新潟県の花角英世知事は21日、東京電力・柏崎刈羽原発の再稼働“容認”を表明しました。
「昨年の3月21日付で、経済産業大臣から『柏崎刈羽原発6号炉・7号炉の再稼働の国の方針について理解してほしい』と、理解要請の文書をいただいた。この要請については、“7つの項目”について、国の対応を確認し、確約いただいたうえで、新潟県としては、了解することとしたい」
国に求めた安全対策や避難道路の整備など、“7つの項目”のなかには、交付金の対象範囲の拡大も含まれています。
「こうした結論については、これまで、県民の意思を最終的に確認すると申し上げてきた。意思を確認する手法については、私としては、この判断を行ったこと、この判断に沿って、今後、知事の職務を続けることについて、県議会から信任または不信任の判断をいただきたい」
“世界最悪レベル”の福島第一原発の事故から14年。これまで、全国で14基が再稼働してきましたが、東京電力の原発では、初めてとなります。
マグニチュード9.0の巨大地震、そして、想定をはるかに超える15メートルもの津波によって、外部電源を失った福島第一原発。
目の当たりにした原発のリスク。政府は、全国の原発を次々と停止。世界最大級の柏崎刈羽原発も“休眠状態”に入りました。
“安全神話”の崩壊で、原発を取り巻く状況は大きく変化しました。
原子力規制委員会は、“世界一厳しい”ともいわれる規制基準を作成。2017年、柏崎刈羽6号機と7号機が、審査に合格しますが、2021年には、他人のIDカードで重要施設に入ったり、外部からの進入を防ぐ装置が故障するなど、セキュリティ面のトラブルが発覚します。規制委員会から、事実上の“運転禁止”が命じられた状態でした。
2023年の暮れ、“運転禁止”は解除され、残されたハードルが“地元の同意”でした。原発が立地する柏崎市と刈羽村は、再稼働を容認。焦点は、花角知事の判断に移っていました。
花角氏は、7年前、自民・公明の推薦を得て、知事選に初当選しました。
「リーダーとして、船長として答えを出し、皆さんの信を問う。それも考えています。その覚悟がある」
“信を問う”とは、住民投票か知事選か。態度を明確にしない花角知事。その間に、政府のエネルギー政策は、大きな転換点を迎えます。
2022年、政府は、エネルギー危機や脱炭素社会実現を背景として、“原発回帰”を鮮明にします。
今年2月に閣議決定された『第7次エネルギー基本計画』では、これまで明記されてきた『原発依存度を低減』との文言がなくなりました。再生可能エネルギーとともに、原発を“最大限活用する”としたのです。
21日の会見で、花角知事は、これまで、常々、口にしてきた“信を問う”方法について明言しました。
それは、再稼働に伴う予算案を12月の県議会に諮ることで、信を問うたとするという理屈。ただ、いまの県議会は、知事を支える自民党が単独過半数を占めており、再稼働容認にお墨付きを与えるのは、確実とみられています。
一方で、県が行った意識調査では、県全体では、再稼働容認と反対が拮抗。『再稼働の条件は整っている』と思わない人は、6割に上っています。
会見では、東電への信頼について問われました。
「別に私が100%この会社と心中してもいいとか、そういう信頼ということはないが、少なくとも規制委員会は『原子力発電事業を的確に遂行する能力がないとはいえない』と判断している。今度は、不安感とは、ちょっと違う要素があるかもしれない」
先月、県議会で、東電は新潟県に対し、1000億円規模の基金をつくる考えを明らかにしました。県議からは「誠意というより、取引にしか見えない」との声も上がりました。
14年前、福島県から柏崎に避難した石原政人さん。
富岡町で店を営んでいたころは、原発の町への恩恵を肌で感じてきました。
「“働く先”が東京電力が最大のところなので、関連した企業がたくさんありますから、それだけ雇用が生まれます。本当に(原発がなければ)過疎化がひどかったんじゃないか。若い人はみんな出ていってしまう」
再稼働に反対する気持ちはありません。ただ願うのは一つだけです。
「私たちが経験したことを、こちらの人たちが経験してほしくない。本当に安全に運転できることだけを願っているだけです。原発の運転に第三者が入って監視する。そんな体制があればよりいいのかと」
◆日本にある原発の稼働状況です。
現在、全国にある原発は33基。福島第一原発事故のあと、すべての原発が一度停止しましたが、この14年間で、33基のうち14基が再稼働しました。主に福井や鹿児島など、西日本の電力会社が中心で、東日本では、宮城県の女川原発2号機のみ。柏崎刈羽原発が再稼働すれば、東京電力の原発としては、初となります。
新潟の花角知事は、再稼働を容認した理由について「国や東電の安全・防災対策について、県民の認知度が高くなるほど、再稼働に肯定的な意見が増える傾向を把握できた。県民の意見は大きく分かれているが、安全対策などの認知度が上がっていけば、再稼働への理解も広がるのではと判断した」としました。
◆再稼働の動き高まる事情
政府は、福島第一原発の事故後、「原発の依存を減らしていく」としてきましたが、現在は「エネルギーの安定供給や脱炭素社会の実現のため、原子力を最大限活用する」とする方針に転換しました。
また、電力の需給バランスについて、経済産業省は、このような見通しを発表しています。
全国で安定的に電力を使うには、供給の余力を示す“予備率”が『3%』必要とされていますが、来年8月、東京など関東全域が含まれます。東京電力のエリア内では、火力発電所が補修などで停止するため、予備率が、わずか『0.9%』となる見通しです。
さらに、再稼働は、東京電力の経営にも大きく影響しそうです。
福島第一原発事故の賠償や廃炉などにかかる費用が、23.4兆円に上るなか、東京電力は、原発1基が再稼働すれば、年間収支が約1000億円改善するとしています。
◆再稼働へ向けた流れ
花角知事は、12月2日、県議会に再稼働に関する広報費などを盛り込んだ予算案を提出します。関係者によりますと、予算案が可決されれば、年末に花角知事が赤澤経産大臣と面会し、直接、容認を伝える方向で調整しているといいます。
そして、ここからは、東京電力と国の動きになります。東電関係者によりますと、再稼働に向け、行うべき作業があるとのことで、原子力規制庁に最終段階の検査の確認を申請。申請と作業に2カ月ほど時間がかかるそうで、再稼働は、早ければ、年度内となる見込みです。



















