支持率絶好調でスタートダッシュを決めた高市内閣。就任から一週間も経たない高市早苗総理を待っていたのは怒涛の外交ラッシュだった。
【映像】高市総理、トランプ大統領との“親密”ツーショット(写真あり)
高市総理は10月24日の所信表明演説で「世界の真ん中で咲き誇る日本外交を取り戻します」と宣言。「取り戻す」とはしばらく失っているからと解釈できる。小林鷹之政調会長は10月28日、日米首脳会談について「パーフェクトに近い会談だった」と評価した。実際のところはどうだったのか。
アメリカのトランプ大統領との会談は、予定の時間を過ぎても二人が現れない事態となった。高市総理は「開始が遅れまして失礼いたしました。今、トランプ大統領の部屋で野球を見ておりました」と発言。
この首脳会談では、高市総理がトランプ大統領に何を物申すのかに焦点が集まっていた。高市総理といえば石破政権時代、トランプ大統領の関税措置をめぐり「陣頭指揮を執っているのが誰かよく私達にも見えてこない」と石破前総理の対応を厳しく批判していた。さらに9月、総裁選で報道番組に出演した際には、日米関税合意に盛り込まれたおよそ80兆円の対米投資について「しっかり物を申していかなければいけない」と再交渉も辞さない姿勢を示していた。しかし、結果として石破政権が結んだ関税合意を進めるという文書に笑顔でサインした。アメリカから譲歩を引き出すことはできなかった。
高市総理は「安倍総理に対する長きにわたる友情に感謝しています」と伝え、トランプ大統領はこれに対し「安倍氏はあなたを高く評価していて、以前から褒めちぎっていた」と応じた。
会談の後、二人が向かったのは米軍の横須賀基地。大統領専用のヘリコプター「マリーンワン」に相乗りした。アメリカ側の大サービスに高市総理のテンションも爆上がりし、自身のSNSには「私の素晴らしい盟友のトランプ大統領と共に!」と2ショットの“映え写真”をアップした。
到着した二人が降り立ったのは原子力空母「ジョージ・ワシントン」だった。トランプ大統領は登壇した際に「こちらの女性は勝者だ。すぐに仲良くなった」と述べた。高市総理は「日本の防衛力を抜本的に強化して、この地域の平和と安定により一層、積極的に貢献していきます」と表明した。防衛費増額を迫るアメリカに対し、日本は自主的に増額に取り組む方針を伝え、トランプ大統領を喜ばせた。
確かに仲の良さをアピールはしたが、通常あるはずの共同声明はなかった。ジャーナリストの青山和弘氏は「トランプ大統領と仲良くするのは『目的』じゃなく 国益を実現するための『手段』」。今回良好な関係に向けていいスタートは切ったが、共同会見や声明もないのは、まだ緒に就いたばかりということ。現状ではあれだけ批判していた石破外交を踏襲したに過ぎない」と分析した。
10月30日、続いて訪れたのは韓国。韓国・李在明大統領との首脳会談が行われた。対韓国をめぐって、高市総理は総裁選ネット討論会で「竹島の日、堂々と大臣が出ていけばいいじゃないですか。(韓国の)顔色を窺う必要はない」と発言していた。また、2013年政調会長当時、靖国神社については「日本の国策に殉じて尊い命を捧げて、国を守ってくださった方々をいかにお祀りし、どのように慰霊をするかというのは、私たち日本人が決める日本国内の問題。これが外交問題になる方が絶対におかしい」と述べていた。
アジア諸国に対して謝罪した村山談話も否定する高市総理に、韓国は反発し警戒していた。ところが、総理就任後初の記者会見で高市総理は「いろいろ懸念があるようだが、韓国のりは大好きだし、韓国の化粧品も使っている、韓国ドラマも見ている」と発言。
日韓首脳会談で高市総理は「日韓関係を未来志向で安定的に発展させていくことが 両国にとって有益だ」と述べ、李大統領は「総理は『日韓関係の重要性はさらに高まっている』『未来志向で安定的に発展させたい』と述べたそうだが、その言葉に全面的に共感します」と応じた。
「『強い外交を取り戻す』と言う一方で、持論は棚上げしてこれまでの外交路線を踏襲。高市総理の姿勢が引き続き問われることになる」(青山氏)
そして、最後の関門は中国・習近平国家主席との首脳会談だった。高市総理は今年4月にも台湾を訪問し、頼清徳総統と会談するほどの親台湾派だ。高市氏が総理が就任すると、頼総統がSNSに祝いの投稿をするほどの仲だ。2013年、中国が尖閣諸島を含む東シナ海上空に防空識別圏を一方的に設定してきた際には「この度の中国側の措置は何ら効力を有するものではない。日本は断じてこれを受け入れられない」と即時撤回を求める決議。習主席は歴代総理には送っていた就任の祝電を高市総理には送らなかった。こんな関係で首脳会談ができるのかと懸念されたが、ギリギリまで調整が行われ、会談が正式に決まったのはわずか3時間前だった。
「中国が首脳会談に前向きになったのは日米首脳会談を受けてから。米中関係に不安がある中国にとっては、日本との関係を一定程度良好に保っておく必要があった。高市総理にとっては幸運な状況だったと言える」(青山氏)
顔合わせから握手の場面では、トランプ大統領のときとは大違いで、笑顔も言葉もない沈黙の10秒間があった。こんな一触即発の空気で首脳会談はうまくいくのかと思われたが、高市総理がSNSにアップしたのは、習主席が珍しく笑顔に見える2ショット写真だった。
習国家主席は「高市総理は就任後、中国が日本の重要な隣国で、建設的かつ安定的な対話関係を構築する必要があり、全面的に両国の戦略的互恵関係を推進すると話しました」と述べた。これに高市総理は「戦略的互恵関係の本格的な推進と建設的かつ安定的な関係の構築という日中関係の大きな方向性を改めて確認したい」と発言。
