で日本としては、5500億ドル=約80兆円と細かなところまで書きたくはない。今、日本企業は政府から投資について打診されているが困っているようだ。セレモニーは行うが具体的なことまでは入れたくない。しかしトランプ大統領に花を持たせたい、ここが一番のポイントかもしれない」(前嶋和弘氏、以下同)
では日本はどう対応すれば良いだろうか。
「世界を見ると日本が最前線で、トランプ大統領が言ったことや関税についても一番真面目に取り組んでいる。アメリカは、日本をモデルとして他の国にも迫りたい、というところで、できるだけセレモニー化して、トランプ大統領に大きなプレゼントを贈る感じだろう」
関税交渉を行った赤沢氏は経済産業大臣に、第1次トランプ政権で貿易交渉を担った茂木氏は外務大臣に就いた。この2人の起用はトランプ氏にどう映るのだろうか。
「特に赤沢氏はついこの間話した相手であり、逆に日本から見ても『阿吽』のところがわかっているため、今回の閣僚人事で一番良かったかもしれない」
防衛費増額の行方は…?高市総理がトランプ氏を“逆利用”も?

トランプ大統領は「日米安全保障条約は不平等」だとしており、アメリカ国防総省は「日本を含むアジアの同盟国に対し、防衛費をGDP比5%に引き上げる必要との認識」を示している。一方の高市総理は、「安保3文書」前倒し改定について「見直しの作業に取りかかる指示を出したい」としている。所信表明演説では、防衛費増額の目標について「2年前倒しして今年度中に措置を講じる方針」を示すということだ。
今後の駆け引きはどうなるのか注目が集まっているが、前嶋氏は以下のように分析する。
「実は、方向性は似ている。高市氏にとっては、安保についてトランプ大統領という外圧を使って強化を急ぐことができる。自分がやりたいことを、トランプ大統領を利用してやることになるかもしれない。一方で、GDP比5%への引き上げはアメリカでも3%にいってないため無茶振りだが、分かっていながら高いボールを投げてきており、そこに少しずつ近づく形で話し合いをしていくという、トランプ流の交渉だと思う。高市さんも分かっていて、『GDP比2%に増額』を早めていくと言っているのだと思う」(前嶋和弘氏、以下同)
防衛費のGDP比引き上げや前倒しは、アジアの安全保障という面では「ウィンウィンである」と前嶋氏は分析する。
「(トランプ氏は)アメリカ第一主義であり、米軍が血を流さず日本に武器を買ってもらえることが大きなポイントだ。『日米安保は不平等』だと言っているが、日本が土地を提供しアメリカが一緒に東アジアの安定を守るというのが安保だ。この話は安倍元総理含めて何回も説明しているが分かってくれていない。同じことを繰り返すというトランプ流の交渉術なのだろう」
(『ABEMAヒルズ』より)
