政治

報道ステーション

2025年11月1日 01:50

魔法の言葉「戦略的互恵関係」とは“初顔合わせ”高市総理初の日中首脳会談

魔法の言葉「戦略的互恵関係」とは“初顔合わせ”高市総理初の日中首脳会談
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初めての日中首脳会談に臨んだ高市総理。対中強硬派として知られ、中国国内で警戒感も広がっていましたが、何が話し合われたのでしょうか。

“初顔合わせ”両首脳の表情は

韓国で開かれているAPEC首脳会議。アジア太平洋地域の各国の首脳らが集まっていました。当然、高市総理大臣もいます。しかし、その後行われた昼食会に高市総理の姿はありません。こうした舞台では異例のドタキャンです。日中首脳会談を前に必要な時間を確保するためなどと政府は説明しました。

習近平国家主席

先に待っていたのは習近平国家主席でした。

中国 習近平国家主席
「こんにちは」
高市総理と習主席

トランプ大統領に見せた満面の笑顔とは違いますが、少し笑みを見せる高市総理。習主席は表情にほとんど変化がありません。メディアに公開された首脳会談の冒頭。

中国 習近平国家主席
中国 習近平国家主席
「今日は高市総理と初めてお会いします。世界は100年に一度の大変局に直面し、変化が加速しています。国際地域情勢も激しく変動しています。中日関係を長期的に健全で安全に推進するのは、両国の国民及び国際社会の期待に合致しています」
高市早苗総理大臣
高市早苗総理大臣
「習主席とは今朝、APEC首脳セッションの前の控室であいさつを交わさせていただきましたが、こうして初めての首脳会談を行うことができてうれしく思います」
高市総理が投稿した写真

高市総理が投稿した、その時の写真では、習主席の顔も少しほころんでいるように見えます。

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“対中強硬”に警戒感…祝電送らず

「日本の代表的な右翼政治家」。高市総理は中国メディアにそう位置付けられてきました。

高市早苗経済安保担当大臣(当時)
高市早苗経済安保担当大臣(当時)
「台湾が第二の香港になるようなことについては、非常に私は強く懸念をしています」
自民党 高市早苗政調会長(当時)
自民党 高市早苗政調会長(当時)
「日本の国策に殉じて尊い命を捧げて国を守ってくださった方々をいかにお祀(まつ)りし、どのように慰霊をするかというのは、私たち日本人が決める日本国内の問題。これが外交問題になる方が絶対におかしい」

中国が“軍国主義の象徴”とみなす靖国神社に毎年通い、今年の終戦記念日にも参拝をしていました。しかし、秋の例大祭、参拝する議員や閣僚らの中に高市氏の姿はありません。自民党総裁に就任し、総理の座が現実味を帯びたことで参拝を見送った形です。

習主席 祝電を送らず

それでも警戒感をぬぐえなかったのか、習主席は菅・岸田・石破の各総理が就任した時には送っていた祝電を、高市総理には送りませんでした。

『戦略的互恵関係』で“歩み寄り”

その高市総理は所信表明演説でこう話していました。

高市早苗総理大臣
高市早苗総理大臣
「日中首脳同士で率直に対話を重ね『戦略的互恵関係』を包括的に推進していきます」

戦略的互恵関係とは、小泉政権で冷え込んだ日中関係を立て直すため、第1次安倍政権が提唱した概念です。中国はこの言葉に歩み寄りを感じたようです。

中国 習近平国家主席
中国 習近平国家主席
「高市総理は就任後、中国が日本の重要な隣国で、建設的かつ安定的な対話関係を構築する必要性があり、全面的に両国の戦略的互恵関係を推進すると話しました。これは中日関係を重視していることの表れです」

高市総理はこの場でも戦略的互恵関係の推進に触れたうえで。

高市早苗総理大臣
高市早苗総理大臣
「日中間には様々な懸案と課題もございますが、それらを減らして理解と協力を増やして具体的な成果を出していきたい」

約30分の会談で何が話し合われたのか。

高市早苗総理大臣
高市早苗総理大臣
「私から述べましたのは、やはり懸案とか意見の相違があるということは事実です。具体的にもう率直に申し上げました。例えば尖閣諸島含む東シナ海の問題、またレアアースなどの輸出管理の問題、邦人拘束についての懸念、それから中国在留邦人の安全性ですね。台湾に関して先方から少しお話がございましたので、やはりこの地域の安定そして安全というものは、両岸関係が良好であることが非常に重要であると申し上げました」
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中国“レアアース覇権”に「懸念」

会談のテーマの1つとなったレアアース。中国は海外への輸出規制をさらに強化すると発表していて、日本も対象に含まれています。

東京大学 安川和孝准教授
東京大学 安川和孝准教授
「レアメタルとよばれる金属元素の1グループ。パソコンやスマホにも使われているもの」
レアアースの埋蔵量と生産量

主に強力な磁石の原料となり、あらゆる最新機器に必要不可欠です。埋蔵量は全世界の半分近く、生産量に至っては7割ほどを中国が占めています。背景にあるのは、製造過程で発生する放射性物質などの深刻な環境問題です。

