政治

ABEMA NEWS

2025年11月22日 17:30

ロシアから“出禁宣告”の政治学者「海外からは称賛。“あなたも私たちの本当の仲間だね”と」 影響は?

ロシアから“出禁宣告”の政治学者「海外からは称賛。“あなたも私たちの本当の仲間だね”と」 影響は?
広告
1

 ロシアのウクライナ侵攻から3年半あまりが経過したが、世界はいまだロシアを止める手だてを持っていない。各国や地域が取りうる手段は制裁であり、EUはロシアからの液化天然ガスの輸入を来年中に停止することで合意。アメリカもロシアの石油会社との取引禁止など、制裁強化に動いた。

【映像】夫婦で入国禁止に 妻「やる気が出てきます」

 日本も9月、資産凍結の対象とする企業や個人を追加し、ロシア産原油の取引価格を引き下げるなど制裁を強化している。ロシアが取った措置は「無期限の入国禁止」だ。メディアでも知られる東京大学・小泉悠准教授や、慶応大学の細谷雄一教授をはじめ、研究者やメディア関係者など30人が対象となった。

 各国の制裁とロシアの対抗措置は、どんな影響をもたらすのか。『ABEMA Prime』では、入国禁止の対象となった当事者に話を聞いた。

■「今回の制裁リストは相当粗雑」

 慶應義塾大学総合政策学部の廣瀬陽子教授も、今回の入国禁止対象になった。国際政治、紛争・平和研究、旧ソ連地域研究が専門。また、ウクライナ大統領府による和平を考える国際グループの唯一の日本人メンバーであり、ロシアから「望ましくない団体」に指定されている「ロシア後の自由な民族フォーラム」にも参加している。

慶應義塾大学総合政策学部の廣瀬陽子教授

 なぜリストに載ったのか。廣瀬氏は「“ロシア後の自由な民族フォーラム”や、チェチェン亡命政権との関係から、相当にらまれているだろう。ウクライナの和平を考える国際専門家グループのメンバーにも入っている。去年、大規模なサイバー攻撃を個人的に受けたが、その経路をたどると、ロシアからである可能性が極めて高かった」と語る。

 一方で、「私の活動を知らない人からは『メディアでの発言が原因で制裁されたのでは』と心配されるが、制裁リストにはメディアで発言している人があまり入っていない。ロシアはそこに目くじらを立てていない可能性が高い。ロシアの専門家ではない人も入っている」とも話す。

 こうした背景もあり、「今回の制裁リストは粗雑だ。名前の間違いも多く、ある人は2023年の所属のまま書かれていた。かなり古いリストの可能性もある上に、その基準もあいまいだ」という。

 なぜこのタイミングなのか。「ロシアの専門家に聞くと、高市政権の対ロシア姿勢に対するリアクションであるとの見方が強い。高市早苗総理は安倍晋三元総理の後継者を名乗っているため、安倍・プーチン路線の蜜月関係を期待する向きもあった。しかし、高市氏はウクライナ支援に熱心で、ロシアには厳しい姿勢を貫いている。なおかつ、ロシアは中国との連携を重要視しているため、日中関係の厳しさを見て制裁を出したのでは、と聞いている」。

■海外からは称賛「あなたも私たちの本当の仲間だね、ゴールドメダルだねと」

 DENZAI(デンザイ)代表取締役社長CEOの上村浩貴氏もリスト入りした。DENZAIは、クレーンの技術・設置計画の提案や提供事業、重量物輸送事業、風力発電建設事業、橋梁架設・撤去業などを手がける企業だ。2025年5月からウクライナ事業として、キーウでの風力発電建設や、それに伴うクレーンのリースなどを行っている。

DENZAI代表取締役社長CEOの上村浩貴氏

 上村氏は、「ポーランドに居たところ、父親から『お前、ロシア出禁になったぞ』と電話が来た。エネルギー関係のインフラ構築に携わっていると知られての措置ではないか。陸上風力の建設に向けた機材提供や、オンラインでのトレーニング、発言設備の助言などを行っている。4月のキーウ訪問時に、ウクライナのエネルギー省の副大臣と、与党代表との写真がSNSに上がったのも原因になったのでは」と振り返る。

