高市総理大臣とトランプ大統領は、満面の笑みで首脳外交を展開しました。高市総理は「日米同盟の新たな黄金時代を切り開く」とアピール。一方、日本との巨額の“ディール”の進展に胸を張るトランプ大統領は、高市総理を「とても親しい友人」と持ち上げました。
首脳会談 安倍氏の思い出と共に
東京・元赤坂にある迎賓館。1時間ほど先に迎賓館入りしていた高市総理が、トランプ大統領を出迎えます。
「大統領、日本におかえりなさい」
「シンゾーは私の大親友だった」
「安倍総理は…」
全ては聞こえませんが、ともに安倍元総理について話しているようです。総裁選以降、とにかく笑顔が目立つ高市総理。28日も満面の笑みです。握手を促され、トランプ大統領も写真撮影時にいつも見せる笑顔です。
「力強い握手だ」
自衛隊の儀仗隊による栄誉礼を受けるトランプ大統領。首脳会談の会場にそろって現れた2人。訳あって少し遅れたそうです。
「開始が遅れて失礼しました。今、トランプ大統領の部屋で野球を見ていました。1対0でドジャースが勝っています」
皆さん笑顔で場を温めることはできたようです。のちにホワイトハウスが観戦時の写真を公開しました。
「安倍総理に対する長きにわたる友情に感謝しています。昨年末に安倍昭恵夫人を歓待いただき、感謝を申し上げます」
「総理就任おめでとう。安倍晋三氏とは親友で、あの出来事は悲しくショックだった。安倍氏はあなたを高く評価していて、以前から褒めちぎっていた。総理になったのも驚きではないし、安倍氏も喜んでいるはずだ」
「日本とアメリカをより強く豊かにするために、日米同盟の新たな黄金時代を共に作り上げていきたい」
トランプ氏をノーベル平和賞に?
40分の首脳会談を終え、行われたのは合意文書への署名です。1つは石破政権が結んだ関税合意を進めるというもの。もう1つはレアアースなど重要鉱物での協力に関するものです。日米間に様々な問題が山積するなか、高市政権はプレゼントを用意していました。松山英樹選手のサイン入りゴルフバッグに加えて。
「これは安倍昭恵夫人から『晋三が使っていたパターです』」
そして、トランプ大統領を個人的に最も喜ばせたかもしれないのが、ノーベル平和賞への推薦。会談の冒頭で高市総理はこう述べていました。
「タイとカンボジアの停戦に成功し、トランプ大統領はまずアジアの平和に貢献されました。それから先般の中東における合意の実現も、かつてない歴史的偉業です。これだけの短期間に世界はより平和になりました」
「この動きは、特に貿易交渉の際にトランプ氏を“ヨイショ”する常套手段になっている」
ただ、推薦したとの情報はアメリカ政府側が伝えたもの。日本側は。
「ノーベル賞委員会が“審査資料を50年間は開示しない”としていることを踏まえて、当該推薦の事実及び、これを前提としたお尋ねにお答えすることは差し控えます」
拉致被害者と面会「今後も取り組む」
拉致被害者家族との面会も実現しました。一人ひとりと言葉を交わしていきます。
「素晴らしい。全員の素敵な表情を覚えている。皆さんありがとう。今後も総理と取り組みたい」
家族は直前まで、会えるのはルビオ国務長官だけと言われていたといいます。
「お会いできないはずだったが、思いがけなく、いらしてくださった。お会いしてくださるんだなとみんな喜んだ。真剣に取り組んでいただきたいということをお願いしています」
高市氏「防衛力を抜本的に強化」
トランプ大統領とはいったん別れ、園遊会に出席。天皇皇后両陛下にあいさつした高市総理。再び合流したのは在日アメリカ軍のヘリポートでした。大統領専用ヘリ『マリーンワン』は、かつて安倍元総理もトランプ大統領と同乗したヘリで一路、横須賀基地へ。そこで待っていたのはアメリカ海軍の原子力空母『ジョージ・ワシントン』です。マリーンワンから2人並んで下りてきた両首脳。軍人たちを前にまずはトランプ大統領が演説です。
「今後、戦争の際は絶対に勝つんだ。敵国を徹底的にたたきのめす。ただ、戦争なしで済ませるほうがいい。力による平和だ」
そして。
「こちらの女性は勝者だ。すぐ仲良くなった」
トランプ大統領に呼び込まれ、高らかと手を上げる高市総理。喜びをあらわにします。
「日本史上初の女性総理大臣だ」
「インド太平洋を自由で開かれたものとし、地域の平和と繁栄の礎とする決意を新たにしました。私は決意しています。今後、日本の防衛力を抜本的に強化し、この地域の平和と安定により一層、積極的に貢献していきます。そのことにより、トランプ大統領と共に世界で最も偉大な同盟になった日米同盟をさらなる高みに引き上げてまいります」
防衛力の抜本的強化を打ち出した高市総理。韓国メディアではこう報じられています。
「日本の戦後体制の脱却と、戦争可能な正常国家化の歩みが、アメリカの支持の中でさらに加速する可能性が予想される」
ただ、防衛力の強化は財源など一筋縄ではいきません。
(Q.トランプ大統領から日本の防衛費をどの程度増額してほしいなどの提示は)
「今日、特に防衛費の規模感について先方からも話はございませんでした。数字を念頭に置いたやり取りはございませんでした」
巨額の対米投資?企業を紹介
日が暮れると、アメリカ大使公邸の周辺が慌ただしくなっていました。大使公邸にはトランプ大統領に先立って、ソフトバンクグループの孫正義会長や、トヨタの豊田章男会長ら財界人が続々と入っていました。日米首脳による共同会見が行われない一方で開かれた財界との夕食会です。関税合意で日本側が提案した80兆円の対米投資に関心を示す企業が集まりました。
