政治

ABEMA NEWS

2025年11月26日 07:00

「存立危機事態になり得る」高市総理答弁に中国猛反発…ジャーナリストが解説「誤解が広がっている」「台湾有事でアメリカ軍と中国軍が争いになれば日本にも影響が起こり得るという意味合い」

「存立危機事態になり得る」高市総理答弁に中国猛反発…ジャーナリストが解説「誤解が広がっている」「台湾有事でアメリカ軍と中国軍が争いになれば日本にも影響が起こり得るという意味合い」
広告
1

 高市早苗総理は就任早々、中国の習近平国家主席との日中首脳会談に挑んだ。そして帰国後、立憲民主党・岡田克也元外務大臣による台湾有事の認識を問う質問に対して、高市総理は「戦艦を使って、そして武力の行使も伴うものであれば、どう考えても存立危機事態になり得る」と発言した。

【映像】30秒でわかる「存立危機事態」の意味(図あり)

 そもそも「存立危機事態」とは、2015年に安倍政権が成立させた安保法制の中で、新しく定義された概念だ。文字通り、日本の存続が危うい事態で、条文では「我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある事態」と書かれている。

 それまで日本の武力行使は、自国が直接攻撃された時に限られていた。それを2015年に安保法制で、他国への攻撃でも日本が武力行使できる「集団的自衛権」へ拡大。存立危機事態になれば、集団的自衛権を発動し、武力行使が可能になった。

 歴代総理は「台湾有事」や「存立危機事態」をどう説明していたのか。安倍晋三総理(以下、いずれも当時)は2015年9月、「他国のために行う集団的自衛権ではなく、まさに我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由、そして幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険があるときに、そして他に手段がない、さらにはその行使は必要最小限度にとどまるべき」と答弁していた。

 岸田文雄総理は2022年10月、台湾有事に関する質問に対し、「我が国の対応は個別具体的な事態の状況によって決まるものであり、現時点で断定的にお答えすることは控えなければならないが、いずれにせよ、憲法、国際法、平和安全法制を始めとする国内法令に従い、具体的な対応を考えていく」と答えている。

 石破茂総理は2024年10月、「台湾有事という仮定の質問に対し、私の認識を含め、政府として答えることは差し控えるが、台湾海峡の平和と安定は、我が国の安全保障はもとより、国際社会全体の安定にとっても重要であり、台湾をめぐる問題が対話により平和的に解決することを期待するというのが、我が方の従来からの一貫した立場である」としていた。

 これらは全てあいまいな答弁だが、「あえて具体的な手の内を見せない」という建前のもと、中国を刺激しない“戦略的あいまい性”をとってきた。しかし高市総理は、台湾有事で台湾の救援にやってきたアメリカが、中国の軍艦から攻撃を受ければ、日本も武力行使でき得ると、戦いに参加するデッドラインを明言する形となった。これに、台湾を自国の一部だとする中国は、他国が手を出してくるのは内政干渉だという立場から猛反発している。

 台湾を独立国と認めているのは12カ国のみで、ほとんどの国は中国に配慮して認めていない。日本は1972年の日中共同声明で、中国の立場を「十分理解」「尊重する」と表明している。

 中国側からすれば、日本は「台湾は中国の領土だ」という主張を尊重する姿勢を示す一方で、もし武力衝突が起き、アメリカが軍事介入した場合には「存立危機事態」参加する。そう見えても無理はない。外務省は中国に金井正彰アジア大洋州局長を送り、「日本政府の立場に変更はない」と説明したが、中国は納得していない様子だ。

 ジャーナリストの青山和弘氏が解説する。「日本は基本的に“専守防衛”で、自分から攻撃してはいけない国だ。相手から何かやられる時だけ攻撃できるため、何かやる時には“事態認定”が大事になる。『この事態は何だ』と法律で認定しないと、自衛隊は出動や攻撃ができない」。