 廣瀬氏は「ウクライナ支援をしている人は、ロシアにとって非常に大きな敵になる。私も去年、ウクライナへ行き、外務大臣らと写った写真が、ウクライナ側のウェブサイトに出ている。当然それもチェックしているだろう」と推測する。

 制裁を受けたことについて、上村氏は「ロシアで事業を行っていないため影響はない」としつつも、「ポーランドの日本企業は『ロシアで事業を行う企業は、ウクライナの復興事業に関わることに慎重になる』と言っていた。『抑止力だ』という反応をする人もいる一方で、『箔(はく)が付いた』と受け止める人のほうが多い」という。

 廣瀬氏は「海外からは称賛の嵐で、『おめでとう』『あなたも私たちの本当の仲間だね』『これであなたの研究は保証された』『ゴールドメダルだね』といったメッセージばかりだ。ただ日本からは『心配だ』『身の安全に気をつけて』といった反応が多い」と明かした。

■「対抗措置は取らないほうがいい」

 今回のような制裁に、日本としてはどう向き合えばいいのか。廣瀬氏は「政府は対抗措置を取らないほうがいい。こちらが強く出ると、またやり返される。ここは大人な対応で、出てしまったものとして扱ったほうがいい」と考えている。

 ロシア側は「経済制裁が解除されれば、エネルギーもあるため、すぐに国際社会に復帰できる」という自信を持っているとして、「戦争終結の条件として、プーチン大統領は制裁解除を強く出すだろう。モスクワ中心部に、六本木のような一流ブランドが並ぶエリアがあるが、そこは賃料を払いながら営業していない状態だ。戦争後を狙って、ドル箱であるモスクワからの撤退を損だと考えている」と予想する。

 情報収集面においては、「ロシアの研究者と直接オンラインで話を聞ける機会はあるが、いつまで続くかわからない。ロシアの研究者も、現地の抑圧により、話すことがおそろしくなっている」として、「ロシアとの隔絶を恐れている」と説明した。

中国の対抗措置 影響は民間にも…

 外交面では、日中関係も無関係ではない。11月7日に高市氏が「台湾有事は存立危機事態になり得る」と発言したことをきっかけに、中国側の怒りは増している。13日に中国外務省が撤回削除を求めるも、高市氏は譲歩しなかった。18日に毛寧報道局長が「根本的な原因は高市早苗総理にある」と、改めて発言の撤回を要求したが、茂木敏充外務大臣は「撤回する必要はない」とした。

 中国の対抗措置による影響は、民間にも出つつある。G20サミットで「日中首脳会談の予定はない」と異例の予告がされたほか、21日に広島市で予定されていた日中友好行事が中止となった。日中両国の相互理解を深めることを目的に、2005年から続いていた「東京?北京フォーラム」も延期され、日本への「旅行の自粛」や「留学の検討」を呼びかける事態になっている。

 上村氏は「台湾で事業をしているが、中国ではしていない」としながら、「中国から定期的に仕入れているサプライヤーに『うちの総理、言い過ぎてごめんね』と冗談を言ったら、笑っていた。『だけど大阪総領事は言い過ぎだ』とも伝えた。我々は携わっていないが、飲食や観光には、中期的に影響が出るのではないか」との感想を述べた。

 廣瀬氏は「向こうの要求をそのままのむと、日本が甘く見られる状況が続く」と予測する。「中国のスタンスをロシアが側面支援している状況がある。今回の問題は、歴史認識が根底にある。ロシアは近年、中国を支えてプロパガンダを流しているが、この波が東アジア全体に広がると厄介だ。それを避けつつ日本のスタンスを維持することが重要だ」。

(『ABEMA Prime』より)

広告