高市早苗氏が憲政史上初の女性総理に就任した。防衛力増強など国を強くすることを訴え、選択的夫婦別姓への反対など、日本の伝統を守ることを重視。経済面では、積極的財政出動など、安倍晋三元総理が進めたアベノミクスを支持している。
高市氏はどんな政策を掲げ、成し遂げようとしているのか。『ABEMA Prime』では、議員になる以前の松下政経塾時代から知る“同門“の先輩議員や、交流の深い自民党政治家から、高市氏の素顔を聞いた。
■「おてんば娘」が「安倍総理の後継」に 高市総理の素顔

高市氏は1961年3月7日、奈良県生まれの64歳だ。メーカーの父、奈良県警の母のもとに生まれた。1984年に神戸大学卒業後、松下政経塾に入塾。1990年に政治評論家としてテレビ出演した。そして1993年、衆議院初当選(無所属)で、安倍氏と同期になる。2006年からは、内閣府特命担当・総務・経済安保担当大臣、党政調会長などを歴任。2021年の自民党総裁選に初挑戦、2025年に総裁選3度目の立候補で女性初の総裁選出となった。
松下政経塾で高市氏の2期先輩にあたり、国会議員としては当選同期でもある日本維新の会、松沢成文参院議員は「運を信じて、がんばる力がある。最初の国政選挙に落ち、自民党でなく無所属でも出馬した。総裁選も3回目で通った」と語る。
松下政経塾時代について「(創設者の)松下幸之助氏は、入塾基準を『運と愛嬌(あいきょう)だ。政治家や経営者は人の輪を作らないと成り立たない。そのためには人に好かれる何かを持っていないといけない』としていた」と振り返る。
そして、「高市氏には愛嬌がある。最初は『おてんば娘が入ってきた』という印象だった。先輩をうまく褒めて、『ごはん行こう』と気に入られる性格だ。一生懸命勉強するタイプだと言われるが、人間関係を作るのもうまい。言い方は悪いが『ジジ殺し』な所があり、先輩に甘えてコミュニケーションをとるのは、政経塾時代から変わらない」と説明した。
政治思想については、「今のように保守を強調するタイプではなく、あらゆる社会や経済の問題を勉強していた。保守的な政策を作ったのは、森喜朗元総理に気に入られて、当時の森派(のちの安倍派)に入り、安倍氏のポリシーに引きつけられたからだろう。それを貫くのが高市氏の魅力ではないか」とした。
その能力については「政経塾では代々、アメリカの下院議員のスタッフ研修がある。知人から現地の評判を聞くと、『早苗はコミュニケーション能力がある』。仲良くなり、食事して、ネットワークを作る。これは政治家として絶対必要だ。『勉強熱心だ』というのは、最近になって聞いた」と話す。
高市氏と県境を挟んで隣の選挙区で、旧安倍派に所属していた元衆議院議員の長尾敬氏は、「私は旧民主党で初当選したが、ジャーナリスト・櫻井よしこ氏の勉強会で親しくなった」とのエピソードを語る。「心配を込めて、“ワーカホリック”だ。一方でキュートな面もあり、深刻な話をしているのに、『しょうゆバターのお菓子を食べてごらん』と、女の子っぽい話をしてくるギャップがいい」と評する。
長尾氏は、「2021年の総裁選を前に、安倍氏と車に同乗していたら、『長尾さん、高市くんで行くから』と言われた。当初は自民党内にも、そうした空気感はなかった。1回目は出られるかも分からなかったが、事務局に入った」と明かす。
その当時から高市氏は、ワーカホリックだったという。「あれこれ自分でやりたがる。これはマズいなと、演技を打って『仕事を回して』と語気を荒げた。偉い議員を連れて、机をたたくと、『ビックリしちゃった』と、女の子の部分が出てきてシュンとしていた」。
高市政権では、女性閣僚として片山さつき財務大臣と、小野田紀美経済安保担当大臣が入閣した。
長尾氏は「1回目の総裁選から、『もし当選すれば女性初だ』と言われていたが、私は『たまたま女性だった』と感じる。高市氏は適材適所で、政策実現のための人事を行い、たまたま女性が2人だった」との印象を語る。
総裁選の所信発表では「北欧の国々に比べても劣らないほど女性がたくさんいる内閣や役員会(をつくる)」と発言していたが、これには「いつもの高市氏と違う」と思ったそうだ。
一方で松沢氏は「高市カラーを出し切れなかった」と評する。「本当は女性閣僚や党役員を増やしたかったのだろうが、総裁選でお世話になった麻生太郎氏や茂木敏充氏に仕切られた。総理になるためには、言うことを聞かざるを得ないのも政治だ。維新との政策合意にも、かなり厳しい条件が入っているため簡単ではない」。
■高市総理、高市内閣は何を目指すのか 月末にはトランプ氏も来日

長尾氏は「政治家の発信力の弱さは、高市氏も含めて反省しないといけない」と指摘し、「高市氏には保守のイメージがあるが、言っていることは経済成長だ。それが“片山さつき財務大臣”という破壊力抜群の人事に現れている。財務省は今、戦々恐々としている」と話す。
加えて、城内実氏が就任した経済再生担当大臣にも注目する。「来年度の予算方針の原案を作る大臣だ。財務大臣と経済再生大臣は、どちらかが緊縮財政派だが、今回どちらも財政出動派が取った。ここ10年間の財務省との戦いで、すごくアドバンテージがある。永田町や霞ヶ関で働く僕らからすると、『よくやったな』と思う」。
また、秘書官などの人事についても、「飯田祐二秘書官は、安倍氏に薫陶を受けた今井尚哉氏から紹介された経産官僚だ。これまで北村滋氏(元国家安全保障局長)がやっていたサイバーテロなどの分野は、専門家の露木康浩官房副長官(前警察庁長官)になる」と解説した。
松沢氏は「経済だけでなく、経済安全保障も掲げている。日本の国益を守るために、どういう産業を伸ばすべきか。あるいは中国の経済侵略に対して、何を守っていけばいいか。情報セキュリティーの問題も含めて、最近の高市氏は強調し始めている」と説明。これに長尾氏は「総務大臣時代の10数年前から、サイバーセキュリティーの重要性は語っていた」と返した。
文筆家で情報キュレーターの佐々木俊尚氏は、「トランプ大統領との会談で、高市氏の笑顔が通じるかが気になる。トランプ氏は『シンゾーの弟子』として、フレンドリーな印象を持っているだろうが、人間性はどこまで通じるのか」と問う。
長尾氏は「総裁選の最中に、トランプ氏の来日が決まったのは、『俺が行くから、ちゃんと総裁を選べ』というメッセージに聞こえた。総裁選では『日米関税交渉が一定の評価を得ているか』という質問で、5人の候補者で唯一、高市氏だけが丸を付けなかった。関税交渉に加え、80兆円の対米直接投資にも合意したことに反対している」と説明する。「これはトランプ氏も知っているはずだ。いきなり初対面でガチンコの勝負はやらないだろうが、どこかで高市氏はやるだろう」。
松沢氏は、防衛費に注目する。「アメリカは、同盟国に『GDP比2%なら3%へ上げろ』と求めている。ヨーロッパは5%まで上げさせられそうだ。日本は対中や北朝鮮、ロシアに対する防衛力・抑止力の強化に、お金が必要だ。防衛の安保3文書を見直して、防衛費を増やす議論しようとしている。トランプ氏に言われる前に、『自分の国は自分たちで守る』という気概を見せていくべきだ」。 (『ABEMA Prime』より)