 自衛隊が動く条件として、「映画シン・ゴジラの時はゴジラが敵なのか、国じゃないし、武力なのか、生き物でしょ、みたいなところで混乱するシーンが描かれた。一番簡単なのは“武力攻撃事態”で、日本が攻撃された時、防衛のために出動する。これは構わないとされている」と説明しつつ、「ただ、存立危機事態は、自分は攻撃されていないが、集団的自衛権を使って『どういう時に自衛隊が防衛出動できるか』を決める、極めて複雑な問題だ」と話す。

 高市総理が今回行った国会答弁は「(中国が)戦艦を使って武力の行使も伴うものであれば存立危機事態になり得る」というものだった。これは岡田氏が何度も聞く中で出てきた言葉だが、「非常に荒っぽい言葉であることは間違いない。この前のやりとりでは『台湾が(中国に)海上封鎖されて、それを解くためにアメリカ軍が来て、それを防ぐために中国が武力行使する場合』と言っている。高市総理の答弁では(中国が)戦艦を使って武力の行使も伴うものであればという部分に『アメリカ軍』の言葉が入っていない。ここが今回の問題が複雑になっている理由のひとつだ」と指摘する。

 青山氏によると、存立危機事態の定義には「何重にもブレーキがかかっている」という。「(条文にある)『密接な関係にある他国』はアメリカを想定しているが、アメリカが攻撃されただけではだめだ。例えば北米でアメリカが戦争に巻き込まれても、『我が国の存立が脅かされ』ているか、『権利が根底から覆される明白な危険がある』かに、当てはまらないと思えば、日本の自衛隊はアメリカまで行く必要はないとなる」。

 この前提のもと、答弁を読み直すと、「『台湾に対して武力を行使すれば、存立危機事態になり得る』と誤解している人もいるが、高市総理は『米軍が来援し』が念頭にあったのだろう。『米軍が台湾有事に来て〜』も1つのたらればで、アメリカは『来る』も『来ない』もはっきり言っていない」という。

 その上で、「もしも米軍が来て、そこに中国が武力の行使を伴えば、台湾で米中戦争が起こるため、その時は我が国の存立が脅かされる。隣の与那国島に来るかもしれないし、ミサイルが飛んでくるかもしれない。米軍が来援すれば、中国が日本中の米軍基地をターゲットにするかもしれない。そうなれば、日本人にも『明白な危険』がある事態になって、存立危機事態になり得るという話だ」と解説する。

 「高市総理は、ここまでエスカレートしたら確かに存立危機事態になり得るよね、という一般的な解釈としては常識的な事をいったのだが、これまで、ここまではっきり言った総理はいなかった」ことから、「中国は『台湾有事に日本が自衛隊を出してくるのか。ふざけるな』という話になってしまった。答弁の言い方がわかりにくかったのも一つの原因だ」との見方を示した。

 しかしながら「密接な関係の国」が、アメリカではなく台湾を指していると認識している人も多いのでは?と質問されると「海外では『台湾有事があった時に、日本が(台湾を)助けに行くと言った』との報道もあるが、これは存立危機事態ではありえない。日本は『台湾は国ではなく、中国の一部だ』という、“一国二制度”の考えを尊重しているためだ」。

 あくまで今回の答弁は、「アメリカと中国の間で、台湾海峡をめぐるつばぜり合いが起きた時に、米軍を支援し助けるために、日本も自衛隊を出動し武力攻撃を行うことが想定されるかもしれない」ということだった。「中国は理解していると思うが、言い方があいまいだ。『米軍が』などと言わず、『台湾の問題に首を突っ込むのか』といった怒り方をしている。そこは高市総理が、もう1回ちゃんと説明しなければいけなかった」。

 問題の答弁に対しては、岡田氏が「誰に武力攻撃した場合を言っているのか」と聞き返したが、高市総理は「話をはぐらかした所がある。その前段階で『米軍が来援し〜』と言っていたが、議論が深まらなかった。米軍が来た前提だとしても『存立危機事態が台湾有事の際に発動する』と言えば、(総理が明言する)初めての答弁だったのは間違いない。ただ、ここまで変な誤解を含めて広がることはなかったかもしれない」と解説した。

(『ABEMA的ニュースショー』より)

広告