まるで示し合わせたかのように双方から出てきた「戦略的互恵関係」という言葉は、実は第一次安倍政権で中国との関係改善のために編み出した重要なキーワードだ。高市総理はここでも安倍元総理の後継者というイメージを外交に活用した。これで中国とは仲良くやっていけるのかと思いきや、高市総理は31日会談後「懸案とか意見の相違があるということは事実だ。具体的に率直に申し上げた。例えば、尖閣諸島を含む東シナ海の問題、またレアアースなどの輸出管理の問題」と述べ、中国に対し言うべきことはしっかり伝えたと強調した。
「言うべきことを伝えたのは高市さんらしさを出せたと思う。しかし実際に問題の解決に繋げられるかどうかはまさにこれからだ」(青山氏)
さらに、青山氏は高市外交を「いいスタートだったと思う。なんと言っても運がいい、ラッキーだった」と評する。「こういう日程は事前に決まっていたもので、そこに高市氏が総理になりタイミングが合った。この外交ラッシュとぶつかって、国会論戦より前に外交舞台のデビューを飾れたというのは、本当に高市氏は持っている」。
一方で「準備不足なのはある程度否めないので、日米首脳会談でも共同会見や共同声明がなかったが、良好な関係という意味ではスタートを切れた。ただ、スタートを切っただけで、まだ実績を上げたというには早い。今後この良好な関係でスタートを切ったのを、国益に結びつけられるかどうかが焦点で、まだ緒ついたばかりだと思う」とした。
日韓首脳会談については「竹島問題などに関して、あまり深く突っ込まなかった。韓国側も今、日本と非常に(関係を)良くしたい。李氏も、やっぱり北朝鮮やロシア、中国の脅威は一定だから、日米韓の三カ国の関係を大事にしたいと思っている。そんな時に高市氏もある意味歩み寄ってきたわけなので、お互いの利害が一致した。ただ今後、例えば来年2月の竹島の日には閣僚を出すべきだということになると韓国が間違いなく反発してくる。こういった時に高市氏はどうするのか。この問題は残ったままだ」と語った。
「あとは靖国神社の問題。靖国神社に行くかどうかは、日本国内の問題でこれが外交問題になる方が絶対におかしいと言ってきた。秋の例大祭には高市氏自身が参拝を取りやめたが、そうは言っても、春の例大祭、そして終戦記念日の8月はどうするのかというのは引き続き問われる。高市氏は、一方で保守派も外交的にアピールしたいはず。ただ、それを日中、日韓の関係を守るためにどこまで我慢するのかしないのか、この問題は依然残っている」(青山氏)
日中首脳会談については「中国にとっても米中の関税摩擦はものすごく大きい。レアアースの問題を習近平氏が持ち上げたりして、今アメリカも下手に出ている。ただ、習近平氏は今回の米中首脳会談の中でも、問題は棚上げにはしたけれども、依然米中の関係で緊張している。そんな中で、日本を完全にアメリカ側に回したくはない。そういうタイミングの中で、日米首脳会談がそれなりにうまくいったのを見て、急に会談しようということになった。そういう意味では高市氏にとっては非常にいい環境でできた。これも運が良かった」と分析。
「そんな中で、高市氏は言いたいことを言った。人権問題や尖閣の問題、レアアースの輸出の管理の問題、中国在留邦人の安全確保、北朝鮮の問題、日本の水産物・牛肉の輸入規制問題など全部あげたが、今『言いました』というのでとどまっている。今後、日中間でこういった懸案を本当に解決できるのか。例えば、南シナ海にブイを設置したとか、尖閣諸島に中国の海警や漁民が来るなどの問題が起こった時にどのようにコントロールできるかは今後の課題として問われる。これからが勝負だ」(青山氏)
日米首脳会談がうまくいった理由としては「一つはやはり安倍氏との関係があったと思う。安倍氏が高市氏を総理大臣にと推した事実があり、高市氏もそれを最大限に利用して、今回も安倍氏の使っていた(ゴルフの)パターを贈ったりした。トランプ氏もそういうことをわかっている。考え方も安倍氏に似ているし、保守的な考えの持ち主だということで、うまくいったと思う。外務省も、安倍氏の時に通訳をやっていた人を今回高市氏にもつけて、安倍氏の後継者だということをうまく売り出した」と分析した。
「ただ一方で、今回も日米間の投資の共同ファクトシートをまとめたりした。高市氏は石破氏の外交、特に関税交渉を批判していたが、今回合意したのは完全に石破氏の合意の上に乗っかっている。要はトランプ氏も気に入って合意したわけで、その上に乗った合意をしている。結局準備不足もあるし、期間が短かったのもあって、これまでの外交路線の中に乗っかっている。強い外交を取り戻すと言ってたが、取り戻す行動をとったというよりは、まずは今までの路線の上に乗って、安全運転しながら人間関係を築く作戦に出たのだと思う」
「これから先、本当にいい人間関係を築けたとしたら、今15パーセントかかっている相互関税を日本だけ下げてもらえるのか。80兆円の投資は、もうちょっと日本の国益に叶うようにいろいろ変更してもらえるのか。そういったところに、真の高市氏の実力が問われる。つまり、仲良くすることは手段であって目的じゃない。仲良くすればいいということじゃなくて、仲良くして何か日本のためになって、初めて仲良くしたことに意味があったということだと思う」(青山氏)
(『ABEMA的ニュースショー』より)