「ソフトバンクのマサさん。アメリカで大規模電力インフラの構築・設計・開発に250億ドル投じます」
すでに決まったことかは分かりませんが、ラトニック商務長官が各企業の投資を次々紹介していきます。
「東芝も大規模電源モジュールや変圧器に最大250億ドルを投じます」
トランプ大統領は関税の圧力が功を奏したと誇らしげです。
「総理と署名した歴史的な貿易合意で、雇用も生んで大もうけしてほしい。署名された民間との合意が商業を大きく成長させる」
“対米投資”の「ファクトシート」
首脳会談の内容も少しずつ見えてきました。レアアースなど重要鉱物について、採掘や加工に日米両国で資金援助をするプロジェクトを選び、供給網を強化することなどで合意しました。
また、日米の関税合意に基づき、日本からアメリカに対して約80兆円の投資を行うとしていました。これに関し、首脳会談後『日米間の投資に関する共同ファクトシート』が発表されました。80兆円のうち、エネルギー分野やAI分野など、60兆円規模のプロジェクトに関する内容が明らかになりました。
【エネルギー分野】
アメリカ企業の事業に日本企業が関与する枠組みが目立ちます。米・ウェスチングハウス社の原子炉などの建設に、三菱重工業・東芝・IHIなどが関与を検討。ソフトバンクグループは、インフラ構築のための設計・開発を行うとしています。
【AIインフラ分野】
東芝・日立製作所・三菱電機・TDK・パナソニックなど日本企業の名前が並んでいて、インフラの供給やサプライチェーンの強化などを目指すとしています。
28日夜に行われたアメリカ政府と日本の企業関係者らが夕食会。その前に、ラトニック商務長官がファクトシートに名前が挙がった企業の関係者の名前を1人ずつ読み上げ、トランプ大統領と握手を交わすという場面がありました。手にしている文書には投資の内容が書かれていて、文書の最後には「本取引の誠実な遂行に向けた強い意志を表明しています」という一文と、ラトニック商務長官と各企業トップなどのサインが書かれていました。
企業トップら“異例”の夕食会
政治部の千々岩森生官邸キャップに聞きます。
(Q.投資に関する書面を交わしたその日に、トランプ大統領自ら、日本企業の関係者と会って握手するというのは、あまり見ないシーンですね)
「これこそ、今回の最大のおみやげと言って過言ではないと思います。夕食会の映像を見ると、壇上にアメリカの大統領と商務長官がいて、場所はアメリカ大使公邸。まさにアメリカ政府主催のイベントですが、水面下で動いていたのは日本政府です。どういうことか。今回、トランプ大統領は日本だけでなくアジア各国を回っています。日本側は、このアジアツアーの最大の目的が、トランプ大統領にとって各国との関税合意だと。言葉を変えると、各国からトランプ大統領が投資やビジネス案件を獲得し、それをアメリカ国内に向けて『オレはこれだけ取った』とアピールすることが狙いだと日本側は読みました。そこで、事前に政府と各企業が調整して“80兆円の投資”の案件の具体化を進めました。夕食会といえば、時の総理がお寿司屋さんや炉端焼きで、大統領をおもてなしするのが恒例でしたが、その夕食会をあえて具体的な投資案件をトランプ大統領にアピールする場に模様替え。今回の日本訪問、影のハイライトがこの夕食会だったと言っていいと思います」
“空母演出”トランプ氏の狙い
トランプ大統領は29日に韓国へ向かい、APECの首脳会議に出席します。そこでも様々な首脳外交が行われる見通しですが、それに先立つ今回の日本滞在。意味はどこにあるのでしょうか。トランプ大統領のサイドを取材しているワシントン支局・梶川幸司支局長に聞きます。
(Q.今回のトランプ大統領の日本訪問で印象的なシーンはどこですか)
「一番印象的だったのは、トランプ大統領と高市総理が空母『ジョージ・ワシントン』を共に訪れたことでした。大勢の兵士を集めて、そこに日米のトップが登場し、肩を並べて演説する。前代未聞のこの演出には“日米同盟の結束”をアピールするという狙いがあるわけですが、念頭にあるのは中国です。トランプ大統領は『アメリカ海軍は世界最強で、武器も含めて追いつける国などない』と豪語し、さらに日米同盟の揺るぎなさを示すことで、中国を牽制した格好です。一方で『中国』という国名を出すことはなく、演説の表現には慎重さも見られました。トランプ大統領にとって、今回のアジア歴訪の最大の目的は、30日に予定される中国・習近平国家主席との会談です。関税やレアアース規制をめぐって正念場を迎えることになりますので、交渉に差し障りが出るような物言いは避けたように思われます。トランプ大統領は28夜、日本の財界人を前に演説し、習近平主席との会談は『うまくいく』と自信を見せました。心はすでに米中のトップ会談に移っているのかもしれません」
(Q.日本の総理がアメリカの空母で大統領と並んで演説するのは異例のことだと思います。日本側の狙いは何ですか)
「一義的には、トランプ大統領に対して同盟の強化を“日本も腹くくってやってます”とアピールする意味があります。ただ、裏に見え隠れするのは中国です。空母に日米の首脳が並ぶ映像を世界に見せる。先月、北京の天安門の上に、習近平主席を中心にロシア、北朝鮮のトップが並びました。高市総理はトランプ大統領との会談で、中国の力による一方的な現状変更の試みに反対することを確認したということですが、あえてアメリカの空母にトランプ大統領と2人で並ぶ映像が世界に配信されることで、抑止力を示す狙いがあると考えられます」




