東京大学 安川和孝准教授
「環境規制がゆるい形で中国では産出できたので価格優位性を持ち、海外の鉱山がつぶれていった」

他国が撤退するなか、中国はレアアースの生産を国策として進め、独占的地位を築いてきました。

30日の米中会談

30日の米中会談で、中国は輸出規制を1年間見送ると発表していますが、日本に適用されるかどうかは分かっていません。

安川准教授によると、日本近海の海底にもレアアースは眠っていて、開発に向けた調査が進められています。

東京大学 安川和孝准教授
東京大学 安川和孝准教授
「直近数カ月のスパンで見た時、まだまだどうなるか分からない。日本としては非常に良いものを持っているのは確か。その点では希望はある」
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習主席 歴史や台湾問題で要求

習主席

中国国営テレビによりますと、習主席は会談で「歴史や台湾といった重大な問題で、4つの政治文書が定めた明確なルールを守り、中日関係の基礎を揺るがせないよう」求めたということです。

村山談話について

また、村山談話について「日本の侵略の歴史を反省し、被害国に謝罪したものだ」として、その精神が発揚されるべきだと強調しています。

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正式発表は3時間前…なぜ?

今回の日中首脳会談、正式に開催が発表されたのは3時間前とギリギリになってからでした。なぜこのような事態になったのでしょうか。

中国総局 冨坂範明総局長
中国総局 冨坂範明総局長
「中国側が“台湾問題”や“靖国神社参拝”への行動を非常に警戒していたなかで、靖国神社の秋の例大祭に高市総理が参拝しなかったこと、また日米首脳会談でも中国に対してそこまで厳しい態度表明がなかったことが会談実現のプラス要素になったとみられる。ただ、中国側がギリギリまで発表しなかったのは、これまでの警戒感の表れ」

“魔法の言葉”戦略的互恵関係

戦略的互恵関係

もう一つ注目されたのが、会談で話された『戦略的互恵関係』という言葉です。これは個々の問題に終始するだけでなく、共通の戦略的利益のため、粘り強く意思疎通を強め、日中関係の安定を図っていくことを意味した言葉です。

会談の冒頭

会談の冒頭、習主席は「戦略的互恵関係を推し進め、新時代の要求に合致する建設的・安定的な中日関係を構築していきたい」。一方の高市総理も「戦略的互恵関係の包括的な推進と、建設的・安定的な関係の構築という大きな方向性を確認したい」と話しています。

戦略的互恵関係について

この言葉は、小泉純一郎総理時代に冷め切った日中関係のなかで、中国は後を継いだ安倍総理を小泉総理以上に警戒していました。その中国を振り向かせるため、2006年、外務事務次官からの指示で、前の在中国日本大使の垂秀夫さんが考えた言葉です。

2年前、垂さんが報道ステーションに出演した際「日本は“個別問題”を重視する一方、中国は“大きな枠組み”を重視する。その枠組みを表したのが戦略的互恵関係で、安倍総理を対中強硬派と認識していた中国を振り向かせる一種の“魔法の言葉”だった」と話していました。

高市総理に同行取材している政治部官邸キャップ・千々岩森生記者に聞きます。

(Q.31日の習主席の言葉を聞いてどう感じましたか)

政治部官邸キャップ 千々岩森生記者
政治部官邸キャップ 千々岩森生記者
「冒頭の習主席の発言は驚きました。『戦略的互恵関係』『建設的で安定的な関係の構築』という言葉を、高市総理から言われたわけではなく、習主席が自発的に発信をしました。この2つは日本が作り上げたワードですが、最近は中国高官も使うようになってきましたが、習主席から出てくる。それだけ中国にも定着したことに驚かされました。この2つの言葉は表現は違いますが、含んでいる意味は似ています。前向きな関係を構築していきましょうねという言葉が双方のトップから出てきたことはポジティブに捉えていいと思います」
高市総理の握手の仕方
政治部官邸キャップ 千々岩森生記者
「もう1つ注目したのは、高市総理の握手の仕方です。高市総理は普通の握手よりも腕を伸ばして、力を入れてグッと握手をしていた。これは相手に引きずり込まれないよう相手と距離を作る、相手のペースにのまれないようにする握手の仕方です。総理の側近に聞くと表情に加えて、握手の仕方も含めて入念に練習していたといいます」

(Q.会談の成果をどうみますか)

習主席
政治部官邸キャップ 千々岩森生記者
「終わった後、総理周辺に、中国から対中強硬派とみられていた高市総理と会談が実現した理由を聞くと『恐らく中国も日本に言いたいことがあったからだろう』というのを1つ挙げていました。習主席は読み上げるような形を取りながら、中国の立場を伝えていました。高市総理も日本の立場を伝えていた。つまり、お互いが自分の主張を述べ合った。まだ関係性が深まるとか深まらないのフェーズではない、まずはスタートラインに立ったというのが31日の現在地と言えます」
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